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三人はビルの中にあるチェーンのコーヒー店に席を取った。ルリは自分の分は払うと申し出たが、セイラは諦めたように手を振りながら奢ってくれた。
「水着の万引き?しょぼ」
お茶までご馳走しているというのに、セイラが教えてくれた事件に関するナナの感想はひどいものだった。
「てっきり爆弾が仕掛けられたとか、銀行強盗が逃げ込んだだとかだと思っていたわ」
「そんな大事件が起こっていたら、抜け出してお茶なんかできるわけないでしょ!」
思わず声を荒げてしまったセイラであったが、衆目を集めたことに気がついて、こそこそと身体を小さく丸めた。
「それもそうね。でも、万引きなんか珍しくもないでしょ。なんで刑事がわざわざ張り付いて見張っているの。セイラさん暇なの?干されてるの?」
「暇でもなければ干されてもいない!残念ながら、確かに万引きは珍しくないわ。このビル全体で見れば、毎日一件は確実に発生している。水着売り場の万引きも今年が初めてじゃない。毎年何件かは発生している。だけど、今年はすでに三十件を突破しているの。七月はほぼ毎日一点盗まれている。これは異常な数よ」
「まとめてではなくて、毎日一点盗んでいくの?と言うことは同一犯の犯行?」
「その可能性もあると考えているわ」
「でも、水着をそんなにたくさん盗んでどうしているんでしょうか?」
「ネットオークションで売り払っているとか?それとも盗品の密売ルートがあるとか?でもどちらにせよ、水着ってそんなに儲かるとは思えないけど」
「盗まれたものと同じものが出品されているかどうか、ネットオークションのチェックもしているけど、今のところそれらしい出品は見つかっていないわ。盗品の密売ルートも確かにあるけど、そこに水着が流れていることは確認されていない。それに枇々野さんが言ったとおり、水着を転売したところで大した値段はつかないわ。付加価値でもなければね」
「付加価値って何ですか?」
「例えば、アイドルが一度着た水着とか」
その答えにルリは眉を寄せ、ナナは突っ込む。
「今どきそんなのにだまされる奴がいるの?それよりもブルセラショップの方がやばいんじゃない?」
「そちら方面も一応確認はしているけどね。でもだとすると分からないことがあるの」
「毎日一点盗むって言うことね。どんな形にせよ、売ってお金にするのが目的なら、大量に盗むはずだわ。そもそも付加価値をつけるなら、盗むなんてリスクを犯すよりも普通に買ったほうが良いはずよね」
「さぁ、他になにかアイデアはない?女子高生視点での意見を聞かせてよ」
セイラは得意げな顔で問うが、すぐにナナにやり込められる。
「警察もすでに同じことを考えているって言いたいのかもしれないけど、あんなところにセイラさんをぼんやりと立たせていたってことは警察も手詰まりだってことでしょう。同レベルよ。上に立ったような態度を取らないで。犯人の目処が立たないから、警官を立たせておくことで犯人を警戒させて盗まれないようにしているだけじゃない」
「私ってそんなにバレバレだった?」
「警官でなければ警備員か。もしくは不審者ね」
ショックを受けたセイラはルリにも確認を取るが、あっさり頷かれ、がっくりと肩を落とした。
「まぁ、向いているとは思ってないけどさ…」
「人には向き不向きというものがあるのよ」
「慰めになっていない!」
「いい年した大人が年下からの慰めなんか期待しないで。さて、状況は分かったわ。現場に戻りましょう」
ナナはセイラの肩をポンと叩いた。