〈西部大街道〉
うーん、それにしても。
総司令官と副司令官か、間の司令官はどこへ行ったんだ。
どこにも行ってないのか。
ここにいるおっちゃんが、まだ司令官なんだな。
そう考えて〈バクィラナ〉公爵の方をチラッと見たら、また僕にウインクを返しやがったぞ。
うげぇー、まさか僕に気があるんじゃないだろうな。
勘弁してちょうだい。
それに比べて《セミセ》公爵は、いつになく真剣な表情で座っているぞ。
〈王都旅団〉と〈西部方面旅団〉が、誰が考えても上手くいきそうにないから、胃が痛くなったんだろう。
一度たりとも合同演習などを、やっていないに決まっている。
〈海方面旅団〉もやっていないと、胸を張って言えるぞ。
《ナセ伯爵》の方はと言うと、全く何も考えていないようだ。
たぶん、〈副旅団長〉に丸投げしているので、自分は関係ないと思っているのだろう。
まあ、〈旅団長〉としては、当たり前のことだな。
大変良く分かる話だよ。
〈王国御前会議〉が終わり、ゾロゾロと部屋を出て行く時に、〈サシィトルハ〉王太子に呼び止められた。
「《ラング伯爵》、兵站を君に指名させて貰ったよ。今回の作戦は迅速が肝だから、直ちに兵糧を《ルダ》の町へ届けて欲しいんだ」
かぁー、指名なんてするなよ。
これが〈サシィトルハ〉王子を、応援していた報いなのか。
嫌になるな。
「はっ、ご命令仰せつかりました」
僕は長い物にクルクルと巻かれ、権威に媚びへつらい、安寧を勝ち取ることをモットーしているんだよ。
〈サシィトルハ〉王太子は僕に言い捨てて、速足で颯爽と去って行った。
〈王都旅団〉を率いて、直ぐに出立するつもりなんだな。
《セミセ》公爵が、ヘコヘコと後をついていっているぞ。
「〈副旅団長〉、《ルダ》の町へ兵糧を直ぐに届けろってさ」
「はっ、準備は整っております。いつでも命令をしてください」
何だか言っても、〈副旅団長〉も真面目なヤツだな。
「それじゃ、出発だ。でもくれぐれも、王太子を追い抜いちゃいけないよ」
〈海方面旅団〉は、三十台以上の馬車のキャラバンを組んで、《ルダ》の町へ歩みを進めている。
追い抜く心配は、全く必要なかった。
普通に進めば、兵站部隊より前線部隊が遅いわけがない。
こっちは、重い荷物を運んでいるのだからな。
王都から《ルダ》の町へは、〈西部大街道〉と言う大きな道を通って行くので、それほど日数はかからないようだ。
これなら、〈サトミ〉の〈緑農祭〉に、何とか間に合うだろう。
まん丸のおっぱいが揉めそうだと、天幕で眠る前に、僕は満月を見て思ったよ。
両手が痴漢をする前のように、〈サトミ〉のおっぱいを想像して、お椀型になっていたはずだ。
〈サトミ〉もきっと僕のを想像して、箒の柄を握っているはずに違いない。
細い柄だったら悲しいな。
まさか痴漢のように、箒で僕を叩いたりしないよな。
ちょっと心配だよ。
《ルダ》の町へ近づくと、戦闘が町の周りで繰り広げられていた。
〈青白い肌の男達〉が、《ルダ》の町を取り囲んでいたのを、〈王都旅団〉が急襲したらしい。
包囲戦をしている背後を突かれれば、軍隊はとても脆いと学舎で習った覚えがある。
軍隊は後ろからの攻撃に、とても弱いのは常識だと思う。
おまけに町を包囲するために、大きく広がっているので、陣形の厚みがほぼゼロだ。
一千人以上いたらしいけど、さすがに町を囲えばとても薄くなってしまう。
敵の勢力圏で立てる作戦じゃないぞ。
無茶苦茶やってやがる。
こいつ等には、戦術がまるでないんだな。
王太子の緒戦は、これ以上ない鮮やかなる完勝だ。
速さを優先した作戦が、バッチリと当たったな。
見る見るうちに、〈青白い肌の男達〉が散り散りなって逃げていくぞ。
倍以上の敵を僅かな死傷者を出しただけで打ち破り、町を解放したんだ。
王太子は、表情筋がピクピクと動いて笑みが隠せないみたいだな。
敵が掃討された町の門に、王太子が入って行くようなので、僕達も入ることにしよう。
馬車に積んでいる荷物を降ろせば、僕の任務は完了だから〈緑農祭〉までには帰れると思う。
後十日は、あるからな。
「えぇー、《ラング伯爵》は、もう着いたのか」
王太子が呆れたように僕に言うけど。
良く言うよ。
あんたが、直ぐに届けろって言ったんだろう。
「はぁー、直ぐって言われましたよ」
「それはそうなんだが。異常に早過ぎて吃驚しているんだ。兵站部隊なのに、普通の部隊と変わらないじゃないか。荷を集めるだけで、普通はもっとかかるはずだよ」
「ははっ、部下が優秀なんですよ」
半分以上は〈副旅団長〉の奥さんの功績だ。
僕の嫁が、特別に手土産を渡すだけのことはあるな。
《セミセ》公爵は、困ったような顔をしているな。
「それにしてもだ。早過ぎるぞ。〈西部方面旅団〉は、今ようやく出発したんだぞ」
《セミセ》公爵は、あまりにも早く戦闘が決着したので、〈西部方面旅団〉にグチグチ言われるのだろう。
でもそれは、〈海方面旅団〉には関係ない話だ。
〈はき違えてもらっては困る〉とは、僕は言わなかった。




