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《タラハ》の町で売買

御用商人の〈クサィン〉も帆船に乗せて、《タラハ》に向けて出航した。


〈クサィン〉は、岩塩鉱山を失うかも知れないので、始終浮かない顔をしている。

船長も「これからどうなるんですかね」と聞いてきたけど、僕にも分からない。


《タラハ》の町は、王国の一番南にあるだけあって温暖な気候だ。

今は早春だけど二十度は超えてそうだ。


町の大きさは、王都よりは一回りか、二回り小さいがそれでも随分と賑わっている。

大通りを歩いている人も多くて、その中には《オブア人》もまじっている。大きな川を挟んで《オブア国》と隣同士なので当然か。


《オブア人》はトカゲぽっいけど、服は同じようなものを着ているんだな。

ただ、薄着で肌が結構露出している。温かくて、湿度も高いからな。


金策がどうにかなったら、是非、許嫁達に着せてじっくりと愛でたいものだ。


町を歩いていると色とりどりの果物が売られている。

亜熱帯の果物が多いようだが、黄色の蜜柑がやたらと目につく。

量がとにかく多くて、他と果物と比べて値段が驚くほど安い。鉄貨三枚しかしない。

確か、父親が大豊作って言ってたな。


通りをキョロキョロ見ながら歩いていると、目的の〈クサィン〉の知り合いの商人の店に着いたようだ。


「子爵様、遠路お越し頂き誠に恐縮です。

私はこの町で商会を営んでおります〈ケンチィ〉と申します。よろしくお願いいたします。

〈クサィン〉殿もいつもお世話になり有難うございます」


「〈ケンチィ〉殿、急に押しかけて申し訳ない。

今日は、拝領した剣と母上の形見の装身具を売却に来たのだ。早速だが見て欲しい」


「拝領した剣とお母様の形見ですか。

これは由緒ある品をこの〈ケンチィ〉任せて頂けるとは光栄です。早速見せて頂きます」


「で。どんな感じだ」


「そうですね。全部合わせて五金貨でどうでしょう」


五金貨か。必要な資金の四十分の一にしかならないな。


「そうか。たった五金貨なのか」


「そう仰いますが、この剣は飾るための物で、実用ではありません。

著しく購買者が限定されます。

他人の拝領品を買うのは、少しでも箔を付けたい成り上がりの商人だけです。

おまけに疵もあります。

宝石の方は、アクアマリンとガーネットとトパーズで、比較的大粒の品ですが、それほどの希少性は無く、驚くほど高価な物ではありません。

中古の装飾品は新品の十分の一くらいが相場です。

これでも、〈クサィン〉殿の領主様ですので、大変勉強しているのですよ」


剣に疵をつけたのは、僕だ。商人の言うとおりではあるな。

買値と違って、売値は驚くほど安いとテレビで言っていた。


これじゃ仕方が無いな。命がけで取ってきた物だし、今後二度と手に入らない物だけど、《紅王鳥》の羽も売ることにしよう。


「そうか、分かった。それじゃこの《紅王鳥》の羽はどうだ」


「あー。《紅王鳥》の羽。本物なの。噓だろう」


 商人が、吃驚したのか、信じられないのか、素になっている。


〈クサィン〉も、「あの噂は本当だったのですね」と驚いている。


「アッ。子爵様、ぞんざいな物言いですみません。私としたことが、全く意表を衝かれました。

《紅王鳥》の羽を見せて貰って良いでしょうか」


「どうぞ見てくれ」


 商人が慎重に羽を手に取り、さっきより真剣な目になった。


「本当に綺麗な紅色ですね。ただ、本物かどうかの判断がつきません。

 市場に出回ったという噂すら聞いたことが無い品です。国宝級の品ですからね。

 真贋を確かめるには、御伽話的な方法しか思いつきません。

 言い伝えによれば、火を近づけて燃えなければ本物という、俄かには信じられない手段です。

 火を近づければ、この綺麗な羽が台無しになってしまいます。どうされますか」


「構わないよ。火を近づけて、試してくれ」


