表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

とある懐古主義者の告白

 俺はいよいよ決意した。そうだ、49人を殺さなければならぬ。

 遙か昔のことだ。俺は世界の頂点に立った事がある。

 ……それがどうだ、いまや俺の前には、チャラチャラとしたやつがにやけ顔で立っていやがる。俺の後ろにも、見知らぬやつがやる気無く座り込んでいやがる。

 かつて俺の隣には親友が居た。しかし今、あいつと俺は遠く引き離され会話をすることもままならぬ。

 もともと俺たちは47人の組だったのだ。

 これ以上はない。そう、完璧な形で俺たちの世は安定していたのだ。だというのに、今やどうだ! この乱れた世。俺の許可もなく、よくぞ勝手に決めてくれたものである。あまりにも醜すぎる。酷すぎる。

 かつての美しい世の中を取り戻すためにも、俺は49人を殺さなければならないのだ。哀れ? 酷い? そんなことあるものか。俺は、かつての世を取り戻すためなら、この手を汚す事も厭わない。

 49名の中にはかつての仲間もいる。しかし関係無い。殺して、殺して、零に戻す。そして俺はすべてを再構築するのだ。

 それこそが、かつて頭であった俺に課せられた使命なのである。

「落ち着けよ」

 拳を固める俺の顔を、鞭のようなしなりが撃った。

 顔を上げれば、にやけ顔のあいつがいる。

「お前が俺の背から消えたら、”あい”という言葉が世界から消えるじゃねえか」

「やめなさいよ」

 立て続けに、背を柔らかい曲線が撫でた。

 振り返れば、柔軟な顔付きのあいつがいる。

「あなたが私の前から消えたら、”いう”言葉がなくなってしまう」

 ”あ”、そして、”う”。

「なあ、”い”よ。そんなにも、いろは歌が懐かしいのかい」

「悪いか」

「悪くは無いさ。しかしもう、そんな世の中じゃないんだ。俺らを並べて声に出してみろ、”愛”を”言う”。どうだ、素晴らしい並びじゃないか、この五十音は」

 2人に諭され、今日も俺は遺憾ながら殺人を諦める羽目になる。

 しかし俺はけして諦めたわけではないのである。いつか、俺の隣に、”ろ”。を取り戻すのだ。俺を頭にして、美しい47音を取り戻すのだ。

 けして、それはただの老いぼれた懐古者のつぶやきではない。

 

 いろはにほへと ちりぬるを


 そうだ。ふたたび、世界に色を。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