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短編

夜の国

作者:

夕暮れからの数時間。あの、空が静かに表情を凍らせていく時間が好きだ。

いつもの丘の上、そこは誰も居ない特等席。一つだけ、麓の工場地帯を一望できる位置にベンチがあるので、それに腰掛ける。

良かった、誰もいない。時々紛れる木々が揺れる音以外は、僕と空の2人きりなのだ。そうであってほしい。

一方的なこのやりとりで数える指を折るくらい、友達と言えるような存在はいない。心のどこかで強がりながら、ただ自分の狡さゆえであることはわかっていた。それでも何を口出しするわけでない空間は、シンプルに居心地がよかった。

ただ来ては黙って見つめる僕が、勝手に許されたい気持ちになるのは、相手が手を出せない自然そのものだからだ。ついぽろっと、弱々しく言い訳をしたくなってしまう。闇がじわじわと周囲を覆うように、心の端から墨が滲んでくるのだ。

ゆっくりと染み出すように僕の中心目掛けて、たくさんの腕が伸びてくる。ノスタルジックな怠さというよりは、泣き出す直前のあのツンとし始める鼻の痛さのようなものを感じる。


やがて斜め後ろに広がっていた影は、この場の空気に溶けていった。

夜は冷たい。この頃急に冷え込んできて、風が髪を弄ぶ。ぴゅうっと細い空気の束が、冬の訪れをくすくすと囁きながら伝える。

今日も麓で煌々とする光の一部として、両親が働いている。両親だけじゃない。先生に卒業した見知らぬ先輩に、道ですれ違う誰かの家族。この町に限らず、生活するために他を選べる人はほぼいない。仕方のないこととわかっていても、冷えたおかずを家で一人で食べる時は、薄暗い休憩室で食べる時は、何も考えずに文字通りの糧を得ているに過ぎない。

夜景よ、そろそろ僕らを家に帰してくれ。

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