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近衛隊と親衛隊

こんにちは。

今日は仕事が急に休みになりましたので、やった!とお話を更新しました。

家の中が非常にまずい状態です…。どうしよう?

ところで、最初に考えていたよりも、少し長くなりそうです。暫くこのお話を優先して書いていきたいと思います。最後までお付き合い頂ければ幸せです。


  

「国王親衛隊第四小隊、又の名を第三王女親衛隊の、ケイン・アナベルじゃないか。こんな所で何をしているんだ?」

  

 ヒューイッドはケインの背中に、侮蔑を込めた言葉を投げ掛ける。彼の口は醜く歪んで笑っていた。

  

 ケインは厨房から覗く中年の女性の手に軽く口付けをすると、不安な表情を浮かべる彼女に笑顔を見せる。

「申し訳ない、邪魔が入ってしまった。・・大変すまないが、お礼は又の機会に。」

 彼女がこっくりと力なく頷くのを見て、彼はヒューイッドの方へ視線を向けた。

  

 え?

  

 振り向いたケインの顔に、わたしは違和感を覚えた。いつも柔和な笑みを見せる彼の顔が、硬い表情を浮かべていたからだ。

 だが、一瞬の後には、柔らかい笑顔の普段のケインがいる。

  

 気のせいだったのかしら?・・変ね。

  

「やあ、そう言う君は、栄えある近衛隊のヒューイッド・マクベスじゃないか。珍しいな、君が僕に話し掛けるのは。」

 ケインは微笑を浮かべたまま、ヒューイッドに近付く。彼はヒューイッドの肩に寄り掛かると、親しげに話し掛けた。

「懐かしいよ。久しぶりに酒でもやらないか?」

 ヒューイッドは忌々しげに、肩からケインの腕を乱暴に振り払った。ケインの体がバランスを崩す。

「誰が貴様なんかと、御免だ!」

 しかしケインは、ヒューイッドの態度にも表情を変えない。彼は首を竦めると溜め息を吐いた。

「そんなに嫌わなくてもいいだろう?元は同じランス隊長門下じゃないか。隊長も君に会いたがってるんだぞ。」

「止めろ!貴様と同じ師を仰いでいたなど、思い出したくもない過去だ。二度と口にするな!」

 ヒューイッドは不愉快そうに吐き捨てた。

  

「何故だ?何故、そんなに僕を嫌う?」

 いつの間にか、ケインの顔からは笑みが消えている。わたしは不思議なことに、彼から静かな怒りのようなものを感じていた。

 ヒューイッドはケインを指差すと、笑い出した。

「何故だと?貴様は本当に分からないのか?朝から晩まで暇さえあれば女に声を掛け、媚びを売る。相手は誰でもいいのさ、女であればな。」

 そう言ってヒューイッドは、ケインの奥に見える厨房に目をやった。呆れて馬鹿にしたような目だった。

  

「騎士としてはどうだ?近衛騎士にはなれず、第三王女の護衛か?ハッ!確かに第四小隊は、ランス隊長の直属だ。だが十人にも満たぬ寄せ集めの小隊だ、国王親衛隊が聞いて呆れる。」

「ヒューイ、・・我等は少数精鋭なのだよ。」

「その呼び名で呼ぶな!吐き気がする!」

 ヒューイッドはケインを睨み付けた。

「王女の護衛に就くことが出来たのも、その顔を気に入られたから、らしいな?決して騎士としての実力を認めて貰えた訳じゃない。所詮、貴様など、その程度の人間なのだ!」

 ケインはヒューイッドの暴言に苦笑を返す。彼はあくまで落ち着いていた。


「ああ、全く君の言う通り、僕はどうしようもない人間だ。誘ったりして、すまなかった。久しぶりに君が話し掛けてくれたので、舞い上がってしまったようだ。」

「・・そうやっていつもヘラヘラしているところが、俺は一番虫酸が走る。やはり貴様に声を掛けるべきではなかった!」

 ヒューイッドは、きつい視線をケインに投げ付けると、踵を返して食堂を出て行った。

 彼と共にやって来た近衛騎士らが、驚いたように顔を見合わせている。やがて、彼らも慌ててイソイソと出て行った。

  

 食堂には再び静けさが戻ってくる。

 固唾を飲んで彼らのやり取りを見守っていた、この場に居合わせた数人も、先に退散した近衛騎士らに引きずられるように、気まずげに食堂を後にした。    

  

 わたしは、ケインから目を反らせなかった。

  

 彼は、暗い瞳でヒューイッドが消えた後をずっと見ている。その顔はいつものように笑顔であるにも関わらず、笑ってはいない。

  

 ケインの笑顔には、意味はなかったと言うのだろうか?

