ー第15面ギフタワーマンション
ー第15面 ギフタワーマンション
西堀はひといきPAに降りてきた電犯課のヘリの荷物室に乗っていた。吊り下げ式のベッドの上で、司老刑事が無線でやりとりするのを聞いていた。
大友は撹乱の為に別の刑事を乗せて三重県方面に走って行った。
無線から白根と名乗る相手の声が聞こえた。
ー向こうに着いたら身柄は防衛省に渡さなければならん。しかし西堀から離れるな。こちらの重要参考人だから離れるなと言われていると言え。それは防衛省側も了承しているー
「ヘリは屋上で待機を?。」
ーいかん。すぐに離れさせろ。給油後に上空で待機だー
パイロットは無線をヘッドフォンで聞いてうなずいた。
「他に注意する事は?。」
ー防衛省の内部はアメリカ寄りと国内寄りに分裂している。これから行く、ギフタワーマンションの地下施設の責任者はアメリカ寄りだ。南3佐と副官2人に気をつけろ。それ以下の階級は、こうした分裂と関係していない。この3人を押さえれば問題ない。まだJリーグ部隊はギフタワーマンションの事を嗅ぎつけていないが…時間の問題だ。出来る限り南3佐を制してJリーグ部隊に備えろー
「ハリウッドスターでもないのに…そんな事できますかね?。」
ーハリウッドだぁ?。あんな田舎芝居なんて目じゃないぞ。きっと北野たけしが映画にしてくれるぞ。ー
「ギャグ満載で?。」
西堀も横山もパイロット達も笑った。
ーいいぞ司老。その意気だ。ひとりも犠牲者を出すな。両手両足失っても生きて帰ってこい。命令だ。ー
「あなたの部下で命令に従わなかった者は居ますか?。」
ーおらん。だが、おまえが一番目にやりそうだ。ー
「任せて下さい。」
ー了解した。良い報告を待っている。ー
無線は切れた。
司老は西堀を振り返った。
「西堀さん。聞いての通りだ。」
「どこもここも面倒抱えてますね。」
司老は眉毛を上げて答えた。
「人間が2人いれば、そんなもんは生えてくるもんですよ。なければ警官なんて仕事はなくていいじゃないですか。そんな事にいちいち悩んでたら生きてゆけません。」
「そりゃそうです。」
司老は西堀の肩を軽く叩いて、パイロットの方に移動して行った。
横山が窓の外を見て言った。
「見えてきました。もう着きますよ。」
ヘリポートには完全武装の陸上自衛隊員40名と、南3佐と思われる将官とその副官ひとりが待っていた。
ヘリは西堀 司老 横山を降ろすと、すぐに上昇して行った。ヘリの風圧がなくなると南3佐は3人に近づいてきた。
「司老刑事。横山刑事。西堀栄一さん。ご苦労様です。南3佐であります。これは副官の野中3尉。西堀さんをお引継させていただきます。」
「上司の命令では、西堀さんに同行する事を防衛省は許可されたと聞いておりますが?。」
「もちろん構いませんが、銃器の携帯は遠慮していただきたい。」
そう言う南3佐の横から副官の野中3尉が進み出た。
「拳銃をお預かりします。」
横山が抵抗しようとする前に、司老は横山の腹を手の甲で叩いた。
「わかりました。横山、拳銃を出せ。」
横山はしぶしぶ拳銃を渡した。
「司老刑事も?。」
「規則ですか?。」
「規則です。」
司老はわざとゆっくり拳銃をホルスターから抜いて、野中3尉の目の上にぶら下げてみせた。
「ホゥ。いい銃ですね。手入れが行き届いている。」
「慎重に取り扱っていただきたい。壊されると困ります。」
「わかりました。大切に保管させていただきます。」
野中3尉は拳銃をそっとつかんで、司老の手からもぎ取った。
南3佐が司老の挑発をかわしにかかった。
「野中。失礼のないようにせよ。…司老刑事。非礼をお許し下さい。」
「いや。愛着のあるものなので。私も感情的になりすぎました。私の方こそ失礼をお詫びしたい。」
「ありがとうございます。では、こちらに…。」
南3佐はエレベーターの方に左手を差し出した。
野中3尉は手に持っていたスーツケースを床に置いて開くと、2つの拳銃を中に入れた。中のスポンジが銃の形に切り取られていて、スッポリとはまった。
(準備万端って訳だ)と司老は思った。
野中3尉はスーツケースを再び持ち上げるとエレベーターに向かって走った。
ポケットからキーを取り出すとエレベーター横の鍵穴に差し込んで回した。鍵穴の横には管理者用エレベーターとあり、一般の使用はできませんと書かれていた。
エレベーターの扉が開くと、横山に支えられて西堀が入り、司老が入ったあと南3佐と野中3尉が入りボタンを押した。
ボタンにはB5と表示されていた。
「質問の前にお答えしましょう。高宮さんの部屋は襲撃される可能性が高いので、内部の物ごと地下5階に移させていただきました。高宮さんと娘さんも、そこにおられます。」
「もうひとり居るはずです?。」
西堀は驚いて言った。
「失礼。椎名美花さんも、もちろんおられます。」
「なら、いいです。」
西堀は南3佐に不信感を募らせた。
エレベーターはぐんぐん降下しデジタル表示がB5を示した。エレベーターを降りると、西堀が以前に見た7階とつくりは変わらなかった。南3佐が先導して表示のないドアの前で止まり、ノックした。
ドアが開き高宮さんが出てきた。
「西堀さんと護衛の警視庁の方2名をお連れしました。」
南3佐がそう言って、3人を通した。
高宮さんは西堀を見て安心した顔をつくった。
「無事でしたか。連絡がないので心配しました。」
西堀は無言で部屋に入った。
「我々はこれで。」
と言う声かドアの外で聞こえた。
3人が中に入ると、高宮先生と椎名美花が西堀を見て立ち上がった。
「西堀さん。大丈夫ですか?。Eメールがないから心配しました。」
「展開が少し変わったんです。警視庁の刑事さんが味方についてくれまして。単独でやらなくて良くなったので、戻って来ました。」
美花は消耗した西堀と、力の入ってない右足を見た。
「右足、悪くなってないですか?。」
「さぁ…。感覚があんまり無くなってきてる…。」
高宮先生の顔色が変わった。
「このフロアに軍医さんが居るんです。呼びますね。」
高宮先生は壁のインターフォンの受話器を取り上げて軍医を呼んだ。西堀はその間に美花に言った。
「美花さん。ゲームの中で能登島に会いました。」
「無事なんですか?。」
美花はじわっと涙が湧いてくるのを隠さなかった。
「無事です。神奈川の米軍キャンプ内に監禁されてるようです。監視付きでゲームにエントリーさせられて、協力させられてます。能登島は、美花さんにゲームに勝って初登頂データと引き換えに、自分を救い出してくれるよう頼んできました。ゲームにエントリーして下さい。」
美花はパソコンのモニターを右手で指差した。
「もう入ってます。でも…まだ山は噴火中ですよ。どうやって登るんです?…。」
「バーチャル日本政府の君武さんと接触するんです。何かきっと方法がある。」
「わかった。やってみる…君武さんね?。」
美花は、モニターに向かってプレイヤー美花を自動モードから手動に切り替えた。軍医がやってきて後ろで治療を始めたが、美花はゲームに集中した。必ずノト君を救い出す。私の命に代えてでも…。奇跡を呼び込んでみせる。
美花はそう自分に言い聞かせた。
ー第16面プレイヤー椎名美花につづく