「本当に良いのですね。焦げても怒らないで下さいよ」


 商人が燭台に火を付けて、《紅王鳥》の羽を入念に炙っている。


「ふー。羽の色も全く変わりませんね。まさか、本物とは思いませんでした。

 流石に子爵家様だ。素晴らしい家宝をお持ちですね」


 僕が最近取ってきたから、家宝じゃないんだが。

 でも、ややこしくなりそうなので、家宝ということにしておこう。


「それで、価格はどのくらいになる」


「うーん。過去の例が全く無いので難しいですね。三十金貨でどうですか」


「えっ、その程度なの」


「うーん。分からないのですよ。正直困っています。それでは四十金貨でどうですか」


「国宝級なのに」


「うーん。うーん。五十金貨が限界です。

 類がない品ですが、これ以上の額では買い手がいません。

 五十金貨でも売る自信があまり無いのですよ」


 領地経営に必要な額の四分の一だがしょうがない。この辺が限界のようだ。

 必要不可欠でも無い物に、五十金貨も出せる人は殆どいないんだろう。

 うちも貴族で子爵だが、破産寸前だ。


「そうか、ありがとう。この値段で頼むよ」


「ふー。当方こそありがとうございます。

 でも、値段が値段だけに買い手が現れるか真に心配です。

 ただ、買い手が上手く見つかれば、我が商会にはとんでもない箔がつきます。

 伸るか反るかの大勝負ですよ」


 無事商談が終わった。後百五十金貨をどうするかだが。

 これを工面する方法をこの町で思いついた。紀伊国屋文左衛門作戦だ。


 剣と装身具は、大した金にならないので売らないことにした。

 最悪、まだある《紅王鳥》の羽を売る選択肢も残されている。


「話は変わるけど、蜜柑を大量に買いたいんだけど、扱っている商人を知らないか」


「蜜柑ですか。今年は値崩れしてお得ですからね。お任せ下さい。

 懇意にしている果物商がいますので紹介しますよ」


 早速、近くに住んでいる果物商に会いに行った。


 店内は、蜜柑、無花果、梨、キーウィフルーツやライチなどが鮮やかにディスプレイされている。


「これは貴族の坊ちゃま、果物をお求めで、蜜柑ですか。

 うちが扱っている蜜柑は品質が折り紙付きで、とても甘いですよ」


「値段が他の果物と比べて、本当に安いな」


「それが、今年は蜜柑が大豊作なのですよ。

 隠してもしょうがないでので、言いますが、正直余っているのです。

 べらぼうにお安い値段となっています」


「余っているのに、他領には売らないの」


「そうしたいのは、やまやまなのですが。

 大抵の果物がそうですが、蜜柑も柔らかくて傷みやすいのですよ。

 街道を馬車で運ぼうものなら、振動で傷ついて、一遍にダメになってしまいます。

 それと時間も掛かり過ぎて、腐ってしまいます。傷つくと腐りやすくなるのですよ」


「この町でないと食べられないんだね。

 でもこんな沢山売っているのは、この町の人は本当に蜜柑好きなんだね」


「そうなのです。この町の名物です。

 今の時期に蜜柑を食べるが文化みたいになっているのですよ。 

 健康にも良いですからね。ただ今年は流石に多すぎて困っています」


「それじゃ、沢山買うので値段は勉強してよ。三千個欲しいんだ」


「エッ。三千個ですか。三千個もどうされるのですか」


「他の町に持っていって売るつもりだ」


「あのう、先程言いましたが、腐ってダメになってしまいますよ」


「船で運ぶから大丈夫だと思うよ。

 ただ、出来るだけ熟れてない、青色が勝っている蜜柑を選んで欲しいな」


「忠告はしましたよ。くれぐれも後で文句は言わないで下さいよ。

 三千個も買って下さるので、値段は一金貨で良いですよ。捨て値です。

 このまま腐らすよりはましですし、三千も捌けただけで、何やら嬉しいですわ。

 今年だけは、もう蜜柑をあまり見たくないんです」



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