 あの柔らかい微笑みは確かに時々虫酸が走るけど、・・本当はそんなに嫌な表情じゃない。どちらかと言えば顔立ちの良さを引き立てて、人柄さえも良く見せる魅力的なものだ。

 だがその笑顔は、表面だけの時があった。彼にとって笑顔とは、必ずしも感情から出てくるものではなかったのだ。

  

 まるで仮面を付けているみたい・・・。よく、分からない男だわ。

  

  

  

「ケイン様、随分派手に、挑発されてましたね?最初はコソコソと、隠れるように食堂にお入りでしたのに。」

 突然ジュリアが、動かないケインに声を掛ける。

「お陰でわたしは、スリリングで熱い、面白いものを見ることが出来ましたけど、あなたは本当は、あの近衛騎士の方にお会いしたくなかったのでは?」

 彼女は頬を緩めて、にっこりと笑った。蒸気した頬が赤く染まっている。

  

 ちょっと、ジュリア!

 声なんか掛けないでよ!わたしはこの男に会いたくないのに〜!

 と、言うか、挑発ってどういう意味なの?分からないわ。

 

 ケインはジュリアの方を、ゆっくりと見た。

 彼は深い息を一つ吐くと、微笑みながらこちらへやって来る。

「これは王太子殿下のところの侍女殿ではないか?お恥ずかしいものをお見せした。面目ない。」

 そして、わたしに気が付いたらしい。目を丸くして驚いている。あ〜、もう!

  

「やあ、それに、リシェル殿も、・・参ったな。」

 ケインは頭を掻きながら、恥ずかしげに笑った。

「偶然ですわ、お気になさらずに。わたしも恥ずかしい思いを致しました。お互い様です。」

 わたしはとてもではないが、笑う気になどなれない。ニコリともせずに言った。

「そうで、あったか?僕は気付かなかったが・・。」

 ケインは不思議そうな顔で首を捻る。

 すると、ジュリアが割り込むように会話に入ってきた。

「ケイン様、あなたって自由に、色々なお顔を作ることが出来るのね?それは、持って生まれた才能かしら?」

 彼は穏やかな笑顔で彼女を見る。

「顔は生まれた時から、こんなものだよ・・それより、貴女が何を言われているのか、僕にはさっぱり分からないんだが?」

 ジュリアは片眉を上げると、彼の顔をム〜と凝視した。彼は、そんな彼女を悪戯っぽい瞳で見つめ返している。

「本当に、憎たらしい程、無駄に整った顔ね。そのポーカーフェイスを何とか崩してやりたくなったわ!」

「お褒めに預かりまして、どうも。」

「褒めてないわよ?」

 ジュリアは胸を張ると、意地悪く彼を見て口にした。

「まあ、今回は仕方ないわね。あなたが何故、会いたくもない人に無理して絡んでいったのか、わたしにだって理由が分かるもの。」

 そう言って彼女は、わたしをチラリと見る。

  

 ?、わたしには何のことか、全く話が見えないんですけど・・?

 あなた達、説明して下さらないの?

  

「やはり何を言ってるのか分からないな。それに僕は、ヒューイッドに会いたくない訳ではない。彼は違うみたいだが。」

 ケインは少し寂しそうに笑う。あの近衛騎士と、過去に何かあったのだろうか? 同じランス隊長門下と言ってたわね。その頃は仲良くしていたのかしら?

  

 わたしはハッとしてケインを見た。

 気が付けば、こいつのことばかり考えている。とても不本意だわ!

  

「あくまでシラを切るつもりね。まあ、いいわ。」

 ジュリアは溜め息を吐くと席を立つ。そろそろ休憩は終わりにしないとまずい時間だ。何せ彼女の主は、王太子殿下である。既に城に戻られていたら、相当ややこしい事になる。

  

「わたし、あなたに興味が湧いたわ。今まであなたは、外見だけだと思っていたけど・・。」

 ジュリアの言葉にケインは笑みを深くした。彼女の手をさりげなく取ると、自然な感じで口付ける。

「それは、光栄なことだ。貴女のお名前は?教えてくれないだろうか。」

 ジュリアはプッと噴き出して、彼に抗議した。

「止めてよ!そういう意味じゃないんだから。わたしが興味あるのは、あなたの内面!・・例えば、どうしてあなたは、うわべだけで笑っているのかしら?とか。何故、フェミニストを装っているのかしら?とか。」

 ケインは面食らっている。それから、声を上げて笑い出した。

「リシェル殿のご友人は面白い方だな。僕は至って普通の男だよ。」


「わたしは、ジュリアよ。宜しくね、プリンス。」

「その呼び方は止めてくれ。馬鹿にされてるような気がする・・。」

 ケインは真面目な顔でぼやいた。

「だって馬鹿にしているんですもの。わたしはあなたのファンのお子様とは違うのよ。」

 彼女はニイッと笑って手を差し出す。口付けの為ではなく握手の為だ。二人は固い握手を交わしていた。

  

  

 わたしは、そんな二人の様子を見ながら、一人疎外感を感じていた。

  

 ジュリアと嬉しそうに握手をするケインを、不愉快に感じながら。

  

 何故だか分からない、言い様のない寂しさを、もて余していた。

  

  

 



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