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〈アコ〉の見送り

早朝から、出航の準備で大童だ。

停泊が一晩だけなので、必要な物を補充するのに、皆は忙しそうに働いている。


僕はこれと言ってすることが無いので、船尾に一人、佇んでいた。

港の岸壁には、戦争の行方を心配しているのか、暇なのか、十数人が、「深遠の面影号」を見ている。

衝角を見て何だろうと、言っているようだ。

船長が、文句を言うほど不格好じゃないが、ちょっと恥ずかしいぞ。


物資の補充も出来たようで、もやいであったロープも解かれて、いよいよ出陣だ。

「深遠の面影号」は、大きな船体をゆっくりと岸壁から離していく。


岸壁では、若い女性が慌てて走って来るのが見えた。


良く見ると〈アコ〉じゃないか。髪は乱れて、息も上がって苦しそうだ。

服も泥だらけで、持っているバスケットも壊れて、歪んでいる。

僕を見送るために、急いで走ってきて、転んだんだな。


「〈アコ〉、良く見送りに来てくれた。ありがとう」


「ハァハァ、〈タロ〉様。間に合って良かった。必ず無事帰ってきてください。

私、祈ってますから」


「分かったよ。必ず帰ってくるから、心配しないで」


後から、〈アコ〉の隣に駆け込んできた初老のオッサンが、〈アコ〉の持っているバスケットを、全力で僕に投げてきた。


危ないことをするな。もう少しで当たるところだったじゃないか。

 バスケットは壊れているので、中身がサンドイッチなのが、分かった。


〈アコ〉も「困ります」って言ってるようだ。


 何だこのオッサンはと、目を凝らすと、西宮で門番をしていた人だ。

 しきりに手を口にもっていっている。


「アッ」と分かって、僕は、黒いところがあるサンドイッチを手に持って、大口を開けて、バクバク食べた。

 勢いよく三切れとも食べた。

 泥がついていて、口中がジャリジャリなったけど、些細なことだ。


〈アコ〉は、泣顔を両手で覆って隠している。

 岸壁からの距離が大きくなって行くので、声を大きくしないと聞こえなくなってきた。

 

僕は手をメガホンにして、「美味しかったよ。ありがとう」と大声で叫んだ。


〈アコ〉も何か叫んでいるようだが、女の子の声量ではもう聞こえない。

周りの人達が大きく手を振っているのも、やがて見えなくなった。


《ベン》島は、それほど離れていないので、昼前には着いた。


 湾内に進出すると、すでに敵船団が、十数隻待ち構えている。


「深遠の面影号」の2/3位はある大きな船もある。

 この船の方が大きいとは言え、一隻では厳しいな。

 敵の策に嵌まった感じだ。

 もっと慎重に作戦を立てる必要があったのだろう。


 船長が声をかけてきた。「若領主どうするんだ」


 ここで回れ右では、牽制にならない。「湾内を一周してから、湾を出よう」


「深遠の面影号」をそのまま走らすと、敵の一番大きな船が、進路を遮るように進んできた。


「若領主、この船を停止させて、周りを囲むつもりですぜ」


 後方から、左右から、敵船が迫ってきている。

 これは、千載一遇のチャンスだ。


「猪口才な。作戦通りだ。衝角の威力を思い知らせてやれ。このまま突っ込むぞ」


「アァ。本当に突っ込むんでやすか。どうなっても知りませんぜ。

 若領主様のご命令だ。速度を維持したまま、前方の敵船に突っ込め」


「船長、楽しみだな。ワクワクするな」


「わたしゃ、ちっともしませんぜ。

 それより、若領主。衝撃に備えて、そこの綱に身体を結んどいてくれよ。投げ出されますぜ」


「深遠の面影号」は、一直線に敵船の横っ腹を目指している。

 もう直ぐ衝突しそうだ。

 敵船の兵隊は、こちらが止まらないので、パニックになって何やら叫んでいる。


 船長が大声で叫んだ。「総員、衝撃に備えて、船の策具に掴まれ」


 ― ドーン ―


 結構な衝撃で「深遠の面影号」は、敵船の横っ腹に突っ込んだ。

 敵船の横っ腹には、衝角が突き刺さり、穴が開いている。


 船長がもう一度叫んだ。「全速後退。沈没に巻き込まれるぞ。急げ」


 ― バキバキ ―


 今度は、後ろから迫っていた小型船に衝角が突き刺さった。


 前方の船は、開いた穴から、海水が勢い良くなだれ込んでいる状態だ。

 敵兵の相当数は、甲板から吹き飛ばされて、海面で溺れかけている。


 甲板に残っている者も、茫然としているか、よりパニックになって、喚き散らしているだけだ。

 後方の小型船は、二隻が大破して、衝突の余波で数隻がもう半分沈んでいる。

 乗っていた敵兵達は、こちらも海面で溺れかけている。


「船長、上手くいっただろう」


「うーん、若領主様、認めますよ。降参しますぜ。あんたは偉い」


「〈タロ〉様、見事です」と〈ハパ〉先生。

「いやはや、何とも。これほどの威力とは、驚きです。素晴らしい」と兵長。

「やりましたね。大戦果だ」と〈ハヅ〉。


 僕の評価は爆上がりだ。遠慮せずに、もっと褒めても良いんだよ。


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