閻魔大王IN現世
閻魔が提案した現世での行動計画は、当初は閻魔庁を含むあの世全体が困惑の意志を表し、拒否される様相を表した。
しかし、あの世全体での議論が深まるうちに、「暇な閻魔大王に現世の問題を解決させても特に問題は無いのでは?」とか、「現世で閻魔大王に勝てそうな悪鬼悪霊・怪異は居ない」という言論が出始め、
閻魔の提案から(現世時間でいうところの)1ヶ月程で閻魔の現世への派遣が決まった。
こうも短期間で閻魔大王の派遣が決まった裏側には、最近のあの世全体が、現世側との連携を推し進めようとしていたからである。
あの世と現世との間の連携で代表的なのは、現世に居る霊能力者や霊感保有者と一時的に協力し、現世における霊・怪異に関する諸問題を解決する、というものである。
しかし、霊能力者や霊感保有者にも当たりやハズレが有り、ハズレの者達が問題解決に動いた結果、二次被害とも言える問題が発生する、という事も多々あった。
話を戻すと、元々の問題、それらの新たな問題をまとめて解決できそうな人材は閻魔大王を除いて他には居ない、というのが、
あの世全体の結論、という事になった。
これにより、閻魔を派遣する具体的な場所の選定が行われ、
まず、現世における閻魔は 閻魔大王の名前を変えて、
王馬 円大という人物にする事になった。
次に、現世における あの世との連携実績が有る人物が運営する会社への派遣が決まり、その人物も 「あの世への信頼は高いので、我が社で良ければ構いません。」という返事を出し、閻魔の現世派遣の準備が整った。
あの世
三途の川
鬼1
「閻魔様、いいや、王馬様、どうぞご無事で」
鬼2
「何か有れば直ぐにご連絡を下さい。」
現世への出発の日、現世とあの世との境目である 三途の川にて閻魔の見送りが行われた。
見送りには閻魔庁の鬼や、あの世の他の王の代理の者、地獄の獄卒たちが現れ、閻魔を盛大に見送った。
現世
現世に到着した閻魔(王馬)は、久しぶりの現世に感嘆の声を出し、暫し現世を眺めた。
「おお・・・ここが・・・・・浄玻璃の鏡越しに見るのとは大違いだな・・」
暫し久しぶりの現世のを楽しんだ王馬は途中で己の任務を思い出し、冷静になった。
「さて、この場所に協力者が迎えに来るらしいが・・・」
王馬は、自分が出現した日本の地方に有る道の駅の前で辺りをキョロキョロと見渡した。
すると、駅前の駐車場に1台の乗用車が停まり、その中から1人の男が現れた。
そして、真っ直ぐ、駅の前に立つ王馬の前へと向かってきて、王馬の前まで来ると、笑顔を見せながら名刺を差し出しながらこう挨拶した。
「はじめまして。私は、株式会社データ・フォースの代表取締役社長、
牧島貴史、と申します。」
こう挨拶された王馬は
「王馬円大、と申します・・・話は聞いておりますかな?」
と、念のために聞いた。
すると、牧島は王馬の目を見ながらこう言った。
「あの世の偉い方、とお話は聞いております。」
そう言われた王馬は
(私が閻魔大王、という事は伏せて連絡が行ったか・・・まぁ、良い・・・)
と思案し、
握手のために手を出しながら、
「ならば、良いです。これからよろしくお願いします。」と言った。
王馬に手を出された牧島は慌てて手を出し、固い握手を交わした。
その後、2人は牧島の運転する車で会社へと向かった。
株式会社データ・フォース
本社ビル
メインオフィス
会社に到着した2人は早速、王馬が所属する予定の部署へと向かい、
研修を開始した。その際、牧島は会社の研修要員である角田を王馬に紹介した。
「さて、王馬さん、今日から貴方の研修を担当する角田君だ。」
こう呼ばれた角田という男が牧島の後ろから現れ、王馬に挨拶をした。
「初めまして。研修課の角田良道です。」
こう挨拶された王馬は誠実に返事をした。
「こちらこそ初めまして。研修の方、よろしくお願いします。」
こう挨拶を終えた2人は本格的に研修を始め、王馬の研修期間が始まった。
就業後、王馬は会社の敷地内に有る社員寮に向かい、今後、ここを現世における活動拠点とする事にした。
社員寮
自室
王馬が自室内で今日の研修内容を振り返っていると、寮内外を繋ぐ専用電話が鳴ったため、研修の復習を中断し、電話に出た。
「はい、王馬です。誰ですか?」
?「私です。今日はどうでしたか? 何か有ればご連絡をお願いします」
その声は 社長の牧島であった。
王馬は若干驚きつつも、冷静に対応をした。
「おお、社長自らご連絡を下さるとは・・・ありがとうございます。」
「いえいえ、私はあの世の方々には恩が有りますので、当たり前です。」
牧島はかつての出来事を思い出しながら言った。
王馬は牧島の言っている「恩」について、かつて見た報告書を思い出し、
「ああ、例のあれですか。かなり厄介だったようで。でも、まぁ、こう良い縁を結べる機会になったのは怪我の功名、と行ったところですな」。
と、言葉を選びながら言った。
それに、牧島は喜びつつも冷静に、
「ええ、本当に、あの悪夢が、このような結果を生むとは予想外でした。」
「これからもあの世との方々との連携が出来たら幸いです。」
こう言われた王馬は、
「そうですね。これからも様々な形で連携できたら嬉しいです。」
「ああ、そう言えば、牧島社長、この会社の近くに心霊スポットは有りませんか? 私の霊感に僅かながら反応が有るのですが・・・」
感謝を述べつつ、王馬の本当の任務に関係する質問をした。
「心霊スポットですか?うーん・・・・」
牧島は暫く思案を巡らし、押し黙った。
その沈黙に対し、王馬はこう付け加えた。
「今日は金曜日ですし、土日であの世の仕事をやろうかと。」
そう言われた牧島は数分の沈黙を破り、こう答えた。
「なるほど・・・あの世の仕事もやらねばならぬと・・・ああ、
今思い出しました。ここから電車で一駅の所に有る廃墟が幽霊が出るとか出ないとかでちょっとした騒ぎになっているとか・・・」
「ほほう?」
それを聞いた王馬は前のめりになり、牧島に噂の続きを言うように促した。
数分後
噂の詳細を聞いた王馬は牧島に感謝の意を伝え、電話を切り、明日早朝から噂の廃墟に行くことを決め、眠りについた。