〈アコ〉と猫
春の始まりの季節に、〈アコ〉が再度やってきた。
今回も午前中は、四人で親睦を深め、午後からダンスの練習の予定だ。
「〈タロ様、ご機嫌麗しく存じます。またお招き頂きありがとうございます。〈タロ〉様に、お会い出来るのを一日千秋の思いで待っておりました」
「〈アコ〉、遠い所を良く来てくれました。僕もまた〈アコ〉の顔を見られて嬉しいよ」
「〈タロ〉様、お手紙、ありがとうございました。何度も読み返すほど、とても嬉しく思いました」
「それは良かった。僕の手紙は、短くてごめんなさい」
「〈タロ〉様、長さはお気になされないで。頂けるだけで幸せです」
許嫁達の挨拶も終わって、〈アコ〉を小屋に案内した。「天智猫」を見せるためだ。
〈クルス〉も猫達の世話をして知っているし、〈アコ〉だけを仲間外れには出来ない。
〈サトミ〉も〈クルス〉も、〈アコ〉に見せるのを楽しみにしている。三人は友達だからな。
〈アコ〉も秘密を、ベラベラ喋ってしまう子じゃ無いはずだ。
「〈アコ〉、この小屋が猫を飼っているところなんだ。さあ、中へ入って」
「〈タロ〉様、分かりました。中へ入らせて頂きます。子猫を見るのが楽しみです」
〈アコ〉が、そーっと、小屋の中に入った。猫達を怖がらせないための、配慮だろう。
「まぁ、子猫が三匹もいます。どの子も可愛いわ。母猫さんお邪魔しますね」
「〈アコ〉、信じがたい話だと思うけど、そこにいる銀色の縞のが、どうも「天智猫」のようなんだ」
「えっ、〈タロ〉様、嘘でしょう」
〈アコ〉は、信じていないようだな。僕の顔をじっと見ている。嘘を見破ってやるっていう顔だ。
「目と髭を良く見てご覧」
〈アコ〉は、僕に言われて、今度は「ジェ」をじっと見ている。
「ハッ」って言う感じで、目と髭を見ているようだ。
「まぁ、目が煌めいています。髭も並外れて、立派で長いですわ。確かに他の子猫とは、全然違います。信じられませんわ」
「そうだろう。特徴が「天智猫」と合ってるんだ」
「確かに、御本で読んだ「天智猫」様と一緒だわ。だけど、まだ信じられないのです。神話の世界のお話なんですもの」
〈アコ〉は、たぶん分かったと思うけど、常識がまだ変えられないんだろう。
「「天智猫」様の名前は「ジェ」って言うんだ。後の子は「トラ」と「ドラ」なんだ。〈タロ〉様が付けてくれたんだよ」
〈サトミ〉は、〈アコ〉の戸惑いはスルーして、ドヤ顔で発表している。
〈サトミ〉にとって、とても大切なことなんだろう。
「まぁ、聞いたことも無いような、素敵なお名前ね」
〈アコ〉は、の戸惑いながらも、反応を返している。会話術が鍛えられているな。
「〈アコ〉、母猫も慣れてきたから、ゆっくりなら、子猫に触れるよ」
「本当ですか。少し触らせて貰いますね」
〈アコ〉は、子猫を慎重に、ほんの少し触った。
「天智猫」を少し怖がっているのかも知れないな。
「「天智猫」様に、触れるのは緊張しました。触った感触は、他の子猫と違いがあるようには思えませんね」
「そうなんだ。目と髭以外は違いが分からないんだ。それと、「天智猫」のことを信じなくても良いから、このことは、僕達だけの秘密にしといて欲しいんだ。騒ぎになったら、猫達が可哀そうだからね」
「分かりました。「天智猫」様のことは、決して口外しませんわ」
この後、〈アコ〉は猫達と楽しく過ごしていたと思う。しばらくしたら慣れたらしい。
子猫は可愛いから、怖い気持ちは続かないよな。
最初はおずおずとした触り方だったけど、最後は胸に抱いて声もかけるぐらいだった。
「天智猫」のことも、最終的には信じたみたいだ。
驚きから立ち直って、違いを直ぐ傍で見れば、疑いようがないからな。




