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母からの手紙

「春は凶事も連れて来る」と昔の人が言ってた気がする。


父親が、《ベン島》の紛争で戦死したとの知らせが入ってきた。


父親は、戦いに積極的では無かったので、軍の後方で陣取っていたが、それがかえって災いしたらしい。

機動力に優れた騎馬隊に軍の殿を強襲され、それに巻き込まれたみたいだ。


周りを兵士が固めているので、それだけでは、命を落とすことにはなら無かったが、父親の騎乗馬が暴走して、単騎で敵に突撃した形になったようである。


船以外は、からっきしだったんだと思う。それにしても、痛ましいことになってしまった。

子爵家の兵士は、兵長の〈ハドィス〉が父親を助けようとして負傷した他は、軽い怪我人だけなのが、不幸中の幸いである。余程の距離を暴走したんだと思う。


葬儀は厳粛に執行されたた。


〈ウオィリ〉教師が、個人の功績を読み上げ、その後、浪々と神にお祈りを捧げている。

僕達は、白木で作られた祭壇に献花を行い、頭を垂れて父親の冥福を祈った。


〈クルス〉と〈サトミ〉は、涙ぐみながらお悔やみを言ってきた。

領民達も、少し離れた所から、沈鬱な表情で礼拝している。

船員達もやるせない顔で祈っているようだ。


父親は、取り立てて善政もしていないが、何も悪政はしていない。領民からすれば、良い方の領主だったんだと思う。

転生した僕にとっても、殆ど干渉をしてこない、自由に振舞える有難い保護者だった。父親の人生がどうだったかは分からないが、今はただ安らかであることを願おう。

今頃は、夫婦仲良く帆船に乗って、星が煌めく銀河を渡っているのだろう。


「〈タロ〉様、お父上のご不幸痛み入ります。

この〈コラィウ〉始め《ラング》子爵家家臣一同は変わらぬ忠心を捧げますので、どうかお気を強くお持ちください」


家臣は皆僕についてきてくれるようだ。

今更余所に行っても、この子爵家の重臣より良い待遇は得られないだろうけど。


子爵家の経営は父親が放棄していたので、今までと変わらず何も心配していない。

けど今後は重要な判断は、僕がする必要があると思う。少し心配だ。


「〈タロ〉様、大事なお話があります」


〈コラィウ〉が深刻な顔で話をしてきた。


「何の話だ」


「実は、現在、当子爵家にはお金が全くない状況です。このままでは領地を維持するのが困難となることが予想されます」


「エッ。うそ。本当」


「残念ながら本当です。お父上のご趣味の船にあまりにも経費がかかったためです。そこに戦費が追い打ちをかけました」


「どうしたら良いんだ」


「これと言った名案はありません。

領地経営は、急にお金が入って来るものではありません。

今現在、岩塩鉱山の権利を担保に借金している状況です。

岩塩鉱山が無くなると当領地の収入が激減します。

子爵家はほぼ破綻状態になると思われます」


そうだろうな。岩塩と農場しか産業は無いんだからな。

戦費は領地貴族の負担なのか、酷い話だ。


「領地を維持するには、どのくらいかかるんだ」


「そうですね。今年を乗り切るのには、岩塩の収入の他に、後二百金貨は必要です。

借金が二百金貨まだ返済出来ていないのです。

借入金が返済出来れば、父上がお金をお使いになることもありませんで、岩塩と農場の収入で、領地の経営は継続出来ます」


二百金貨か。おいそれと稼げる金額じゃないな。


「そんなにお父様は無駄使いしていたのか」


「家臣の分際で無駄とは言えませんが、毎年数百金貨はお使いでした。歴代のご領主様が蓄えられた子爵家の金庫が、枯渇してしまいました」


「すごいな。普通の感覚では出来ないな」


「そうです。当子爵家は岩塩がありますので、普通の感覚だったら貯蓄が枯渇するようなことにはならないのですが」


「そうか。分かった。僕も策を考えてみるよ」


 これはマズイことになっているな。


 〈クルス〉に偉そうなことを言った、王都の学校の学費どころの話じゃ無いぞ。

 僕の将来も、町の人達の暮らしも、暗い未来しか待っていない。

 このままだと、許嫁達とも一緒に居られなくなるのが確定だ。

 一緒に居られなくなるどころか、下手をすれば奴隷か強盗だ。

 何とかしなくては。


 必死に考えた僕の策は、売れる物は売ってしまえ、と言う捻りも何も無いものだった。


 「〈コラ〉うちで高く売れそうなものは無いか」


 「〈タロ〉様、それがあまり無いのです。

