表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/710

死兵

 遠くの方から「ドドドッ」と蹄の音が、聞こえてきた。


 その直後、〈ハヅ〉と兵隊が「敵襲だ」と叫んで、走って帰ってくるのが見える。

 騎馬と徒歩では速さが違い過ぎて、効果的な偵察とはならなかったな。


 騎馬隊は、勢い良く走りこんできたが、柵を発見して、急制動をかけた。

 しかし、車と違って、馬は急には止まれないようで、柵にぶつかる馬が続出している。

 騎乗者は地面に投げ出され、馬に踏まれた者もいるようだ。

 中には、左右に逃げ場がなくて、鉄の三角の槍に刺さった馬も出てきている。


 後続の馬に押しつぶされる形になった馬もいて、柵の前で、騎馬隊は大混乱だ。

 百騎ほどの騎馬隊のうち、三十騎は、戦闘不能となった。


 王国軍特別遊撃隊も盛んに、弓矢と槍で応戦して、少しづつだが、さらに敵兵を無力化していく。


 騎馬隊は機動力を失うと脆い、柵という防御壁があるのも心強い。


 敵兵はこちらの三倍以上だが、この分じゃ、船に逃げ込む必要もないな。

 指揮官が逃げると、士気に関わるからなと考えていると。


 徒歩になった二十人ほどの敵兵が、柵を乗り越えようとしているのが、視界に入った。


 乗り越える時は、一時的に無防備になるため、半分近くが、味方の攻撃でやられている。

 乗り越えても、柵のこちら側では、寡兵だ。また、数を減らしていく。


 敵は、切羽詰まって無謀な攻撃を仕掛けてきたな。


 ただ、生き残った敵兵は、精鋭の様で、味方の兵士の間を巧みにすり抜けて、接近してきた。

 一直線に僕を目指して、兵士の攻撃をいなしながら、進んでくる。


 迫って来た敵兵を、兵長と〈ハヅ〉と〈ハパ〉先生が迎え撃った。

 三人の動きは流石で、精鋭の兵士もものともしない。

 完全に敵兵を抑え込んでいる。少しヒャッとしたけど、大丈夫だなと思ったその時。


 敵兵三人が、兵長と〈ハヅ〉と〈ハパ〉先生の剣に自分から刺さりにいって、命を振り絞って剣の柄を両手で、固く握りしめた。


 敵兵の真ん中にいた、一際豪華な兜と鎧を付けた〈ティモング〉伯爵と思しき敵が、僕に迫ってきた。

 乱戦の中、豹を思わす俊敏さで、かき分けて来る。〈ハパ〉先生の剣は、今抜けたところだ。


 驚くほどの技量で、僕の喉笛を目掛けて、疾風のように剣を突き刺してきた。

 恐ろしく素早くて、正確だ。これはヤバイ。僕は慌ててスキルを使った。


 刹那の後、〈ティモング〉伯爵が、目を大きく開いて、何があったか分からないという顔で、横にいる僕を見ている。

 外すとは思っていなかったんだろう、体勢は前に大きく崩れている。


 僕は持っていた剣で、隊長の脇腹を突き刺した。

 剣は、あばら骨に当たって、「ゴギッ」って鳴った後、骨の下を滑って、内臓まで到達したようだ。


 〈ティモング〉伯爵は、そのまま前のめりに倒れて、口と脇腹から大量の血を流した後、動かなくなった。

 〈ハパ〉先生は、念のためか、背中から伯爵の心臓に剣を滑り込ませながら、「大丈夫ですか」と聞いてくる。


 「怪我はないですか」

 

 「痛むところはないですか」と兵長と〈ハヅ〉も聞いてきた。


 「大丈夫だよ。何とも無いよ」と勤めて平静を装い、僕は答えておいた。


 その後直ぐに、兵長は、「《ラング》子爵〈タロスィト〉は、ここに、〈ティモング〉伯爵を討ち取ったり」と大きな声で、勝ち名乗りをあげた。

 これに呼応して、味方の兵士達も「勝ったぞ」「勝利は我らのもの」と口々に、勝鬨を上げ始めた。


 これで、ここでの戦闘は決着した。柵の向こうの騎馬は散り散りになって、逃げ去っていく。

 敵兵で死んだ者は、三十名はいるようだ。


 「領主様、命がけでお守りすると言っておきながら、申し訳ありません。

 続けて主君を失うところでした、情けない限りです」

 と兵長と〈ハヅ〉が頭を下げてくる。


 〈ハパ〉先生も、「護衛の役目が果たせず、面目ありません。慢心しておりました」と、僕に謝ってくる。


 「いや、僕の判断が悪かったんだ。早めに船に引き上げれば良かったんだよ。皆のせいじゃないよ」


 「そうであっても、領主様を守るのが、我らの使命。一番大事なことが出来ておりませんでした」


「僕はかすり傷一つないよ。あんな死兵がいたらしょうがないよ。皆、無事ならそれで良いじゃないか。これを教訓にしたら良いだけさ。ここまだ戦場だから、この話は帰ってからしよう」


 僕は捲くし立てて、話を有耶無耶にした。

 誰かが悪い訳じゃない、敵も命がけだっただけだ。


 この話を終わらせてから、〈ハヅ〉が、「領主様、それにしても、良く伯爵に勝てましたね。実戦で本領を発揮するなんて、凄いですね。初陣なのに落ち着いているし、やっぱり大物ですね」


 「伯爵は、負け戦で平常心じゃなかったんだよ。実力の半分も出て無かったんだろうね。

〈ハヅ〉の方こそ、初陣でたいしたもんだよ」


 二人で褒め合っていると、じっと〈ハパ〉先生が見ている。先生に、見られていると何か怖い。


 重傷を負ったものは、七名、軽傷者は九名もいたけど、奇跡的に味方の死者はいなかった。

 柵で足止めが出来、柵越しで敵と相対出来たため、落ち着けたし、余裕が生まれたんだと思う。

 敵の状況は、真逆だったのだと思う。


 当初の作戦指示は、敵船の牽制だったが、衝角を使った突撃はまだしも、騎馬隊との戦闘は、指示とは大きく違っている。

 しかし、船舶を運用する以上、入り江と湾の確保は重要だ。

 作戦指示からは逸脱しているが、問題とされることはまずないだろう。


 敵増援部隊と騎馬隊を壊滅させたのは、戦略的にも、大きいことだからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