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月に一週間しか会えない幼なじみ~期限付きの恋だとわかっていたら恋の行方は変わっていたのだろうか~

作者: アオ

皆さん、こんにちはアオです!

今回は"月に一週間しか会えない幼馴染"というなんとも不思議な関係を

描いた恋愛小説となっています。最後には衝撃の結末が待っているので

ぜひ最後までお楽しみください!それではどうぞ!

「ようっ!詩織(しおり)おはよう、久しぶりだな!」

「おはよう(みなと)。わざわざ迎えに来なくてもいいのに」

「何言ってんだよ幼馴染だろ。それよりも新しい学年になって

 詩織と同じクラスだってさ」

「ほんと!?湊といると落ち着くから安心~」

久しぶりに会った詩織は変わりなく元気でこの太陽みたいにまぶしい笑顔。

そしてニコリと笑う詩織に俺の心臓はバクバクいっていた。


俺と詩織は幼馴染でこうやって一緒に登校する仲である。

一緒にとは言っても毎日ではない……小学三年生のころ詩織にお母さんから

「最近あまり学校に行きたがっていないからサポートをお願いしてほしい」

と言われてそれ以来詩織が学校へ来るときは毎回一緒に登校している。

詩織が学校に来るのはおおよそ一か月に一週間だ。

ただ一つだけ引っかかることがある……それは不登校にしては

"その暗さや悲しさ"が全く感じないということだ。

でもそれが何かになるわけでもないから詮索することはない。

それに俺は詩織のことが好きで詩織をサポートすることで詩織が幸せに

なるならそれ以上の幸せはないのだ。


学校へ登校すると周りからの視線が痛い。

確かに詩織はこの学年になって初めてきたが何もそんなことしなくてよいだろう。

そう思っていると朝のHRで早速、先生が注意してくれた。

それと同時に俺は"守ってやらないといけない"とも思った。

まあそれでも友人たちからのからかいはあるのだが。

俺と詩織の席は隣でこれまで居なかったところに詩織が座って

テンションが上がっている。

「湊~、この教科書はここにしまえばいい?」

「うん。それはそこでこれはこっちな。それと名前を書いておけよ」

俺がそう指示するととびきりの笑顔で作業をする詩織。

「えっと……この式を使うとこういう風に求められて」


翌日、これまで習ったところの授業を教える。詩織のお母さん曰く

家でも教えているが心配だから学校でもよろしくとのこと。

もちろん好きな人を手伝うことができるのだから俺が嫌がることは一切ない。

それに詩織は飲み込みが早いおかげですぐに授業に追いつくことができる。

「これってあの先生に似てない?」

なんてことを授業中に行ってくるのだから思わず笑ってしまい

先生に注意を受けることだって何回かあったくらいだ。

でもこうやって好きな人と一緒に過ごせて話せることは

幸せなんだなと実感するのは毎回のことだ。


それから数日後……また詩織が登校しなくなってしまった。

昨日まであったあの笑い声がなくなり俺の心の中はぽっかりと穴が開いた気分だ。

毎月決まって一週間ちょうどで終わってしまうためその後を乗り切るのが

一番つらい。だけどまた一か月経てばあの幸せな時間が訪れるのだ。


さらに時は流れていき、夏休みまで残り数日となった。

そんなある日詩織のお母さんに会うと

「湊君、この夏休みに詩織をどこかに連れて行ってくれないか」

「えっ!?俺が!?まじで!?もちろんですが俺で大丈夫かな……」

「もちろんよ。それにあの子も湊君と一緒に行くのを望んでいるわ」

お母さんから直々に"一緒に行くのを望んでいる"と言われて顔が赤くなった。

「行き先は任せるわ。ただ決まったら私に教えてちょうだい」

「わかりました!」

家に帰った俺はすぐさま近くに良いスポットがないか調べ始める。

詩織が不登校気味になってからこうやってどこかへ行くということは

なかったためとてもわくわくしながら予定を立てていった。


夏休みが始まり二週間ちょっとが経過した。

今日は夏祭りが行われる日だ。それに合わせて俺は詩織を誘った。

ただ誘ったはいいものの好きな人と二人で夏祭りとかデートみたいな

ものだ……どんな服装がかっこいいのか、顔変じゃないよななど

準備をしていると待ち合わせ時間ギリギリになってしまった。


急いで詩織を迎えに行く。するとちょうど詩織が家から出てきた。

俺はその浴衣姿に目を奪われていた。いつもの可愛さがより磨きが

かかっておりながらも少しばかり大人な感じがする。

やばいこれじゃあ詩織を直視することができない。

「へへ~浴衣似合ってるでしょ~」

「あっ、ああ。似合ってる」

「あれもしかして私がかわいすぎて直視できないのかな~」

「うっ、うるさい。早く行くぞ」

顔が赤くなっているのを悟られないようにしながら俺は足早に歩き出した。

祭り会場は屋台が道をオレンジ色に照らし焼きそばやりんご飴の甘いにおいが

漂ってくる。人混みのざわめきも夏の音のように感じ心地が良い。


「私あの大きな綿あめ食べたい!」

そう無邪気に笑いながら屋台へかけていくのを見ていると俺は

夏祭りに来てよかったとそれだけで思えるほどだった。

「おいしい~、湊も一口いる?」

「じゃあ俺も一口だけ」

食べた後に気づいたがこれって"間接キス"ってやつじゃないか!?