 高価な美術品もありませんし、装身具や宝石類も、高価なものは無いと思います。

 歴代のご領主様は、開拓といざという時の蓄えに余剰金を回しておられました」


 「困ったな。子爵家なのに何もないのか」


「当家は堅実で華美を嫌う家風なのです。開拓優先だったのですよ。

 何とか売れそうな物は、ホールにある、王様から拝領された剣くらいでしょうか。

 名工の作と聞いています。

 それと形見ですのでどうかと思いますが、母上様の装身具があるかもしれません。

 私は、お部屋に入室したことはありませんので、良く分かりませんが」


 「そうか、教えてくれて有難う。大金がかかっている船は高く売れないのかな」


 「残念ながら、解体後の木材の値段だけだと思います。

 あれ程の大きさでは、使い道が早々ありません。所有すると、維持管理に大金が必要となります」


 「はー。そうか。そうだろうな。剣を売るとしたらどこで売ったら良いと思う」


 「そうですね。王国の南にある《タラハ》の町が良いと思います。

 比較的近くて、王国でも有数の大きな町です。

 本来なら王都が一番良いのですが、王様の拝領品ですからね。

 露見するのは良くありません」


 「王様や他の貴族に知られるのは、拙そうだな。分かったよ、有難う」


 背に腹は代えられない。気が進まないが、両親の遺品を漁ってみよう。


 両親の部屋は、主を失って、時が止まっているのに、僅かな間にもう埃が積もり始めている。


 父親の机の引き出しを開けたが、目ぼしい物は無い。男ものの、銀製と思われる指輪とローブか何かの止め飾りが数点あっただけだ。


 母親の化粧机の引き出しは、全てからっぽだった。随分前に亡くなったので、整理済なんだろう。

 次に大きな衣装箪笥を開けると、父親の服が吊るされているのが見えた。礼服や外套もあり、数はそれなりに揃っている。

 ただ、どれも元の生地は良いのだろうけど、使い古しだ。

 父親は、船ばっかりで、服装に拘りがあるように見えなかったからな。


 母親の服も少しあるが、貴族の正妻にしては、数が少ないな。それほど高価な物にも見えない。

 衣装箪笥の中に、革張りの大きな箱が置いてある。

 これには何が入っているんだろうと、開けみたら、綺麗に畳まれた女性の服と貝殻で象嵌された宝石箱が入っていた。


 白い封筒も入っている。 


 宛名は僕だ。多分、女性の字だ。死んでいる母親から僕宛の手紙?

 封筒を開けて、中に入っていた手紙を読んでみた。



 ― 可愛い私の〈タロ〉。「お早う」かしら、「今日は」かしら。「今晩は」じゃないと思う

 の。   

 違うかしら。


 この手紙を読んでくれて本当に嬉しいわ。

 それから、こんなにも早く死んでしまった母を許してね。

 あなたに何もしてあげられなくて、ごめんなさい。

 頑張って生きようとしているけど、もう無理みたい。

 お父様と仲良くしてね。出来ればお父様を支えてあげて欲しいな。


 勝手なことばかりで、ごめんなさい。


 この箱に入っているお洋服と私が使っていた指輪や首飾りは、もし良ければ、あなたのお嫁さんに渡して欲しいの。

 大して高価な物では無いけど、今私が出来ることはこれぐらいなの、情けないな。


 暗い話ばかりじゃいけないわね。


 〈タロ〉が、どんな子に育つのか、母は興味深々なの。

 でも、どんな子に育っても、私は、絶対〈タロ〉の味方だよ。

 何があっても、何をしてでも味方だよ。

 あなたを責めたり、見放すことは、決してしないわ。

 この世に居なくても、あなたをずっと見守っているから、そこは安心してね。

 あなたを愛している母がいることを、知っておいて欲しいの。

 一人じゃないと知っておいて欲しいの。お願い。


                     母より 未来の私の〈タロ〉へ ―



 転生した身としては、心苦しい話だ。母親か。

 服は、もちろん新品ではないが、丁寧に保存されていて、汚れも傷もない。質も良い物だと思う。数もそこそこある。


 〈アコ〉はどうか分からないが、〈クルス〉と〈サトミ〉にあげたら、多分喜ぶと思う。

 宝石箱には、水色の宝石の指輪と首飾りと耳飾りが入っていた。赤色と黄色の宝石の同じようなセットもあった。


 どうしたものかと思うが、ここで考えていても埒が明かない、取り敢えず《タラハ》の町に行ってみよう。


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