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騎士と侍女 その1

こんにちは。

ゴールデンウィークも終わったのですが、長い休みを頂きました…。

この機会に沢山更新出来たらなと思っています。


  

「そうか、お前の恋人か・・・」

 ケインの熱愛宣言に驚き騒ぐ騎士達を前にしても、ランス隊長は落ち着いていた。

 隊長は騒々しい騎士達を「静かにしないか!」と、低い美声で一喝して静めると、お菓子の入った籠を手近な騎士に手渡す。若い騎士が籠を受け取りお茶の準備を始めたのを確認して、こちらへゆっくりと近付いて来た。

 そして、大きな体を屈めながらわたしに頭を下げてくる。近くで見ると彼は、とても背が高い人だった。

  

「侍女長殿、結構な物をどうも。有り難く頂きます。」

「はっ、ひひえ。」

 わたしはまだ鼻を摘まんでいたことに気が付き、急いで鼻から手を離す。隊長はそんなわたしをクスリと笑って見ていた。

 か、格好いい・・、なんて素敵な笑顔かしら・・。

  

 わたしは隊長の笑みを浮かべた顔にボーッと見惚れてしまい、隊長効果のせいかどうだか分からないが、いつの間にやら、部屋の悪臭も全く気にならなくなっていた。いや、自分でも現金だと思うが・・。

  

 ランス隊長は目尻を下げて険しかった表情を緩め、益々優しく笑った。それからわたしの方へすっと手を差し出して、握手を求めてきたのだった。

「ケインをよろしく頼みます、侍女長殿。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 わたしは緊張しながら返事を返した。きっと赤い顔をしているに違いない。

 う〜ん、本当に、とても素敵だわ。

 こんな男性が側にいたら、どんなに頼りになるかしら?


  

 ランス隊長は握手を交わしたあと、自分の席へと戻って行く。その逞しい後ろ姿まで、何だが格好いいのだ。わたしはすっかり見とれてしまっていた。

 これが大人の男の魅力というものだろうか?

 わたしはうっとりとしながら、横のケインに小声で囁いた。

「素敵な隊長様ね。」

 だがケインは表情を消した顔で、わたしを睨むように見ている。

「君は、僕の苦労を無にする気か?」

 彼が声を潜めて告げた言葉に、わたしは驚いてしまった。

「えっ?どういう意味かしら?」

「君の為に恥を忍んで、皆の前で作ったこの空気を、あっさりとぶち壊さないで欲しいものだ。」

 ケインはニコリともせずに、わたしを一方的に非難してくる。

 はあ〜?何ですって?そりゃあ、あなたがこんな芝居してるのは、他でもないわたしの為だけど。

「わたしが、いつ何を壊したって言うのかしら?」

「隊長を見てのぼせたような顔をしている。恋人の前でそんな顔をする女性はいない。見苦しくて、恥ずかしい行為だと思うが?。」

 ケインが吐き捨てるように言った言葉が、無性に癇に障った。いつの間にかわたしは、興奮して大声を出していた。

「んまあ!そんなに恥ずかしかったのならお止めになれば宜しいのよ?」

 ケインはわたしの反撃に驚いて、表情を和らげる。

「何もそんな言い方、・・シッ!それに声がでかい。」

 しかし、わたしの口はもう止まらない。周囲にいる騎士達がわたし達の異変に気が付いて、気にし始めたというのに。

「あなたという人は、本当にいつだって口がお上手な方よね?君を悲しませることはしない、とか何とか調子のいいことを仰っていたくせに!恥ずかしいですって?」

「だから、声がでかいと言っている・・」

「その上、見苦しいだなんて、あなたなんてどんな女性にもあれこれ構っていくじゃないの!そちらの方がよっぽど・・」

「悪かった!僕が言い過ぎた。」

 遂に、ケインが慌てたようにわたしの口を押さえ付ける。彼の腕の中で負けじと暴れてやったが、所詮、力の差が出て捕らえられてしまう。

「何なさるの、ふがっ」

 そんなわたし達を、他の騎士達が呆れたように目を開いて、遠巻きに見ていた。

  

「お前達・・・」

 ランス隊長が青冷めた顔をふるふると振るわせながら、表情を険しく変えていく。

「痴話喧嘩なら余所でやってくれ!」

 隊長の怒声が部屋に響き渡り、わたし達は詰所を追い出されてしまった。

  

  

  

「菓子を食べ損ねたな・・・」


 ケインが頭を掻きながらポツリと呟く。

  

 わたしと彼は騎士団の詰所を追い出された後、行く宛てもなく歩いていた。

 まあ、わたしはこのまま王女の元に戻れば良かったのだが、と言うより戻るべきなのかもしれないが、侍女長という役職は侍女の纏め役という性質上、王女の側に張り付いていなければいけないと言うことはない。

 それにわたしは後少しで退官する。後任が来るのかは今のところ不明だ。あの頼りない侍女二人を鍛える意味でも、放って置くのも一つの手だろう。

 わたしは、最近、放任し過ぎかもしれないけどね・・・。

  

 そんな事もあり、何となく帰る切っかけを無くしたわたしは、ケインと共に歩いていた。

 そこへ彼の一言が聞こえてきたのだ。わたしは、ぼんやりとしていたのだが、その言葉に忘れていた腹立ちが戻ってくる。

「あなたが、悪いんでしょう?わたしに喧嘩を売るから。」

「あれは、喧嘩を売った訳ではない。正当な抗議をしたまでだ。」

 ケインは、勘弁してくれとでも言うような顔をして、こちらを見た。

 その顔にまた、カチンとくる。ほら、やっぱり喧嘩を売ってるじゃない?

「抗議ですって?どういう意味よ。」

「あのな、・・」

 彼は頭を抱えるような仕草をしながら正面に立った。

「リシェル殿と僕は恋人だ。それなのに君が、隊長に(うつつ)を抜かしていたらどうなる?恋人と言うのが、いかにも嘘臭い話に見える。」

「あっ・・」

 確かに恋人の前で余所見は不味かったかもしれない。ケインは本物の恋人じゃないから気が緩んでいた。

「分かってくれたか?それは良かった。」

 だが、わたしのことよりこの男の方が問題だ。

 わたしという(れっき)とした恋人(・・)がいるのに、今まで通りチャラチャラと他の女性に声を掛けていたら、そっちの方が疑わしく見えるではないか。

  

「だけど、あなたの性格は?下は幼女から上は老女にまで声を掛けるその変わった・・」

「当分、自粛する。だが、僕はそんなに変な奴か?」

 彼はわたしの声を遮るように返事をしてきた。その声は心なしか苛立っているようだ。

「変て?」

「幼女から、老人までと言っただろう?」

「本当のことでしょう?」 変な人ね、今更気付いたのかしら?

「・・まあ、確かに、否定はしない。女性にはすべからく優しくしたいと思っている。」

 優しさの押し売りだけどね。そして何だか引いてしまうけどね。

  

「何故なのよ?」

 彼はわたしを見て微笑んだ。愛しげな小動物でも見ているような笑顔だ。

 いやだ、またその顔なの?調子狂うから止めて欲しいんだけど・・。

「立ち話もなんだな、座って話そう。」

「座るって、どこへ?」

 ケインは考え込むように目を伏せていたが、やがて悪戯を思い付いた子供のような顔をしてこちらを見た。

 

「近くに団の宿舎がある。来るか、リシェル殿?」




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