気が付いてしまった以上俺の顔が再び赤くなるのは時間の問題だった。

「次はスーパーボールすくいやろ~!」

不登校だとは思えないほどの元気さだ。いやおそらく祭りでテンションが

上がっているのだろう。実際、俺だってそうだし……

ああもう、浴衣姿可愛すぎでしょ……

そんな俺の気持ちを知らずに詩織は無邪気な笑顔で列に並ぶ。

「湊も早く来て~!早く早く!」

「わかったよ、今行く!」


それから一時程度様々な屋台を回って景品を両手に抱えながら人が

あまりいないところに移動し休憩する。

「久しぶりに夏祭りだったからちょっとはしゃぎすぎちゃった」

そう言っててへぺろとする詩織に対して俺は

「だな。俺も詩織のおかげで楽しませてもらってるよ」

「それはよかった!それで花火は何時からなの?」

「もう少ししたら始まるぞ。ここら辺で見るか」

そう言って俺たちは芝生に腰を下ろす。

「なんだか夜空っていいね~お星さんたちがきれいで」

「なんだその小学生みたいな感想は。でも確かにね」

少しからかいながらも詩織が見上げている夜空を見上げる。

すると"ひゅ~"という音が聞こえて暗い夜空に明るい花火が打ちあがる。

「わぁ~きれい~」

そう言ってまたもやはしゃぎだす詩織。その横顔を俺は微笑みながら見る。

「好きだよ……」

「ん?何か言った?」

花火の音と俺の声の小ささが相まって詩織には届かなかったようだ。

「うんん、なんでもない。花火綺麗だね」

「うん!」

そう言って笑いながら夜空を見上げる詩織との時間が

永遠に続けばいいのにな……なんて思う。


打ち上げ花火も終わり夏祭りの余韻に浸りながら俺たちは帰り始める。

「楽しかったな。また来年も行こうな」

「うっ、うん」

そう言った詩織の笑顔はどこか寂しげに見えた。

「詩織は学校来てないときいつも何やってるの?」

俺がそう質問すると、詩織は少し考えた後に"秘密"と言ってニコリと笑う。

やっぱり俺は詩織のこういうところが好きなんだなと改めて思った。

「じゃあまた明日」

「うん、明日はどこに行くの?」

「それは明日のお楽しみってことで!おやすみ」

明日の予定にわくわくしながら俺たちは家に帰った。

ただどうしてもあの"うっ、うん"というあいまいな返事が気になっていた。


翌日、俺は詩織の家へ行き今日の予定を発表する。

「今日は水族館と動物園の二本立て~!」

「楽しそう!早く行こう!」

そう言って夏祭りと同じ無邪気な表情で笑う詩織に心奪われていた。

それに私服ということもあり夏祭り同様、直視できなかった。

水族館へ入ると薄暗くひんやりとした通路が続いていた。

歩くたびに詩織の服の袖が俺の腕に触れ変に意識してしまう。

俺の状況とは反対にニコニコしながら水槽に目を向ける詩織。


この通路は横と上が水槽になっているようで色とりどりの魚たちが泳いでいる。

「わぁ~きれい~。お魚さんたちって悩み事とかなさそうでいいよね~」

「でもずっと泳いでいるだけで疲れないか?

