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西堀は高宮幹雄に背負われて、地下の駐車場まで降りてきた。

「高宮さん。奥さんがみえないようでしたが?。」

西堀は何の気なしに質問した。

「あー。妻は愛が高校生の時に離婚しました。愛は時々会いに行ってるようです。私とは他人ですが愛にとっては母親ですから。海上自衛隊のイージス艦に乗ってまして、艦長候補になるにあたって揉めましてね。」

「そうですか。すいません。つまらない事を聞きました。」

「いいんです。あの娘には両親で苦労ばかりかけてしまって…。ところで、どこに行きます?。」

「この近くにインターネットカフェジュンジュンって店があるはずなんですが?。」

「あぁ。愛の大学時代の友達がやってる所ですね。中島さんですか。名前が変わりましてね。ゴーケアフォーナカジマになりまして。…この車です。ドアを開きます。」

高宮さんはオートロックを解除して、西堀を後部座席に押し込んだ。西堀は寝そべる形で車に乗った。

「中島は大学の後輩になるんです。あとは彼を頼ります。高宮さんは、愛さんと実花さんのそばに居て下さい。Eメールアドレスがあれば教えて下さい。」

「え〜。愛がホームページを持ってまして。確か…。」

高宮さんはダッシュボードの中を探って、名刺を取り出した。

「…。愛の名刺です。これに全部アドレスも書いてあります。」

西堀は手を伸ばして名刺を受け取った。性同一性障害研究家と肩書きが書かれていた。高宮先生と言う呼び名の理由を西堀は理解した。

「車を出しますよ。」

高宮さんは夜の岐阜駅前に車を出した。


高宮さんは旧インターネットカフェジュンジュン。現在、ゴーケアフォーナカジマの階段を西堀を背負って上がり、カウンター前のパイプ椅子に座らせてくれた。

「じゃあ、私は行きます。必ず連絡してください。」

「はい。必ず。」

高宮さんが去ると同時に、奥の事務所から中島勝義(なかじまかつよし)がノソッと出てきた。

「あれっ。西堀先輩。無事だったんですか。会社全滅みたいですよ。」

「間一髪で逃げられた。…すまないがパソコンを使わせてくれ。会社の同僚を救いたいんだ。」

「そりゃいいですけど。なんかひどい怪我してますよ。」

「一応手当てしてもらったから気にするな。でも良かったら肩を貸してくれ。」

中島はカウンターから出てきて、西堀に肩を貸すとカップルシートのブースに座らせた。

「おまえ。店長になったのか?。中島。」

「店長?。そんなもんじゃないですよ。東海3県下に20店舗を展開するゴーケアフォーナカジマの経営者ですよ。これでも。」

「すごいな。相変わらずネーミングセンスは悪いけど。」

「言われちゃうよな、西堀先輩には。何か食べません?。中村屋の奴があるんですよ。」

「悪いな。助かるよ。」

西堀は痛む体を起こして、パソコンを起動した。



能登島のホームページアドレスではなく、暗号の中にあった能登島専用のゲーム内に設置してある、管理用の部屋にアクセスする。アドレスをまず打ち込む。5つ程キーワードを要求され、西堀のモニターはゲーム内に入った。

画面はCGで作られた能登島のアパートの部屋の内部だった。方向キーでグルリと見渡す。

見覚えのある配置でベットやパソコン、テーブルがあった。パソコンに近づくと画面には緊急事態という文字が赤く点滅して表示されていた。その下にクリックとある。西堀はクリックした。画面はIDナンバーを要求してきた。西堀は会社の自分のIDを打ち込んだ。

ー西堀栄一を確認しましたー

と表示された。そして声がスピーカーから出た。

「西堀。後ろを向いてくれ。」

合成された能登島の声だった。西堀は方向キーで画面を回した。CGの能登島が立っていた。

「悪いがこれは本物がコントロールしている俺じゃない。単にバーチャル日本政府内の情報にアクセスできるプログラムだ。これを使ってゲームがどうなっているか確かめてくれ。それから本物の俺がどうなっているのかも判るかもしれない。音声入力のマイクをセットしてくれ。」

