許嫁女子会(お友達)
【許嫁女子会(お友達)】
〈アコ〉が子爵家を訪問した時は、三人が親睦を深めるという名目で、お茶会をすることになっている。
今日が二回目だ。
「〈アコ〉様、お久しぶりです。お会い出来るのを楽しみにしていましたわ」
と〈クルス〉が切り出した。
「〈サトミ〉も楽しみにしてました」
「二人とも、歓迎して頂いてありがとう。私も、お二人に会うのが、待ち遠しかったですわ」
「早速なのですが、お二人にお聞きしたいことがあるのです」
「何ですか、〈アコ〉様」
「〈サトミ〉に分かるかな」
「〈タロ〉様のことなのですけど。今日お会いしたら、凄くしっかりされていましたわ。こう言ったら何ですけど、前は随分と大人しい方だったと思ったのですが。お二人は、どう思っていらっしゃいます」
「〈サトミ〉も、ビックリしてます。ほんとに大人しい、喋らない子だと思ってたのに、最近は喋るし、すんごく、しっかりしているよ。お父さんも、人が変わったようにしっかりされて、安心だと言ってたの。階段で頭を打って、ネジがはまったんだろうと言ってる人もいるよ」
「ゴホン。〈サトミ〉さん、三人の時には、多少砕けても構いませんが、〈タロ〉様は敬って下さい」
「ごめんなさい、〈クルス〉さん。気をつけます」
「〈サトミ〉さんの言うとおり、〈タロ〉様は本当に変わったと、私も思います。自分から話しかけられますし、会話の内容もまるで大人のようです。一度に十歳くらい、お年を取られた感じですね。教会の〈ウオィリ〉教師も、勉強への意欲が違うし、理解力が段違いに上がったと仰っている様です」
「〈クルス〉さん、やはりそうですか。お二人とも、そうお思いなのですね。思い違いではないと思いますわ。兵長さんも、〈ウオィリ〉教師も仰っているということは、周りの人の感じ方も一緒と言うことですね」
「そうなんです。〈サトミ〉の家でも、みんなビックリしてます」
「それと〈サトミ〉さん、〈タロ〉様は、階段から落ちられたのですか」
「そうなんです。〈サトミ〉がお父さんに聞いた話では、二十日ほど前に落ちられて、五日ほど目を覚まさなかったって言ってました。頭を強く打たれたらしいです」
「それは大変なことがあったのですね。でも、元気になられて良かったですわ。それにしても、頭を強く打って、悪くなる話は聞いたことがありますが、良くなる話は聞いたことがありませんね」
「〈アコ〉様の仰るとおりですが。子爵家の重臣の中では、「頭部の激しい痛みが引き金になって、稀なことだが一気に成長された」との結論になったようです」
「そうですか。激しい痛みで一気に成長ですか。〈タロ〉様、痛かったでしょうね。お可哀そうに」
「〈アコ〉様、〈クルス〉が思うところ、これは私達にとっても良い兆しだと思います。正直に言いますと、以前の〈タロ〉様へ嫁ぐのは大変不安でした。あのような感じでは、子爵家の将来も、結婚後の生活も、ともに上手くいかない可能性が高いと思っていました。でも今は、何とかなるのではと思っています」
「〈サトミ〉には子爵家の将来は分かんないけど、〈タロ〉様とちゃんと喋れるようになって良かったと思うよ」
「〈クルス〉さんの言うとおりね。ダンスの練習の時も、前のように人形みたいでは在りませんでしたし、あの手遊びは楽しかったですわ」
「そうでした、楽しい遊びでしたね。結婚した後も、あんな風に楽しかったら良いですね。そこで、提案なのですが、よろしいでしょうか」
「提案ってなに。楽しいこと」
「〈クルス〉さんの提案を聞かせてください」
「数年後に私達は、一人の男性の正妻と側妻という関係になる運命です。複数の妻がいるため、妻同士の争いが起こる可能性が大きくなることは、ご承知だと思います。しかし、出来れば争いなど無く、暮らして行ければ良いと、私は思っております。そのため、反目し合うのでは無く、互いを尊重する、取り決めを結ばせて頂ければと考えています。どうでしょうか」
「〈サトミ〉は賛成だよ。争いたくないもの」
「〈クルス〉さん、私も仲良くしたいわ。妻同士が争うと、本当に酷いことに成るのは、身に染みて分かります。ただ、私には夢があります。いつかお二人にお願いしたいと思っていたのです」
「えっ、〈サトミ〉に夢のお願い」
「取り決めと、関係があるのですか」
