〈クルス〉が泣いた
暫くたったら、僕の傷もそこそこ治って、霊薬のお陰で〈クルス〉の容態も随分良くなった。
因みに頬の傷は、鋭い刃物による傷と一緒で、綺麗に切れていたのが幸いして、跡はあまり残らないそうだ。
「〈クルス〉、久しぶりだな。具合はどうだ」
「…… 」
「〈クルス〉、大丈夫か。泣いているのか。どうしたんだ」
「泣いてなどいません。〈タロ〉様はどうして、あんなに危ないことをしたのですか。死に行くのと同じです」
あー、まいったな。〈クルス〉も怒っているな。
「ごめん。ごめんよ。気づかれないように、そーっと取ってくるつもりだったんだ。僕の考えが甘かったよ。誓って、もうあんな無謀なことはしないよ」
「そんなことを聞いているのではありません。私なんかのために、何故危険なまねをされたのですか。頬に大きな怪我まで、負わせてしまいました」
「えーと、それは、〈クルス〉は許嫁だし、いずれ僕の奥さんになる人だから当然だよ」
「それだけですか」
「うーん。僕のなかでは、〈クルス〉を助けるは当たり前なんだ。〈クルス〉が綺麗で、すごく良い匂いがして、とても良い子なので失う訳にはいかないんだよ。〈クルス〉の笑顔を見たかったんだ」
「間違っています。私は綺麗でもないし、〈タロ〉様が言うような良い子ではありません」
「そんなことはないよ。〈クルス〉は、色白でとっても綺麗じゃないか。それに、〈クルス〉は頭が良くて、我慢強い子だと思うよ」
「もっと間違っています。町の人は、私のことを一四歳にもなって、ヒョロヒョロの棒のようだと言っています。肌の色も白すぎて、まるでゾンビのような気持ち悪い青い顔をした、死にそこないと言われています」
「随分と酷いことを言われているな。僕は〈クルス〉を美人だと思うけどな。僕の感覚は間違ってないと思うんだけどな」
「その感覚は間違っています。それに性格も、少しだけ頭が良いことをひけらかす、上から目線の嫌らしい性格で、クスリとも笑わない、捻くれた冷たい人間だと言われています」
「それは、もっと酷い言われ方だな。〈クルス〉の性格は、少し取っ付きにくいところがあるけど、性根は真面目で、心の優しい女の子だと思っているよ。〈クルス〉と過ごした時間は、まだ少ないけど、僕は確信しているよ」
「その確信は間違っています。せっかく助けて頂いたのに、私は〈タロ〉様に相応しくない、価値のない女なのです。〈タロ〉様が、命をかけられたのは間違っています。私なんか、放っておいて頂いたら良かったのです」
「…… さっきから聞いていると、「間違っています」ばかり言うな。流石にイライラするぞ。少し思い込みが、激しいところは認めるが、僕の言うことは間違ってなどいない」
「自分のことは自分が、一番分かっていますから、そうなのです」
「もう、僕が〈クルス〉のことを価値があって、妻に相応しいと思っているんだから、それで良いんじゃないか。違うのか」
「それでも、私は、私に自信が持てません。怖いのです」
中々頑固な子だな。人との関わり合いに、臆病になっているのかもしれないな。
思い切って言ってみるか。的外れだったら恥かしいが、ここは勝負の場面だ。たぶん。
上手く行かなったら、半年は引き籠ろう。
「恥ずかしいけど告白するよ。僕は〈クルス〉のことが好きなんだ。〈クルス〉に、ずっと傍にいて欲しいだ」
「えっ、…… 本当に。どうして、私なんかを好きになるのです」
「嘘でこんなこと言えないよ。好きになるのに理由なんかないさ。心の奥底で、感じるものなんじゃないか。僕にも説明できないよ」
「…… 」
「〈クルス〉、泣いているのか」
〈クルス〉の両方の目から、ポロポロと涙が零れ落ちて、青白い頬を溶かすように伝い続けている。
僕はどうしたら良いのか分らずに、何も言えないまま、ただ、突立っていた。
〈クルス〉は、涙の跡が胸に届くほど泣いた後、少し身じろぎをした。
「〈タロ〉様。〈タロ〉様が私にして下さったことと、私のことを好きだと言って頂いたことは、私にとってあまりにも大きすぎて、うまく心の整理ができません。ですので、もう暫く時間を頂けないでしょうか」
「〈クルス〉、もちろん良いよ。〈クルス〉が納得いくまで待っているよ」
「ありがとうございます。感謝いたします」
〈クルス〉のお見舞いは終わった。
〈タロ〉様、命を助けて頂いて〈クルス〉感激です。お慕い申しております。抱いてください。
ガバッと二人は抱き合う。とならなかったな。うまく行かないもんだね。




