〈クリス〉の病気
猫の世話にかまけてたら、大変なことが起こってた。
〈クリス〉の病気が悪化して、ベットから起き上がれなくなってしまった。
体調を崩していたのに、雨の中外出して、一気に重篤化したようだ。
このままだと、普通に命も危ないらしい。
何としてでも、霊薬を手に入れなくてはいけない。
薬に詳しそうな〈ドリー〉に、霊薬のことを聞いてみることにした。
「〈ドリー〉、霊薬って知ってる」
「霊薬ですか。突然ですね」
「教養の勉強の宿題なんだ」
「人に聞くのはどうかと思いますが、どの本にも霊薬のことは、書かれてないかもしれませんね。
存在しないのと同然ですから」
「それで知ってるの」
「仕方がないですね。私も詳しくは知りませんが、確か《王鳥草》という赤い花が、主な材料と、母が言っていた覚えがあります。魔獣が住む土地にしか生えていないので、薬を扱う者の「あり得ない物」の例えになっています。軍隊を使っても採取出来ないような、幻の薬草ですね」
「助かったよ。有難う」
霊薬の材料が、生えている場所が分かった。巡察で釘を刺された、行ってはいけない場所だ。
ただ、〈クリス〉をこのままには出来ない。元気になって、笑顔を見せてもらわないと困る。
病気では、エッチなことが出来ないじゃないか。
ましてや、〈クリス〉の綺麗な顔さえ、見ることが出来無くなってしまう。
しばらく考えていたが、考えてばかりじゃしょうがない。行動あるのみだ。
ホールに飾ってある剣を拝借して、ブーツなどの防具一式を倉庫から持ち出した。
少しブカブカするが、しょうがない。何か、布切れでも詰めておこう。
「赤い花」採取作戦は簡単なものだ。
《紅王鳥》のテリトリーの端まで行き、そーっと見つからないように、《王鳥草》を取ってくるという単純な作戦だ。
タールを採取している近くに馬を繋いで、後は歩いて行くことにした。
しばらく歩いても、荒涼とした土地が続くばかりだ。それに、ガスの匂いも漂ってきた。
向こうに見える靄みたいなのは、天然ガスの噴出孔のようだな。
もう少し進むと荒涼とした景色は終わり、広々とした草原が現れた。
この荒涼とした土地は、魔獣の領域と人間の領域との、結界の役割を果たしているのかもしれないな。
考えながら歩いていると、小石に蹴躓いて転んでしまった。
ちょっと縁起が悪いぞ。
ブーツも脱げてしまったので、布切れを丸めて、丁寧に隙間を埋め直す。
その場で跳び上がったり、剣の型を繰り返して、入念に感触を確かめた。
気を取り直してまた歩くと、草原のあちらこちらに、《王鳥草》としか思えない、深紅の花がポツポツと咲いている。
なんだ、簡単に見つかったなと、思ったその時。




