ー第22面 バックホーム
ー第22面 バックホーム
西堀は軍医に肩を貸してもらいながらドアの外に出た。
外には平警視総監 高宮親子 椎名 白根 横山 司老が待っていた。
「高宮さん。すいませんでした。こんな事に巻き込んでしまって。」
そう言う西堀に、高宮も娘の愛も気にする事は無いと言う顔をしていた。
「良いんです。私は元防衛庁の人間で、これほど派手ではないんですが、省庁間や海外との騒動は何度も見て来てるんですよ。何度やっても懲りる事を知らないんですよ。国家組織というものはね。」
「でも…7階の部屋は飛び込まれて銃撃戦になったって、軍医に聞きましたが… 。」
「まぁ。南3佐が最初から見越して、部屋の中の物をここに移動させてた訳ですから、いまさら驚く事もないでしょう。」
西堀は高宮さんの懐の深さに驚くしかなかった。
「西堀さん。これからどこに?。」
高宮先生がケガをいたわるように聞いた。
「軍医に岐阜大学病院に連れて行ってもらいます。多分入院になると思います。」
「病室が決まったらEメールして下さいね。お見舞いに行きます。」
「我々も寄らしてもらいますよ。連絡していただかなくとも、こっちで調べて行きますから。」
白根が笑いながら西堀に言った。
西堀は美花を見た。
「美花さんは、どうするんです。」
美花は疲れ果てていた。危うく射殺される所だったのだ。しかも狙いをつけられてだ。仕方ないと西堀は思った。
「…ノト君が解放されるはずなんだけど。まだ、どうなるかわからないから。平警視総監と神奈川に行って、待機です。」
高宮先生が美花を抱き寄せた。まだ能登島と美花の悪夢は終わっていないのだ。西堀は忘れていた事に気づいた。
「そう言えば、うちの会社の社員はどうなるんです。」
平警視総監が言った。
「巡洋艦は横須賀に入ったそうだ。チャーターしたバスで会社に戻る事になっている。…椎名さん、そろそろ我々は能登島の所に向かいましょう。」
椎名は高宮先生に小さく手を振って、平警視総監のうしろについて歩き始めた。
「美花さん。能登島によくやったって、西堀が言ってたって伝えて下さい。」
美花は振り返って笑った。
「西堀さんも頑張りましたよ。」
「それを言うなら美花さんも。」
「えぇ。お見舞いに行きますね。ノト君と。」
美花は廊下の角に姿を消した。
最後に白根が、西堀と軍医を見送った。
横山が白根の前で、直立不動で敬礼した。
「どうした横山?。」
「はっ。プロの警察官の仕事を見せていただき、ありがとうございました。」
白根は司老を見て苦笑いを送った。
「横山。違うぞ。プロの警察官の仕事ではない。プロの人としての仕事だ。警察官はあんな事をしてはいかん。」
「はい。」
そんな横山を見て司老が言った。
「でも。あんな事をしない奴は電犯課2部には必要ない…でしょ?。部長?。」
「そのとおりだ。人でない者に電犯課2部の仕事は勤まらん。よく覚えておけ。」
「はい。」
白根は横山を頼もしく感じた。
「よし。司老 横山。疲れている所すまんが次の任務だ。1時間前に中部国際空港に元KGBのニコライスキーが降りた。3班がすでに張り付いてる。すぐに応援に入れ。」
「了解しました。部長は本部に戻られますか?。」
司老は白根が南3佐との格闘で右肩と右足首を痛めた事に気づいていた。
「馬鹿モノ。星が近くに居るのに、東京に行ってどうする。」
「ならばテーピングさせて下さい。動けるうえに悪化させないようにできます。」
「そうか。横山。先に行け。後から追いかける。」
横山が走り去った。
「司老。どうしてわかった。」
足首にテーピングしながら司老は白根を見ずに言った。
「刑事ですから。」
「馬鹿野郎。」
司老はさらに右肩にもテーピングをほどこすと、白根と共に横山を追った。
それと入れ替わりにCIAの要員がこの騒動の原因を運び出す為に入ってきた。長い1日が終わりを告げ、新たな長い1日が始まりを告げた。
ー第23面 キャンプ座間 正面ゲートにつづく