 それに泳ぐしかやることがないから暇じゃないのかな」

「なにそれ。そんな人間みたいに賢い生き物じゃないからさ~」

いつもは行かない場所ということもあり詩織のテンションは高くなっていた。


通路を進んでいくと今度は真っ暗な部屋に入った。

そして奥からはゆらゆらと漂うような光がぼんやりと見えてきた。

「あっ!クラゲだぁ~。かわいい~」

そう言って水槽に張り付く詩織。その横でクラゲを見ようとしたが

かがやいてみえる詩織の瞳に俺はまた目を奪われていた。

「へぇ~、クラゲってすぐに死んじゃうんだって。かわいそ~」

カップルの会話が聞こえる。すると詩織の表情が一瞬だけ曇った気がした。

でもすぐにいつものニコニコの詩織の表情に戻っていた。


その後も海の生き物をたくさん見て俺たちは近くのベンチで一息つく。

「やっぱり海の生き物ってかわいいこたちが多くて癒される~」

「確かにダイオウグソクムシとかってかわいいからな~」

「いやいやさすがにダイオウグソクムシがかわいいとは言ってないよ。

 湊の目腐ってるんじゃないの?」

冗談で言ったつもりが正論を返されてしまい何も言えない……

「見て!イルカショーやってるみたいだって!」

詩織は近くのポップを指さして言う。

「タイミングが合えば見てみるか……あっ、ダメだ今日はやってないみたい」

「え~……せっかくイルカショーを見れるチャンスだと思ったのに~」

「また誘ってあげるよ。また今度見に行こうぜ」

「うっ、うん……また、ね……」

「どうした体調が悪くなったのか?トイレ行くか?」

「だっ、大丈夫!それよりお土産買いに行こう!お土産!」

そう言って詩織は小走りで売店コーナーへ向かう。


「このキーホルダーかわいい!湊おそろで買お!」

キーホルダーを両手に持ちニコニコと笑う詩織。やっぱり好きな人には

勝てないな。俺は詩織からキーホルダーを受け取る。

その後、自分へのお土産と家族へのお土産を少しだけ買って会計を済ませる。

「キーホルダー、さっそくリュックに付けよっ!」

慣れた手つきでリュックにキーホルダーを付けるとはしゃいでいる。

その無邪気でかわいい表情が見れただけで疲れは一気になくなった。

この時間が永遠に続いてほしい……そう思ってしまった。


昼は水族館に隣接するハンバーガーショップで昼食をとる。

「って湊、口にケチャップがめっちゃついてる!じっとしてて」

詩織はそう言ってティッシュで俺の口元を拭く。

「はいっ!とれた!」

……めちゃくちゃ恥ずかしい。なんかめちゃくちゃドキドキした。

言葉に表せない感情を抱きながら店を後にする。


「次は動物園だよね!楽しみ~!」

動物園は水族館とは違い太陽が照り付けるためとても暑い。

「暑い~、かき氷屋あるけど溶けちゃいそ~」

さっきご飯を食べたばかりというのにもう食べ物のことを考えている詩織。

そんな姿を横目に園内を歩いていると首の長いキリンが見えてくる。

「キリンさんだ~!やっぱり首ながぁ~い」

またもや小学生みたいな感想ではしゃぐ詩織。

俺ははしゃいでくれるこの笑顔を見るだけで詩織を誘ってよかったと常々思う。


「湊~!こっちにはカバさんもいるんだって!早く早く!」

気が付けば詩織は少し遠いところまで行っていた。

振り回されるのも結構大変なんだな。額に汗を浮かばせながら詩織の方へ向かう。

カバの水しぶきを浴びた後はライオンをさらにその後には様々な鳥などを見て

