ー第16面プレイヤー椎名美花
ー第16面プレイヤー椎名美花
プレイヤー美花は、ゲーム内で現実と同じプログの仕事を選択し、山登りの文章を打ち込んでいた。これにスポンサーがつき、登山の為の費用や道具は提供される形になっていた。
登山技術のパラメーターは、基礎トレーニングをやらずにリスク覚悟で山に登り、ゲーム内プレイヤー最高のレベルを真にもぎ取っていた。奇跡のように危険を回避してゆく様子は高宮先生の目にも、見事と言うほかなかった。
「ノト君のトラップは独特のリズムがあるの…20パターンあるんだけど、それにも法則があって、集中してれば読み切る事ができるの…。」
美花はそう説明した。
アメリカドリームチームはアメリカ政府に所属する形で美花を追っていた。
プレイヤーは200兆ドル以上と言う遺産のせいで、10万人に達して新しくエントリーする事が出来なくなった。この10万人が美花に注目していた。アメリカドリームチームが勝つより、日本の女の子が勝つ方がよほど面白いと誰もが思った。
おかげで登山隊を組む為にメンバーを選ぶ苦労はなくなった。よりすぐりのゲーマーが集まってきて、美花はその中から自由に選ぶ事ができた。しかし裏切りの可能性は消すことができない。最終的に初登頂を奪われれば失敗になってしまう。
美花は単独登頂に決めた。しかしBCに隊長が居ないと5000メートル以上の山は登れない。西堀がゲームをやれる状態ならいいがと美花は思っていた。後ろで治療は続いている。
美花は東京に移動してバーチャル日本政府の首相官邸を訪ねた。現実とは違いアポなしでも問題ない。
入口の警備員にゲーム内IDと目的を告げると門まで君武さんが出てきた。なに事もなく官邸に案内された。
「で。何をしましょう?。」
部屋に通るなり、君武さんは聞いてきた。
「噴火を止めてください。出来るだけ早く登頂したいんです。」
「なる程。それは当然の要求ですが、我々には噴火をコントロールする事ができません。別のプログラムで動いています。」
「そのプログラムをコントロール出来ればいいんでしょ?。」
「管理者能登島が出来ないように作ったようです。」
「ゲーム管理システムにアクセスさせて下さい。これはゲームを守る事になります。けっしてゲームを破壊する目的ではありません。」
「なる程。微妙な話ですね…。確かに我々の目的と違わない。やれるかどうか美花さん自身が試してみますか…。」
「ぜひ。」
「では総理大臣執務室に行きましょう。」
君武は美花を伴って総理大臣執務室に移動した。
石川総理は美花を快く迎えた。
「では、こちらの奥の部屋にどうぞ。」
石川総理は壁のスライドドアを開いて、美花を促した。
そこにはパソコンがあり、モニターをクリックすると、マウスで打てるオンボードキーボードが表示された。
総理が言った。
「あなたの目的を打ち込むだけでいい。ゲーム管理システムがフェアと判断すればアクセスできる。アンフェアと判断すれば、あなたはゲーム内死亡になる。一発勝負です。やらないという選択も出来ますよ。」
「厳しいですね…。」
「ゲームとしては珍しい。しかし現実の世界では一発勝負なんて普通に有るんじゃないですか?。」
「そうですけど…命に関わるなんて、そんなに有るわけじゃないです。」
美花は少し能登島をうらむ気持ちになった。
「では。私は外に出ます。ドアが閉まったら開始して下さい。止める時は、ドアに近づいてドアを開ければ止められます。ただし再入場は出来ません。」
「はい。」
美花の返事を聞くと石川総理は出ていった。
「なんだ。なんだよ美花。CPUがフェアだと判断するのは…。ゲームを守るため?。でもゲーム管理システムをプレイヤーが操作するのはアンフェアだよ。でも噴火を止めるのはどう?。準備ができてないプレイヤーにはアンフェアじゃない。ゲームの外で暴力をはたらいてる人が勝つのはアンフェアだよ。でも…ゲームの外の事はCPUは関係ない…。どうすんのよ…。」
後ろで声がした。
治療を受けている西堀の声だった。
「愛する人の命を救いたい。で充分だ。これ以上フェアな話しはあるか?。」
美花は西堀を振り返った。
「そうだね。アンフェアだなんて…誰にも…CPUにも言わせない。」
美花はオンボードキーボードに打ち込んだ。エンターキーをクリックすると、判断中の文字が出て、0から100%のバーを赤色の帯が横に動いて20%ぐらいで止まった。
部屋に居る高宮親子も、司老も横山もじっとモニターを見つめた。西堀はソファーの上で、上を向いて目を閉じている。
軍医は傷の治療を終えて西堀に言った。
「右足は完全に折れてはいませんが、ひびが入っている可能性ありです。ヒートセットギブスで固定しましょう。」
「それはここでやれます?。」
「出来れば処置室の方に移動していただきたい。」
「今、クライマックスに入ってるんで…お忙しくなければ待っていただきたいんですが?。」
「いいでしょう。私も同感です。」
軍医はモニターを振り返って言った。
ー第17面白根 登出動につづく