「少し違いますが、関係はありますわ。思い切って言いますが、寂しい話ですが、私にはお友達が一人もいないのです。だから、もし良ければ、お二人にお友達になって頂きたいのです。お友達と色んなおしゃべりをするのが、前からの夢なのです。一方的なお願いなので、もちろん、断って頂いて構いませんわ。どうですか」
「えーと、〈アコ〉様は貴族で、〈サトミ〉達は平民だよ」
「そんなことは、全然気にしないでください。忘れて欲しいのです」
「〈アコ〉様、実は〈サトミ〉さんも私も友達がいないのです。一緒に過ごしてくれる、相手がいないのです。こんな二人と友達になっても仕方が無いし、イライラするだけだと思いますよ」
「まぁ、二人ともお友達がいないのですか。それでしたら、なおさらお願いします」
「〈サトミ〉は、お友達になるよ。ヘへッ、お友達になって、ほしいって言われたの初めてなんだ。うれしいな。でも、〈サトミ〉が変なこと言ったり、変なことしても怒らないでね」
「まぁ、〈サトミ〉さん有難う。でも、〈サトミ〉さんが、変なことを言ったり、したりするのですか」
「そうみたい。皆が変なこと言ったり、するって、〈サトミ〉のこと怒るの」
「まぁ、可哀そうに。私は絶対怒ったりしませんわ。だって、〈サトミ〉さんは、凄く可愛らしいですもの」
「ヘへッ、〈サトミ〉って可愛いのかな。うれしいな。〈アコ〉様はすっごく色っぽいよ」
「い、色っぽいですか。でも、有難う。それと、お友達だから、様付けは型苦しいわ。呼び方は、〈アコ〉ではダメかしら」
「〈アコ〉様を呼び捨ては無理。〈アコ〉さんも変だな。一個年上だし。〈アコ〉姉さんでどうかな。私は〈サトミ〉で良いよ」
「まぁ、〈アコ〉姉さんて、素敵な呼び方ですね。妹が出来たみたいで嬉しいわ。でも、もっと親しくしたいの。〈サトミ〉ちゃんでどうかしら。可愛いく「ちゃん」付けで呼び合ったらダメかしら」
「〈アコ〉様、〈サトミ〉が〈アコ〉ちゃんって本当に呼んで良いの」
「ええ、〈サトミ〉ちゃん。そう呼んで下さったら嬉しいわ」
「私は、〈サトミ〉よりもっと問題がある人間なので、お友達にはなれないと思います。ただ、取り決めの話をしたように、友達に近い、友好的な関係でありたいと思っています。〈アコ〉様それではダメでしょうか」
「いいえ、もちろんそれで構いませんわ。〈クルス〉さん有難う。お友達は、本当は自然と出来るものだと、私も分かっているのよ。ただ、いつもお二人に会えるわけではないので、無理を承知でお願いしたの。断られたらどうしょうと、ドキドキしてたわ。良かった。〈クルス〉さんとも友好関係になれたから、私の呼び方は、〈アコ〉でどうかしら、同い年だもの」
「私も〈アコ〉様を呼び捨てには出来ません。〈アコ〉さんでどうでしょう。私は〈クルス〉と呼び捨てが良いと思います」
「分かりました。最初は〈アコ〉さんで良いですわ。私も最初は〈クルス〉さんって呼ばせて頂きます」
「最初? ずっとだと思いますが、分かりました」
「お二人とも、私の望みを叶えて頂いて、本当に有難うございます。それと、〈クルス〉さんの取決めのお話を遮ってしまって、申し訳ありません。〈クルス〉さん、取決めはどう言うふうにしましょう」
「〈アコ〉さん、すでに友好関係になることを約束して頂いたので、取決めをしたのも同然です お互いを尊重し合うことが重要だと思いますので、これから、三人で話し合っていけたら良いと思います。私の言った取決めは、すでに結ばれたと考えています」
「〈サトミ〉は良く分かんないけど、二人と仲良くしたいな。いっぱい、お話もしたいな」
「〈クルス〉さん、分かりましたわ。お話しをすれば、良いのですね。先ほども言いましたが、私は前から友達と、お話をしたいと思っていました。今からしましょうよ。何のお話をしましょう。ダンスのお話。それとも美味しいお菓子のお話が、良いのかしら」
「〈サトミ〉は、お菓子のお話が良いな」
「少し話が逸れています。でも、友好関係を築くには、それも良いのかもしれませんね」
「決まりですわね。お菓子の話を始めますわよ。《ハバ》の町の名産のお菓子よ。そのお菓子は・・・」
ー それから、三人は少し遠慮勝ちに、でも、時が経つのを忘れて色々なお話をした。〈アコ〉の従者に、「明日早朝に発つので、もう寝なくてはいけません」と注意されるまで ー