園内をあちこち行き来していた。おかげでくたくただ。


「疲れた~、ねえ湊かき氷でも食べない?」

「そうだな。いったん休憩がてら食べるか」

疲れたと言った割には全然平気そうに見える詩織にかき氷を買ってきてもらう。

しかし手には一つのかき氷だけだった。かき氷からは甘いシロップの香りがした。

「ごめん~。これが最後のかき氷だから一つしかないって」

「そっか。じゃあそれは詩織が食べなよ」

「全部は食べきれないから二人で食べようよ」

早速一口目を食べ始める詩織。そのままかき氷をすくい俺の方に渡してくる。

「ほら私が"あ~ん"してあげるから口開けて」

「べっ、別にそんなことしてもらわなくても食べれるよ」

食べる前から食べている最中、食べ終わった後までずっと"間接キス"という

単語が俺の頭の中を取り巻いていた。確かにうれしいけども……


かき氷を食べ終わると詩織の体力は回復しておりまだまだ回る気のようだ。

「さっき看板で見たけどモルモットのふれあいがあるって!行こ!」

ニコニコとした姿でふれあいの場所まで直行する詩織。

かき氷を食べて涼しんだはずなのにふれあいの場所に来た時には

かき氷を食べる前よりも体が熱くなっていた。

「モルモットかわいい~!モフモフしてて気持ちいい~!」

モルモットを撫でまわしながらしっかりと堪能している様子だ。

今日一の笑顔でこちらを見る詩織の姿を見るとこっちでも笑顔になれる。


それからあっという間に時間は過ぎていきまぶしい夕日が差してきた。

「そろそろ帰ろうか」

「うん!楽しかった!」

「詩織の楽しそうな姿が一日中見れてよかったよ」

「親目線みたい……湊、昨日と今日はありがとう」

「どうしたそんな改まって。別にそこまでお礼を言う必要はないよ。

 それに近いしまた今度一緒に来ようぜ」

「……っ、うん……湊……いやなんでもない」

今日みたいな時間が、ずっと続くものだと……当然のように思っていた。

夕日に照らされた詩織の横顔は楽しさの余韻とは少し違う"何か"があった。

その表情が、胸の奥に小さな不安を落としていった。


夏休みが過ぎていくのと同時に詩織への気持ちは日に日に強くなっていった。

冬休みくらいにイルミネーションに誘って、告白をしようかと考えていた。

それくらい詩織への気持ちが大きくなっていたのだ。

そして九月、十月、十一月と平穏な日々と楽しい日々が交差する毎日を過ごした。

九月では体育祭の準備を一緒にし十月には文化祭を一緒に回った。

その行事一つ一つでどのシーンを見てもいつも詩織の笑った表情が見える。

月日が経つにつれて鼓動の速さは早くなっているのがわかった。


十二月に入りとうとういつも詩織が来る週となった。

いつも迎えに行く時間よりも十分程度早く着いてしまったようで自分自身が

焦っているということも自覚ができた。

しかし二十分経っても三十分経っても詩織の姿はなかった。

試しにインターホンも押したが誰も出なかった。

少しだけ不安がよぎったが仕方なく俺はそのまま登校した。

学校に着いてもいつもの週ならいるはずの詩織がいないので

俺の心にはぽっかりと穴が開いたような感覚になってしまった。


もちろん詩織のことで頭がいっぱいでろくに授業を受けることができなかった。

ぽっかりと穴が開いたような感覚は時間が進むにつれて不安に変わっていった。

……どうして急に詩織はいつもの週に来なくなってしまったんだ。

もしかして単なる風邪になっただけ?もしかして俺が嫌いになった?

