ー第2面 クライムズ
第2面 クライムズ
ソフトウェアをいじくった事で生じた8時間を使って、能登島はクライムズのプログラムを始めた。
ゲームの概要はこんな感じだ。
日本列島の南海上、父島母島の近海に海底火山の爆発で新島が隆起。強烈に高さを増し、チョモランマの標高を上回り、9千メートルジャストの世界最高峰となった。この新世界最高峰新K−0ノトジマ峰の初登頂を目指すのがゲームの目的となっている。ただしゲームのスタート時は、この新島は噴火中で登る事ができない。海底火山のデータを元にしているため、能登島でさえいつ噴火が終わるのかわからない。またゲーム内のバーチャル日本政府が、いつ島への上陸と登山を許可するかも、過去の日本政府の対応をデータ化して元にしているため、外部からのコントロールはきかないようになっている。ゲーム内部でプレイヤーはバーチャル日本政府と闘わなければならない。また、日本政府の許可を得ないで登る事も可能になっている。この場合はバーチャル自衛隊と交戦可能だ。プレイヤーが、例えばアメリカ人であれば、バーチャルアメリカ政府を市民運動で動かし、アメリカ軍を投入する事も可能になっている。もちろん政治的圧力をかける方法もある。ただし、こういった非合法で暴力的な方法は他のプレイヤーが団結して阻止する事もできる。では、少なくとも噴火が終息
するまでプレイヤーは何をするのか?。登山技術の修得と資金集めやスポンサーの獲得、さらに登山に必要な資材集めや開発などをするようになっている。ゲームスタート時に、名前や性別の他に国籍や現住所、声紋データ、アクセス端末の個体識別番号も要求される。それによってプレイヤーのゲーム内国籍が決定され、その国内てプレイが開始される。国外でプレイする場合は旅行費用やパスポートをゲーム内で用意しなければならない。スタート時、生活費しかまかなえないアルバイトをしているプレイヤーは、自国内で資金集めからスタートしないと、自国の山に登って登山技術の修得もできない。また、登山技術の修得にはリスクがある。山で死亡すると2度とゲームに戻れない。エントリー時に要求された個人情報をチェックされ、ゲーム内死亡と認識されてあなたは死亡していますと言われてしまう。再エントリーにはPCを変え、ゲームにエントリーしていない友達の声紋データと住所と名前を借りなければならない。しかし、プレイヤーはマイクの音声入力によって会話しなければならない。自動で声紋チェックが行われ、クロと出れば、再びゲーム内から追放されてしま
う。架空の個人情報も自動で外部とアクセスして同じ事になる。フェアにプレイしないプレイヤーには、非情なゲーム中断とセーブデータ消去が待ち受けている。また、バーチャル日本政府は日本国籍のプレイヤーを優先してくる。外国籍プレイヤーは、このアンフェアを自国政府を動かして是正しなければならない。言ってみれば、ゲーム内はアンフェアに満ち満ちている。しかしそれをプレイヤー達が正してゆく事が可能になっている。そして登山自体がどうなるのかわからない。山はまだ形成中で地図のつくりようがない。
このクライムズのテスト版は、ホームページ上で公開されていて、登山出来るようになったバージョンも公開されている。会社の同僚やネット上の知り合いには、その自由度に関する評価は高かった。海外の日本語がわかる人達もこのゲームの評価は高かった。ゲーム内に通訳や翻訳者が設定されていて、彼らによって日本語が解らなくてもバーチャル日本政府と交渉ができる点などが評価された。
ただし、プレイヤーのほとんどが、わがままにプレイした場合に、世界大戦にまで発展してしまう部分には批判と危惧が集中した。能登島はそれに対して、゛ゲーム内で自分達の愚かさ加減を体験するのも大切だと゛コメントした。
批判は収まった。ゲーム内で戦争が起こって、プレイヤー達が死亡すればゲームから排除されてしまうのは明白だからだ。平和でなければ登頂は不可能なのだ。そして不特定多数が参加できるこのゲームは、平和を保つ事が困難になると予想されていた。とんでもない奴らは必ずいるからだ。彼らがゲーム自体をハッキングする可能性もある。能登島は自分で考えた対ハッキング用のファイヤーウォールをゲーム内に置いた。そのファイヤーウォールこそがバーチャル日本政府だ。アンフェアに対する死刑執行人とも言うべき、このバーチャル日本政府が機能するかどうかが能登島の最大の関心事だった。そして完全に機能する事によって、ゲームは現実の世界に飛び火してゆく。しかしながら、アメリカの大富豪テッド マクシミリアンがこのゲームのテスト版をプレイしてなければ、能登島の仲間だけの単なるゲームに過ぎなかったのだが…。
第3面につづく