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〈細密宝貴石細工店〉

 門を入って進むと、大きな広場に出た。


 一本の大きな楠を中心に、石畳が張られ、ベンチも扇型に配置されている。

 夏は木陰が出来て、学生達の憩いの場所になるのだろう。


 広場を右方向に進むと、また門が見えてきた。

 扉の装飾が、薄紅色の鳩の群が遊ぶ様をモチーフにした華やかな門だ。


 どうやら、学校ごとに独立しているようだ。


 学園都市の中にある四つの学校が、また、それぞれ別の壁に囲われて、相互に行き来が出来なくなっている。


 これじゃ、〈アコ〉と〈クルス〉においそれと逢えないじゃないか。

 なんてことだ、責任者に出てきて欲しい。


 「ご領主様、ここは平民の女子が学ぶ《赤鳩学舎あかばとがくしゃ》ですが」


 と〈リィクラ〉が、小声で注意してくれる。


 僕は「鳩の装飾が、綺麗だから見てたんだよ。右か左かどっちだ」


 と顔を赤くしながら、〈リィクラ〉に聞いた。


 〈ハヅ〉がニヤッて笑ってやがる。

 なんてヤツだ。ここは見て見ぬふりをするところだぞ。


 「左の奥です。左直ぐは、平民男子の《青燕学舎あおつばめがくしゃ》で、右は貴族の女子の《白鶴学舎しろづるがくしゃ》です」


 僕が全然分かってないのを察知して、〈リィクラ〉が教えてくれる。

 〈リィクラ〉は、心遣いが出来るな。


 左に歩いて行くと、外側の壁際に、大小様々な小売店や飲食店が、立ち並んでいるのが見えてきた。

 右側にもあるはずだから、かなりの店舗数だ。


 今は、学舎が冬休み中のため、店を閉めているが、壁の内側でも、十分生活が成り立つな。


 また進むと、《青燕学舎》が見えてきた。


 ここの扉の装飾は、街の上を滑空する数多の燕をモチーフにしている。

 高速で飛び回る様に、見ている方も思わず爽快感を覚える。


 また、結構歩くと、扉の装飾が、鷲をモチーフにしている門が見えてきた。

 目的の《黒鷲学舎くろわしがくしゃ》に到着した。


 思っていたよりかなり遠い、一校当たりの敷地も広大だ。


 門の装飾は、一頭の黒い鷲を大胆に表現しており、今にも襲ってきそうな迫力がある。


 門番の衛士によると、試験当日まで立ち入り禁止とのことで、中には入れず、護衛適性の確認と下見は終わった。


 〈リィクラ〉は、武辺だけだと思っていたが、そうでもないな。


 「南国果物店」に帰ると、カップルの引っ越しと、僕達の寝室の準備は完了していた。


 お手伝いカップルだけあって、荷物はほんの僅かだし、僕達のは家具と寝具を配達してもらっただけだ。


 部屋の配置は、〈リィクラ〉と〈ハヅ〉が一階で、二階が〈カリナ〉、三階が僕となっている。


 〈クルス〉が、王都に来たら、〈カリナ〉と同じ二階に泊まる予定だ。

 面の皮を厚くする修業が足りず、三階が良いとは、とうとう言い出せなかった。


 「〈カリナ〉、教えて欲しいんだが、この辺で宝石を扱っている商店を知らないか」


 「そうですね。私には今まで縁が無かった店なので、知っているのは、この通りの端の方にある〈細密宝貴石細工店〉だけです。宝飾細工を主にしているお店ですが、小売りも行っているはずです」


 「有難う。〈カリナ〉の紹介で来たと言ってみるよ」


 「一度も買ったことが無いので、私の紹介では効果は薄いですよ」


 〈カリナ〉の言った「今まで縁が無かった。一度も買ったことが無い」は、僕だけじゃなく、多分〈リィクラ〉にも聞かせているんだろう。


 〈リィクラ〉に悪いことをしたな。


 〈細密宝貴石細工店〉に行くと、年老いて痩せた男性が店の奥から出てきた。


 付いて来いとは、言って無いけど〈リィクラ〉が律儀について来ている。

 僕もそうだけど、〈ハヅ〉は領地の感覚が抜けずに、〈カリナ〉と話の最中だ。


 店の中には、〈カリナ〉の言ったとおり、陳列している宝飾品は少ししかない。


 「邪魔するよ。〈カリナ〉に、この店が良いと聞いてきたんだ。材料持ち込みで、髪飾りを作って欲しいんだ」


 「これは、これは、《ラング》伯爵様、ようこそ起こし下さいました。〈カリナ〉達のことは、他人事ながら心配していたのですが、伯爵様に救って頂いて、大変感謝しています。今度は、果物店を開かれるそうで、この通りも賑やかになって有難い限りです。こんな小さな店ですが、うちの店は、細工が専門ですから、何でもお申し付けください」


 「そうか丁度良かったよ。材料はこれなんだ」


 店のテーブルに、《紅王鳥》の羽と紅水晶を置いた。


 「おぉ、《ラング》伯爵様、これはまさか」


 「本物だよ」


 「《ラング》伯爵様、狭いですが、店の奥にいらしてください」


 店の奥には狭い作業場があって、小さな椅子に腰かけるよう勧められた。


 所狭しと色々な細工の道具が壁に掛けてあり、細工途中の群青の貴石が、机の上に乗っている。


 「伯爵様、本当に狭くて申し訳ないですが、《紅王鳥》の羽を店先で見るわけにはいきません。

 怖いですよ」


 「怖い」


 「悪人に見られたら、強盗に入られます。信じられないほど高価なものですからね」


 「そんなに高価なの」


 「つい最近、《タラハ》の町の商人が王宮に持ち込んで、百金貨近い値が付いたという噂です」


 「百金貨」


 倍の値段で売ってやがる。

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