もしかして学校でいやがらせを受けた?もしかして事故にあってしまった?

さまざまな予想が俺の頭の中を飛び交う。

学校が終わり帰宅してお母さんに何か知っているか聞いてみるが

首を横に振るばかりだ。鼓動が早くなり胸がざわつく。


その日の夜、インターホンが鳴ったので出てみるとそこには詩織の

お母さんの姿があった。しかもただ事じゃない雰囲気のようだ。

「湊君、すぐに来てもらっていい?しっ、詩織が大変なの……」

詩織のお母さんは泣いていたのか目が真っ赤に腫れていた。

「とにかく時間がないの!早くっ!」

いつもの温厚さが全くないことを悟った俺はすぐに車に乗り込む。

すぐに車を発進させ全速力でとある場所へと向かって行く。

夜道を走っていく走行音とともに俺の心臓が痛いほど脈打っていた。


数分後、かなり大きな建物が見えてきて俺の胸のざわつきは

絶望と悲しみへと変わっていった。着いた場所は総合病院だった……

車から降りた俺たちはすぐに詩織のいる病室へと駆け込む。

心電図の電子音が静かな病室に鳴り響く。

大きな白いベッドに横たわっているのはあの楽しそうな顔で笑う

面影がわずかに見えた詩織だった。

「えっ……うっ、うそ。しっ、詩織……?」

俺の声はかつてないほどに震えているようだった。


「……し、詩織は小学生のころから重い病気を患っていたの……」

そう語り掛けるように話始める詩織のお母さん。

俺は詩織の手を握り顔を見つめたまま話を聞く。

「……月周期性(げっしゅうきせい)全身衰弱(ぜんしんすいじゃく)(しょう)……月に一週間しか生活できない病気……」

詩織の手を握る力が強くなる……だから月に一週間しか来れなかったのかよ。

不登校じゃなかったのかよ……詩織との生活が鮮明によみがえる。

「世界でもごくわずかな人が発症……治療方法は見つかっていないわ……」

詩織のお母さんも現実を受け入れていないのか淡々と話す。

「それに発症から十年で……十年で……」

言葉に詰まり、涙が落ちた。


「昔から湊君と遊ぶのが好きで病気が見つかるまではずっと一緒に

 遊んでいたわね。帰ってくるたびに湊君の話をして……私はうれしかったわ。

 詩織がこんなにも笑って友達と遊んで帰ってくるのだから……」

淡々とした口調から優しい口調に変わり気が付けば涙が頬を伝っていた。

「だけど小学校三年生の時。病気のことを告げられた時は頭を大きな石で

 殴られたくらいのショックを受けたわ……そんな中でも詩織は自分の意思を

 持っていて湊君と一緒に過ごしたいって……だから私から湊君に

 詩織のお世話をするようにお願いしたわ」

白いベッドに俺の涙のシミが一つ、二つとできていく……


「こんな状況に陥ったら学校へは絶対に行けなくなるはずだわ……

 でもそんなときでも詩織が行けたのは湊君がいたからだよ……」

その言葉を皮切りに大粒の涙が落ちていく。

「湊君、君には本当に感謝をしているの。詩織の生きる意味になってくれて

 詩織のうれしそうに話すあの表情を見ることができて本当にうれしかったわ。

 私は一度席を外すわ……詩織との最後の時間を大切にね……

 それと詩織から湊君に渡すように言われていた手紙、読んであげて」

そう言って手紙を渡し病室を出て行った。


病室には、規則的な電子音だけが響いていた。

手紙を開ける手が震える……呼吸を整えて手紙を読み始める。

【拝啓、湊へ

 湊まずは病気のことをずっと黙っていてごめんなさい。

 湊は覚えてるかな保育園の時のこと。二人でよく砂場で砂遊びしたり

 プールに行って一緒に泳いだりした日のこと。覚えていなくてもいいけど

 あの時からずっと湊と一緒にいたいって思うようになったんだよ。

