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ー第21面生還への70m



ー第21面 生還への70m



南3佐の両脇ななめ後ろで、2人の副官も西堀と高宮親子、司老と横山を威嚇している。

美花は仕方なくプレイヤー美花を斜面にビバークさせ、ゲームを抜けた。8千900mでは1秒長くいればそれだけで死亡する確率が高くなる。自分のツキを信じる以外にすることは、この命令馬鹿の3佐の前で美花は思いつけなかった。

「素直に従っていただいて助かります。他の皆さんもも同様にお願いします。いざとなれば、椎名さんを射殺する権限を持っています。」

「日本人だろ。アメリカの手先になるのか。」

西堀は両手を上げて言い放った。南3佐が美花を撃つつもりである事を西堀は感じとっていた。

「アメリカの為ではありません…日米の為です。」

南3佐は美花に引き金を絞った。西堀は後ろから美花を押し倒しておおい被さった。

初弾は西堀の頭の横で唸りを上げてかすめた。2弾目をかわす術はなかった。

西堀は現実の死を覚悟した。



白根は開け放たれたドアの外で銃声を聞いて動いた。頭のライトを外してドアの中に投げ入れた。

南3佐が体ごと振り返った。体を低くして突っ込み、銃を持っている右手をつかみ体を入れて、柔道の一本背負いに持っていった。南3佐も兵士で格闘の訓練は受けている。返し技に持っていったが、白根の方が上だった。さらに、それを返して南3佐を転がしながら、倒れている西堀と美花の前に南3佐を盾にして立った。転がり込む間に南3佐のブーツに仕込んであったナイフを抜き取り、首筋に押し当てた。

「言わなくていいと思うが…動くな。」

白根は副官の2人に向かって威嚇した。

副官は銃を床に落とした。

「司老も横山も、銃をとろうとするなよ。この2人はプロだ。」

白根は手詰まりを感じた。南3佐を抑えている為白根は動けない。素手とは言え2人のプロに対して4人の素人に刑事が2人…無傷では済まない。部下の10人は廊下で他の自衛官を牽制している。


ドアから数人が入ってくるのを白根は見た。

「来るな!。手を出すんじゃない。」

白根はジリジリする思いで心臓が躍った。

「白根。そこまでだ。ナイフをはずせ。」

平警視総監が軍服を着た人物を従えて言うのが見えた。

「こちらは陸上自衛隊栗林幕僚長だ。日本政府は、今回の日本国内でのアメリカ政府機関の活動に対して協力しない事を決定した。」

栗林幕僚長がそれに続けた。

「それを踏まえて、防衛省は南3佐の特殊作戦の終了を決定した。南3佐、ご苦労だった。」

白根はゆっくりとナイフを首から外して南3佐に渡した。

「白根刑事部長は、今の部署に就かなければ柔道の日本代表になっていた逸材だ。彼に抑えられても恥ではないぞ、南。」

そう栗林に言われて南3佐は道理でという顔をした。

「南3佐。これより日本国民救出の為に、防衛省は全面協力する。椎名さんをゲームにお返ししろ。」

西堀は白根に抱き起こされながら、このカメレオンのような連中は何だろうと思っていた。

美花は西堀が上から居なくなると、素早くパソコンに戻った。ゲーム内の時間は止まらない。初登頂しても生きてベースキャンプに戻らなければ、遺産は手にできない。

西堀は栗林に向かって質問した。

「私の会社の仲間がアメリカ側に拘束されてます。なんとか救いたいんですが?。」

「西堀さん。アメリカ政府は椎名さんが手にする遺産と引き換えに、全員の安全を保証すると日本政府に約束しました。あなた方はそのつもりかと思いますが?。」

「えぇ。そのとおりです。でも…なぜアメリカは、その交渉に応じたんです?。」

平警視総監が答えた。

「山際 厚というジャーナリストが、現大統領の対立候補だった人物がロシアの特務機関員だった証拠をつかんだんです。1時間前にその証拠のコピーをダグラス上院議員とアメリカ政府に、日本政府を通じて渡されたのです。その結果、選挙の不正は不問に付される事になりそうです。そのかわり、選挙不正の隠蔽の為に被害を受けた人々の現状復帰を行う事をアメリカ政府が約束するという事になりました。」

その話を背中で聞きながら、美花はモニターを見つめていた。12時45分プレイヤー美花は9千mジャストの頂に立った。氷が張り付いた小さな岩が頂上だった。その岩に立つと眼下の雲がちぎれ始めて、その下の太平洋が現れた。太陽にきらめく波のもようが9千m下で揺らめいていた。

「ノト君らしいね。こんなの…きれい。ありがと。大好きだよ。無事でいて。」

部屋に居る全員が、その言葉にモニターを見つめた。


「美花さん。降りないと。」

西堀が我に帰って言った。

美花は下山をプレイヤー美花に始めさせた。しかし、軽い高度障害がいつ中度に変わるか…やはり上に居る時間が長すぎた。アタックキャンプに20mの所で中度の高度障害に変わった。速度が落ち凍傷までも中度に上がった。なんとかアタックキャンプに転がり込んだ。この状態で下山すれば、キャンプを出た瞬間に重度の高度障害になり動けなくなって終わる。しかし、キャンプにはアメリカドリームチームの面々が待ち受けていた。

高度障害でBCにいた15名が回復して美花のアタックに登って来ていたのだ。

ー椎名さん。あなたを死なせはしませんー

ドリームチームは美花を交代で背負って一気に山を下った。17時20分に美花はベースキャンプに生還した。ベースキャンプのモニターの中にお祝いのメッセージがスクロールしていた。ドリームチームのプレイヤー達に、プレイヤー美花は祝福のキスと握手責めに合っていた。その様子をモニターの中に見ながら、美花は何度も敵だった彼らにアリガトウを繰り返した。

同時に美花が操作していたパソコンにデータが送信され始めた。平警視総監がゲームの終わりを宣言した。

「それが、アメリカ政府に渡すテッド マクシミリアンの遺産のリストデータです。我々は見ない事になっている。全員ここを出ましょう。CIAがこのパソコンを運びだせば、この悪夢はすべて終わりです。」

西堀の小さなため息が美花の胸に響いた。


ー第22面 バックホームにつづく





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