ー第20面 頂上直下
ー第20面 頂上直下
プレイヤー美花は7千900mのアタックキャンプを出た。持っているのは1食分の食糧。アタックに戻れなければ、プレイヤー美花はゲームから排除される。
雪は小降りで、風速は0m。7千900mからは雪田になっていて高度障害以外に危険はほとんどない。ドリームチームの3名も同時に出たがアタックキャンプが200m低い為に高度をかせげない。
時間が7時 8時 9時 10時 11時で頂上まで100mに迫った。
ドリームチームはすでに10mまで距離を詰めて来ていた。
両者共に、ここで格闘する余力はない。ドリームチームは美花に追いついた。最後尾に自動追尾モードになったプレイヤー能登島が無表情で美花を抜いていった。美花になすすべはなかった。士気が同じなら人数の多い方がスピードで勝る。ドリームチームの勝利は間違いないかに見えた。
…しかしドリームチームは、あと50mの所で左側から予期しないプレイヤーに遭遇した。
老人だった。老人はザイルで繋がったプレイヤー能登島を両手で突き飛ばした。最後尾のプレイヤー能登島は自動の為バランスをとらず斜面に滑落した。引っ張っられた上の2人も転倒するが、ピッケルで制動をかけて滑落を止めた。
しかし老人は最後尾の能登島を持ち上げて下に投げようとし始めた。先頭のプレイヤーが英語で絶叫した。美花のモニターに直訳の字幕スーパーが出る。
ー時間の流れが速すぎだな。戻そうー
1時間が1分のゲーム内時間がリアルタイムに減速していった。この老人はゲーム管理システムに全面アクセスしていると美花は感じた。
ーあなたは誰ですかー
ー私ですか。私はテッド マクシミリアンですー
ーなんだって。テッドは死んでいますー
ーCIAの皆さんは 私のPCを捜しているんでしょ。私はCPUテッド マクシミリアンですー
ーすぐに場所を割り出しますよー
ー間にあわないですね あなた方はゲーム内死亡ですー
テッドがプレイヤー能登島を下に向かって投げた。
上の2人もこらえるものの、耐えきれず引きずられてゆく。先頭に居たプレイヤーがテッドの足首をつかんだ。
ーアメリカを潰すつもりですかー
ー民主主義を破壊する選挙不正を見過ごすのならアメリカが存続しても意味がないー
ーそれによって どれだけの被害が出るかを あなたは考えないのかー
ーワシントンDCの連中が困るだけだ 彼らは そこに居てはいけないのですー
ーそれなら聞きます ロシアの特務が大統領になっても良いのかー
ーそれは証拠を揃えて国家反逆罪で処理すべきだ やり方が違いますー
ー間に合わなかったのですー
ー間に合わなければ、ルールを破って良いのですかー
ー非常事態ですー
ーそれならば 民主主義という おとぎ話は止めたらどうですか 非常事態のたびにファシズムに変更されるなら ずっとファシズムでいれば良いー
ー世の中は融通性という概念がなければ物事は動かないー
ーならばルールなど有って無きではありませんか ルールを破った者は責任をとらなければならない 大統領は選挙不正の責任をとる事で民主主義を保たなければなりませんー
「やめて!!。」
美花はこの会話を止めさせたかった。
「どっちが正しいかなんて、どうでもいい。あなた達が争う事で、何人が誘拐されたの?。それから銃を持ったJ部隊とかが西堀さんを殺そうとした。私の大切な人は殺されるかもしれない。あなた達はいつもそう。何十万人死んでも、仕方ない正義の為だ。被害者を出さない正義はないの?。主義なんてどっちでもいい。罪の無い人が殺されない世の中を造って。私達を意地とくだらないメンツのぶつかり合いで苦しめないで。殺されるなら納得がいく理由で殺して。それで世界が助かるなら、私はいつだって死んであげる。でも、あなた達の為になんか死んであげない。ひとつの命も渡さない。ノト君の命も渡さない。渡すもんですか。」
美花の頬に涙が流れ落ちた。こんな連中の為にと思うと、くやしくて くやしくて仕方なかった。ドリームチームもCPUテッド マクシミリアンも沈黙した。
直訳の文字が表示された。
ーお嬢さん 確かに我々はそうした人々に配慮が無い事は認めよう ならば このCPUテッド マクシミリアンは このアメリカチームと共にゲームから退散しよう お嬢さんの大切な人が無事に戻ってくる事を神に祈りますー
ー何をするつもりだー
ー引き時だよ CIAもー
足首をつかまれていたCPUテッド マクシミリアンは斜面に身を躍らせた。
4人はからまりながら落ちてゆき、次第にスピードを上げていって数百メートル下の斜面で停止した。4人は動く気配はなく、しばらくして消えた。ゲームから排除されたのだろう。美花は、あとは登るだけだった。あと70mを上がり始めた。
がっ。
今度はゲームの外でトラブルが発生した。
「椎名さん。とりあえずゲームから抜けていただきたい。」
入り口を見ると南3佐が拳銃を構えて美花を狙っていた。
ー第21面 生還への70mにつづく