 でもこんな病気になって月に一週間しか生活できなくなるなんて

 信じられないよね。本当に人生何があるかわからないよ。

 周りの子からは不登校のように見られてなかなか友達が出来なくて、

 でもそんなときでも変わらず"おはよう"ってあいさつしてくれる

 湊の優しくてまぶしい笑顔に私は救われたの。

 それから今年の夏のめちゃくちゃ楽しかった!

 病気になってから一回も行かなかったから久しぶりの夏祭りってことも

 あるけど湊と一緒に大きな綿菓子を食べたのもスーパーボールすくいを

 やったのも花火を見たのも一秒一秒が本当に最高で永遠にこの時間が

 続いてほしいなって花火にお願いするくらい思っていたの。

 ちなみに浴衣姿はお母さんに無理言って出してもらったものなの。

 やっぱり好きな人にはかわいいところ見せたいでしょ。

 それに次の日に行った水族館と動物園。夏祭りが楽しすぎて夜は

 全然眠れなかったから少しだけ寝不足だったの。

 でも家に湊が着た瞬間に眠さが一気に吹き飛んで元気になったよ。

 いろいろな海の生き物がいてみてて楽しかったよ。イルカショーが

 見れなかったのは残念だったけどおそろで買ったキーホルダーは

 初めてのおそろでめちゃくちゃテンションが上がってた。

 午後の動物園はいろいろな動物を見ていたけどやっぱりモルモットの

 ふれあいは断トツでうれしかった。でもそれよりも湊の優しさが見えた

 かき氷が一番うれしかったよ。来年も行きたかったんだけどな~、

 もし機会があったらさ行って感想を聞かせてよ!

 体育祭の準備だったり文化祭だったり月に一週間しか生活できないのに

 私の十七年間は湊のおかげでとても濃いものになったよ、ありがとう。

 それともう気づいているかもしれないけど私は湊のことが好きです。

 好きな湊がいたから笑えて学校に行くことができた。

 好きな湊がいたから笑って過ごすことができたの。

 本当にありがとう、湊は私にとっての最高の幼馴染であり好きな人だよ。

                                詩織より】


読み終えた俺の手には力が入り涙が頬を伝っていた。

さまざまな詩織との思い出がよみがえってくる。夏祭りで浴衣姿のテンションが

上がっている詩織、水族館でクラゲを眺めている詩織……

次々と浮かんでは消えて浮かんでは消えていく。


最後に俺は詩織の手をギュッと握って

「詩織……っ……俺も好きだ。まさか両想いだなんてな驚かされたよ……

 病気のことで心配かけたくなかったんだな……よくかんばったよ。

 俺も詩織が一番の心のよりどころだった。ありがとう、本当にありがとう」

涙を流しながら詩織との別れを惜しむ。

「決めた!詩織、俺は医者になるよ。これ以上病気で誰かが苦しむ世界は嫌だ。

 だから俺はそんな人を救えるような医者になるよ。見ててな」

詩織が好きだと言ってくれた“俺の優しさ”を、今度は俺が誰かに返す番だ。

もし知っていたら俺は彼女を好きにならないようにしていたのだろうか。

……いや、それでもきっと、好きになっていた。

涙で滲む視界の向こうで、詩織が少し微笑んだ気がした。

その笑顔ごと、俺は一生忘れない。

まずは読んでいただきたありがとうございました!

衝撃のラストに思わず涙ぐんでしまった人も多いのではないでしょうか。

書いている僕自身、かなり涙もろいので何回も涙ぐんでいました。

もしよければブックマークやいいね、評価をよろしくお願いします!

それではまたどこかでお会いしましょう!アオでした~!

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