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接待剣術

 近衛隊が、両王子のちょうど真ん中に固まって、壁のようになっているぞ。


 〈タィマンルハ〉王子が、この練習に参加しているのは、謎だけど。

 たぶん、近衛隊が漏らしたんだと思う。

 近衛隊は、かなり無理をしてでも、中立を保とうとしているんだろう。

 近衛隊が支持をした王子が、継承出来なかった場合は、かなりマズイことになるからな。

 そんな危険は、おかせないんだろう。


 ただ、僕達と剣の練習をしたところで、継承争いのバランスが崩れるわけがない。

 そう考えると、大きな疑問が残るな。どう言うことなんだろう。

 でも、もう剣の練習は始まるのだから、今更いまさらだとは思う。


 最初の練習相手は、〈サシィトルハ〉王子だ。

 〈リク〉は〈タィマンルハ〉王子で、〈サヤ〉は近衛隊の若い隊員だ。

 若い隊員は、若手の中で有望株なんだろう。


 「ふっふっ、《ラング》伯爵、早朝稽古以来だな。最近、練習出来ていないから、お手柔らかに頼むよ」


 「ははっ、私も練習はサボり気味です。こちらこそ、お手柔らかに頼みますよ」


 はっ、誰が王子を相手に、本気で剣を振るうか。


 木剣であっても、当たり所によっては、骨折させてしまう。

 そんなことになったら、大騒ぎになって、大問題となるに決まっている。

 そんなに、僕はバカじゃない。適当に、合わせておこう。


 〈サシィトルハ〉王子の剣の腕は、そこそこなので、余裕を持って合わすことが出来る。

 〈リク〉の方はどうだ。

 まさか、王子相手に、まともに剣を振るってないよな。

 見ると、〈リク〉は何とか、上手くやっているようだ。

 〈タィマンルハ〉王子に、木剣を打ち下ろさせて、小気味いい音を出させている。

 思い切り木剣を振るえるので、王子も楽しそうだ。


 ただ、〈リク〉は細心の注意を払って力を抑えている。

 ものすごく抑えているので、眉間に皺が寄っているぞ。

 あれはあれで、大変そうだ。

 スキルが第二段階に進んだので、弱い力で木剣を振るうのが難しいのだろう。

 僕と鍛錬する時も、このくらいにして欲しいな。


 〈サヤ〉の方は、見たくないな。

 見ないでおこうか。

 でも、そうもいかないか。


 さっきから、カンカンと木剣で、激しく打ち合う音が練武場に鳴り響いている。

 若手の有望株は、必死の形相で、何とか〈サヤ〉の剣を防いでいる。

 王子が、二人も見ているんだ。

 女なんかに、後れを取るわけにいかないと、思っているのだろう。

 近衛隊全体を背負っていると、思っているかも知れないな。


 ご愁傷様しゅうしょうさまと思う。

 あなたは悪くない。

 悪いのは、〈サヤ〉と剣をまじえたことだ。


 〈サヤ〉は、余裕の表情で、若手の有望株と対峙している。

 軽快な動きで、相手を翻弄ほんろうしてやがる。


 〈リク〉や〈ハヅ〉には、まるで敵わなくなってしまい。

 魔獣を討伐してスキルが、第二段階の進んだ兵士達にも、負けるようになっていた。

 それで、相当フラストレーションを、ため込んでいたと思う。

 それを今、若手の有望株に対して、吐き出しているんだろう。


 でもな。

 吐き出されている方は、大迷惑だ。

 汗をダラダラと流して、目が血走っているぞ。


 「《ラング》伯爵は、余裕だな。余所見よそみをしているな。僕が相手では、不足なんだな」


 げぇー、マズい。

 適当に相手をし過ぎた。

 〈サシィトルハ〉王子が、怒っているぞ。


 「ほへぇ、そんなことは、ありません。今から、とっておきを披露しますよ」


 「ほぅ、とっておきとな。それに、期待しよう」


 僕は、左右の上段から、素早く切り下ろしを、続けて放った。

 時折、〈甲〉や〈胴〉も狙うことも、忘れない。

 単調過ぎる攻撃では、意味がなくなってしまう。


 王子は、僕の切り下ろしを、受け返したり、巻き込んだりしてさばき続ける

 まだまだ余裕が、ありそうだ。


 でもここで、秘太刀の挙動に入ろう。

 決めることが、目的じゃないからな。


 王子の頭を、狙うと見せかけて、木剣の背を強く打った。

 その後、木剣を素早く持ち替えて、一転、〈甲〉を狙う。

 立ち位置も、素早く右に回り込んでいる。

 王子のきょをついたみたいで、反応出来ていないようだ。

 右の〈甲〉が、無防備に僕の目の前に、さらけ出されている。


 後は、この〈甲〉へ、木剣を切り下ろせば良いだけのことだ。

 ただ、僕は王子から、一本取ろうと何て、欠片かけらも思っていない。

 いかに王子に、気分良くこの練習を、終えて貰うしか考えていない。


 だから、右に素早く回り込んだため、姿勢を崩した風をよそおった。

 王子の〈甲〉への切り下ろしは、極々浅いものにしたんだ。

 体勢が崩れて、浅くなったって理屈りくつだ。


 体勢が崩れて、無理やり切り下ろしたんだ。

 僕は、大きなすきを作っている。

 王子は、その隙を見逃さずに、僕の〈面〉をポンと叩いた。

 その位の腕は、王子も持っている。


 「それまで。〈サシィトルハ〉王子の、一本勝ちです」


 近衛隊のおっさんの、大きな声が響いた。

 王子が勝ったので、満足そうな顔をしている。


 僕の接待剣術の、えを見たか。

 すごいだろう。

 

 「おぉ、今のは、意操流いそうりゅうの秘太刀〈黒鷺〉じゃないか。危うく、一本取られるところだったよ。すごい技を持っているな」


 「しかし、ものに出来ていません。まだまだ、精進不足しょうじんぶそくです」

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