沈黙の教室
静寂が支配する教室。生徒たちは、以前のような活気とは程遠い、どこか怯えた表情をしていた。それは、新しい政策「共感プログラム」の施行後、学校全体に広がった不穏な空気に他ならなかった。
このプログラムは、いじめを根絶するため、生徒全員に体内にセンサーを埋め込んだ画期的なものだった。センサーは、不快な感情を感知し、それを学校当局に送信する。いじめ行為は、たとえ言葉であれ、行動であれ、センサーが反応すれば、容赦なく裁かれることになった。
最初は、生徒たちは戸惑い、不安を抱いていた。しかし、次第に「いじめ」という行為が、もはや許されないものだと認識するようになった。
「相手をイジっただけ」という言い訳は通用しない。センサーが反応した以上、いじめとみなされ、厳罰が科されるのだ。
しかし、このプログラムには、予期せぬ副作用があった。生徒たちは、常にセンサーの反応を恐れるようになり、互いに距離を置くようになった。笑顔や笑い声も、以前ほど聞かれなくなった。
ある日、優等生だった美咲が、クラスメートの翔太に声をかけた。「翔太、宿題、わからないところある?」
翔太は、美咲の言葉に一瞬、戸惑った。そして、小さく頷いた。「あ、うん、ちょっと…」
美咲は、笑顔で翔太のそばに近づき、丁寧に説明を始めた。しかし、その瞬間、美咲の体内に埋め込まれたセンサーが反応し始めた。
「エラー!エラー!不快な感情検知!」
教室中に、警報音が鳴り響き、美咲は愕然とした。
「私、何もしなかったのに…」
美咲は、涙を流しながら、翔太に訴えた。「翔太、私はあなたを傷つけようとしていないの!」
しかし、翔太は、恐怖に震えていた。センサーが反応した以上、彼は美咲を「いじめた」ことになる。
美咲は、その場で逮捕された。
共感プログラムは、いじめをなくすという目的は達成したかもしれない。しかし、その代償は、人々の心を閉ざし、人間関係を断絶することだった。
真の解決策は、単なる監視や罰ではなく、互いを理解し、尊重する心を育むこと