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惚れ直したのに違いない

 蜜柑は順調に売れているようで、再度三百個仕入れた。


 何回も買ってくれた、お客さんもいるようだ。

 商売では、リピーターが大切だ。末永くお付き合い願いたい。


 もっと、リピーターを増やそうと、焼き芋も売ることにした。

 やっぱり、蜜柑だけでは、店頭が寂し過ぎる。


 寒い冬は、ホカホカの石焼き芋が、手にも心にも暖かい。

 これは絶対いけるはずだ。


 「なぜ今まで、思いつかなかったのか」と自問すると。

 「違うことで、いつも頭が占められているからだ」と自答する。


 あんな事やこんな事が、好物で最優先だから仕方がない。

 偉い人が、「最高の夢は目覚めている時に見るもんだ」と言ってたそうだ。

 どういう意味かは、聞かないでほしい。


 仕入れた蜜柑と芋と一緒に、〈ハパ〉先生が王都にやってきた。


 主な目的は、騎士の〈リィクラ〉を見定めに来られたようだ。


 僕が勝手に雇ったから、領地の家臣が心配しているとのことだ。

 まあ、この一月で数えの十五になったとはいえ、まだ学生だしな。

 もう一歩、信用出来ないのだろう。


 来て早々、「南国果物店」の裏で打込み稽古をしている。

 二人とも勤勉だ。


 技量を計るためと、剣筋には自ずと人となりが表れるものらしい。

 もちろん、〈ハパ〉先生の受け売りだ。


 聞くのは怖いから、僕の剣筋は聞かないでおいた。


 小一時間稽古を続けていたが、〈ハパ〉先生は爽やかな笑顔で、噴き出た汗を拭いておられる。


 僕や〈ハヅ〉は「訓練」で、〈リィクラ〉とのは「稽古」と呼称する。

 何が違うのかは、知りたくはない。


 「〈タロ〉様、流石ですね。良い人と巡り合われた。技量も人柄も申し分ないですよ」


 「そんなことはありません。まだまだ若輩者です。

 技量も人格も、遠く〈ハパ〉先生には及びません」


 〈リィクラ〉も〈ハパ〉先生と呼んでいるぞ。

 速攻で、〈ハパ〉先生に師事したのか。


 似たものどうしか。

 打ち合って直ぐに、打ち解けてしまったようだ。


 「いや、〈リィクラ〉殿が居てくれたら、〈タロ〉様の護衛と稽古は任せられる。

 よろしく頼みますよ」


 嫌な予感は当たりかけている。


 気のせいに違いないが、「稽古」という単語が、聞こえたような気もする。

 プルプル。


 でも、学校は部外者禁止の寮だから、きっと大丈夫に違いない。


 〈ハパ〉先生の太鼓判が、〈リィクラ〉押されたので、〈ハヅ〉はお役御免となり、晴れて領地に帰れることになった。


 彼女に逢えるのは、大変嬉しいらしいが、船中での訓練と船酔いに、もうすでに青い顔になっている。

 馬車に乗って陸路で帰りたいという申し出に、僕は一考もせずにダメ出しをして、ニヤッと笑ってやった。


〈ハヅ〉は、僕の非情な返答に唇をきつく噛締めていた。

〈ハヅ〉が、ニヤッと笑うのをしばらく見ることが無いと思うと、一抹の寂しさがあるな。


 でもいつか、僕をニヤッと笑えるその瞬間を、虎視眈々と狙っているのだろう。


 入学式までもう日がない。


 出来上がっていて欲しい制服を、〈クルス〉と一緒に〈華咲服店〉へ取りに行く。


 「華咲服点」には、今日も誰も、いつも客がいない。


 小柄で陰気な店主は、今日も、作業台にうつ伏せになって、居眠りの最中だ。

 〈クルス〉も心配そうに店主の寝顔を覗き込んでいる。


 なんだこいつは。いつも昼寝をしている。


 大声で、「起きろ」と耳元で叫んでやった。


 「アッ、クワッ、ガゴ、ズルッズルッ」と、


 また、なにやら変な音を発しながら、店主が半身をバギと起こした。


 「うぁ、伯爵様、お早うございます。いらっしゃいませ」


 「注文してた制服はどうなった」


 「へへへ、それはもう、ちゃんと出来上がっておりますです。

 二晩ほど徹夜して仕上げましてさぁ。えぇ、もちのろん完徹ですよ。エヘヘヘ」


 徹夜や明けのためか、精神に些か変調をきたしているようだ。


 「心配してたけど、良かったよ。じゃ早速貰っていくよ」


 「私のことまで心配して頂いて、どうもありがとうございます。

 微調整をしますので、一度袖を通して下さい」


 制服を心配してたのであって、あんたのことは心配してない。

 まあ、微調整は必要なんだろう。


 出来上がったばかりの《黒鷲》の制服を着てみた。


 《黒鷲》の制服は、上着もズボンも黒で、袖と裾に青色のラインが入っている。

 襟は詰襟、真鍮製の金ボタンで、学生服と軍服の間みたいな感じの制服だ。


 着た感じ、窮屈さは無く、ダボダボでも無い。

 少しだけ大きくて、緩やかな感じだ。


 「どうですか、伯爵様。男の子なので、まだ、成長されると思って少し大きめに作っています」


 「そうか。成長分を見越しているのか。これで十分だ。

 初めて作った割には上手く出来ているんじゃないか」


 「この店への注文は初めてですが、下請けで何着かは作ったことあるのですよ。

 何度でも言いますが、注文は有難いのです。下請けでは辛いです」


 異世界に来て、中小企業の悲哀を感じるとは。


 〈クルス〉は、「〈タロ〉様、黒色が良くお似合いで、素敵です」と言って、じっと僕を見ている。


 これはどうも、惚れ直したのに違いない。

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