西堀は中島にマイクを頼んだ。セットしてマイクに言った。

「どうやる?。」

「そこをどいてくれ。パソコンを使わせてほしい。」

西堀は方向キーを操作してソファーの方に動いた。CG能登島は見たことのある格好でパソコンを操作した。

「よし。くるぞ。」

CG能登島が言うと、ドアをノックする音がした。

「ドアに行って、ノブをクリックしてくれ。」

西堀は方向キーでドアに向かいノブをクリックした。紺の背広を着たCGの男が入ってきた。

「バーチャル日本政府総務省広報部の君武です。西堀栄一さん。よろしくお願いします。」

「いったい何がどうなっているのか教えて欲しい。」

「質問が漠然としていますが?。現在のゲームの状態でしょうか?。」

「じゃあ、まずそれから。」

「現在はエントリーの再開を行っています。ゲーム自体は一般のウイルスと軍事用のウイルスとで攻撃されていますが、人免疫型の抗体プログラムが機能して、防御に成功しています。繋がっているホームページは残念ながら軍事用ウイルスのコントロール下に落ちました。ただし破壊されていません。むしろ一般のウイルスを排除し維持させようとしています。」

「軍事用ってのは、どこの国のウイルスかわかります?。」

「その判別はできませんが、ウイルスの侵入の仕方に特徴が見られます。ダブルウイリアムズと言う名の元ハッカーの特徴が顕著です。彼は現在、アメリカ合衆国の協力者になっています。」

「じゃあ。ゲーム内にアメリカ合衆国の協力者はエントリーしてます?。」

「アメリカゲームサイトランキング トップ10に入っているゲーマー、そのまま10人が最初にエントリーしてます。彼らのPCのGPS位置はペンタゴンと判明しています。」

「なんでそんな事が判るんだよ?。」

「この10台のハードウェアはゲーム開始48時間前に、ペンタゴンに搬入されている事を突き止めました。」

「つまり。裏と表から攻めて来てるわけか。…狙いは何だろう?。」

「テッド マクシミリアン氏の遺産と見られます。」

「アメリカが市民の遺産を?。」

「チャットで交わされている会話を解析した所。テッド マクシミリアン氏の遺産の中に、アメリカ政府にとって都合の悪い情報が含まれているらしいと分析しています。それが何かは判明していません。」

「そんな分析ができるのか?。やりすぎだろ能登島。」

「ゲーム内死亡プレイヤー調査プログラムを緊急事態発動により流用しています。」

「個人がアメリカに対してか?。そりゃ部屋の中身ごと持ってかれるわけだ。」

「能登島管理者のGPS位置は、ほぼ確認しています。」

「無事なんですか?。」

「神奈川県の米軍座間キャンプ内にある建物の地下に生存を確認しました。アルカイダの暗号ファイルの中に、そのレポートを見つけました。」

「そんなもんにアクセスするなよ。会社が襲われても不思議じゃないよ。」

「ニューグリップタイヤ株式会社の社員47名は、現在横須賀基地の護衛艦内に収容されています。あと2分で出航予定です。」

「なっ…。どこに?。」

「太平洋上で待機する任務を受けています。」

西堀は集中力を高めようとして黙った。

「能登島管理者とアクセスを希望されようとしていますか?。」

「…。君武さん。あなた優秀ですね。リアル日本政府に売り込みたいくらいですよ。」

「ありがとうございます。で?。希望されますか?。」

「もちろんお願いします。」

「能登島管理者は、おそらくアメリカ政府に強制されて、バーチャル日本政府が確保しているゲーム管理システムを奪おうとしてきます。今いるこの管理用の部屋は、どうやら隠蔽に成功したのでしょう。通常のエントリーでゲームに入ってきてます。現在、バーチャル日本政府内閣総理大臣石川保(いしかわ たもつ)に面会を求めています。」

「石川保って石川部長じゃないか。」

「はい。モデルはリアル石川部長です。」

「なんかコンプレックスでもあるのかな。よりによって石川部長とは…。」

CG能登島が画面の外でしゃべった。

「エントリーしているプレイヤー能登島と接触するのが最優先事項だ。」

「どうやるんだ?。」

「こっちは君武さんを確保している。バーチャル首相官邸で接触できる。」

「それは可能です。」

「この西堀栄一はどんな状態なんです?。君武さん。プレイヤー。管理者?。」

「管理者は能登島管理者のみです。あなたはプレイヤーでもありません。ゲーム内ではナッシングキャラクターになります。つまりバーチャル日本政府関係者にはモニターに映りますが、そのほかのプレイヤーのモニターには映りません。」

「つまり、アメリカ政府の裏と表のドリームチームに気づかれずに動けるわけだ。」

「ただし。現在あなたのいるPCの場所を襲撃されたら場合、我々は何もしてあげられません。できれば、こまめな移動をお勧めします。」

「なるほどな。」

西堀の背中を冷たいものが走った。

「後輩ってのは持っとくもんだな。20店舗の社長の後輩は特に。」

CG能登島の言葉に、西堀は冷静さを取り戻す事ができた。


ー次話 第5面につづく





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