第2話:正しさの裏にある“構造”を読む
物語の中には、明らかに“正しい”とされる行動がある。 主人公が誰かを助ける、悪を倒す、友情を貫く—— 読者も自然と「これは正しいことだ」と受け入れる。
だが、本当にそうだろうか?
たとえば、次のような場面を想像してみてほしい。
> 「友を助けるために、国家を裏切った主人公」
読者の多くは、「友情を優先したんだ。立派だ」と感じるかもしれない。 しかし、それによって救えなかった多くの市民や、信頼を裏切られた仲間がいたとしたら?
ここで問いたいのは、**「この行動は本当に正しいのか?」ではなく、「なぜ、正しいと思ってしまったのか?」**という視点だ。
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感情と構造のズレに気づく
私たちは、物語を読むとき、しばしば感情的に行動を“正しい”と判断してしまう。 それは、人間として自然なことであり、悪いことではない。
しかし、メタ認知的に物語を読み解くなら、その感情の根拠に目を向ける必要がある。
なぜこの選択に共感したのか?
逆に、なぜ反発したのか?
この判断には、どんな前提や背景があるのか?
これらを読み解くことで、物語の中の“正しさ”の構造が浮かび上がってくる。
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正しさは立場によって変わる
善悪や正誤の価値判断は、視点によって変化する。 ある国を守るための戦争が、別の国にとっては侵略であるように。
物語の中でも、「悪役」とされている人物に共感できる場面はある。 その人物の視点から見れば、主人公こそが敵なのだ。
メタ認知とは、**「自分が共感した側の外に、別の視点を持ち込むこと」**でもある。 「自分の正しさ」がどこから来ているかを確認し、「他の立場ではどう見えるか」を想像する。
これができるようになると、物語の解像度が一気に上がる。 キャラクターたちの葛藤や矛盾も、より深く理解できるようになるだろう。
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評価ではなく分析へ
「このキャラは好き/嫌い」「これはいい話/悪い展開」 こうした評価の言葉は、読者として自然な反応だ。
だが、そこに一歩だけ分析の視点を加えてほしい。
「なぜそのキャラを好きだと感じたのか?」 「なぜこの展開を納得できなかったのか?」
その問いを自分に向けることで、感情の背後にある価値観や、構造への期待が浮き彫りになる。
そのプロセスこそが、メタ認知を使って物語を読むということである。
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練習:立場を変えて再解釈してみる
読み終えた物語の中から一つのシーンを選び、視点を変えて見直してみよう。
主人公の敵側の立場だったら、どう感じただろうか?
傍観者の視点だったら、何を優先したいと思っただろうか?
自分自身がその世界の一般市民だったら、その行動をどう受け止めるだろう?
こうした練習を繰り返すことで、「感情に支配されない」「構造を読む」視点が育っていく。
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まとめ:正しさに“距離”を取る
第2話では、「正しい」と思った判断を、一度立ち止まって見つめ直す姿勢を紹介した。
感情的な共感は物語を楽しむうえでとても重要だが、同時に「なぜ共感したのか?」を考えることで、自分の中の価値基準を可視化できる。
正しさは絶対ではなく、立場や文脈によって変わる。 その変化を受け止め、**“共感しながらも疑う”**というバランスを持つことが、メタ認知的思考の真骨頂である。