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指をチュルと舐めてみた

 〈アコ〉と〈クルス〉のこの様子を見て、〈サヤ〉は、

 「良い汗をかいていますね。良い稽古になったようですね」

 と満足そうだ。


 〈リク〉も、

 「少し見ていましたが、至近距離からの肘打ちを避ける訓練は、有益ですね。

 良い稽古になっていますよ」

 と感心している。


 お前らの目は、節穴か。

 イチャイチャしているだけだろう。


 何でも、鍛錬か稽古のことにしてしまう。

 この、鍛錬中毒者めが。


 「そうなんだ。〈アコ〉と〈クルス〉も段々真剣に取り組み出したし、至近距離からの打撃を避ける良い訓練になるんだよ」


 「〈タロ〉様のおっしゃるとおり、〈タロ〉様へ、ど真剣に肘打ちをかましたいですわ」


 「思いっきり、〈タロ〉様の甲を踏みつけてやりたいです」


 「二人とも、「肘打ちをかましたい」「踏みつけてやりたい」とは、すごい気迫だ。

 その気構えで頑張ってくれ」


 明日以降も、僕が二人の、稽古の相手を務めることになったようだ。


 〈アコ〉と〈クルス〉は、

 「〈タロ〉様にエッチなことをされる方が、まだましです。慣れていますから」

 と苦笑しながらホッとしていた。


 僕も明日は、もっと先っちょを、的確に突けるように頑張ろう。


 ずっと、休みなく〈リーツア〉さんの手伝いをしていた〈カリナ〉が、物陰から、僕達を悲しそうな目で見詰めている。


 〈アコ〉と〈クルス〉と僕が、一日中、イチャイチャしていると、誤解しているのだろう。

 れっきとした、護身術の稽古を真剣に行っているのに、邪推も甚だしい。


 〈リク〉と〈サヤ〉が、楽しそうに鍛錬しているのも、気に入らないのだろう。

 こっちは、分からないでも無いな。


 この二人の間には、鍛錬中毒者にならないと、入れ無いからな。

 二人だけの世界が出来ていると、感じてしまったのだろう。


 もう直ぐ結婚だと言うのに。

 大変そうだけど、僕を恨むなよ。

 姑との仲を大事にするように忠告しただけだ。


 夕食は、豪快な鳥の丸焼きだ。

 丁寧にスパイスを塗られた丸鳥を、炭火でこんがり焼いた料理だ。

 腹の中に、米とニンニクと野菜が詰められている。


 皮はパリッと、お肉はジューシで、絶品の出来だ。

 詰められたお米は、肉汁を吸ってふっくら美味しい。

 ニンニクは、お肉にもお米にも、良い仕事をしてくれている。

 味に深みと風味をプラスしている。

 もちろん、野菜もグッドだ。


 〈アコ〉と〈クルス〉も、僕の横で一心不乱に丸焼きへ挑んでいる。


 今日は、激しい運動をしていないので、全く疲れてないようだ。

 先っちょも、柔らかくなって、もう「ふん」「ふん」と呻いていない。


 最初は、ナイフとフォークを使っていたが、じれったくなったのだろう。

 今は直接かぶりついている。

 手でお肉をむしり取っている。


 それが正しいと思う。

 この料理はかぶりついて、むしって、食べる方が、倍、美味しいはずだ。

 二人が、丸焼きの油で唇をテカテカにして、嬉しそうに笑っている。


 夕日で光っている唇を、強引に奪って、じゃぶりつきたいな。

 ぷっくりとした唇が、茜色に染まって、やけに美味しそうに見えたから。


 僕の心中を知ってか、知らずか、二人が「ここが、特に美味しいですよ」と僕の口の中へ、指先を使って、お肉を入れてくれる。

 昨日のお返しかな。


 二人の指が、僕の口に中へ一瞬入る。

 何回目かに、指をチュルと舐めてみた。


 「ふふふ、〈タロ〉様、私の指は美味しいのですか。もっと、食べたいですか」


 「うふふ、舐めるのは良いですけど。噛んじゃダメですよ」


 二人は、クスクス笑いながら、周りに聞こえないように小さな声で言った。


 「僕も肉を口の中へ、入れてあげようか」


 「それは、お断りします。私は自分で食べます」


 「私も遠慮します。自分で食べた方が、消化に良さそうです」


  何だよ、ノリが悪いな。

  それとも、僕の指が不潔とでも言うのかよ。


 〈アコ〉が僕の袖を引いて、〈リク〉の方を見ろと合図をしてきた。


 〈リク〉が真っ赤になりながら、〈カリナ〉にお肉を指で食べさせて貰っている。

 〈カリナ〉は、首まで真っ赤になっている。


 「〈カリナ〉さんが、寂しそうだったので、私たちの真似をしたらどうですかと言ったのですわ」


 「〈カリナ〉さんは、〈リク〉さんと、もっと仲睦まじくしたいのですよ」


 「ヒュー、ヒュー。熱いぞ、ご両人。熱すぎて、鳥が丸焦げになるぜ。

 見せつけてくれるな。独り者は辛いぜ」


 船長が、指笛を鳴らして、〈リク〉と〈カリナ〉を見て冷かしている。

 顔は笑っているけど、本当は見るのが辛いのだと思う。

 羨ましいのだろう。


 あんたは、汚い自分の指だけど、俺と〈リク〉は、綺麗な婚約者の指だ。

 差が天と地ほどある。

 月とスッポンだな。


 独身中年のひわいだ。

 あっ、悲哀だった。


 船長に釣られて、皆が、


 「アツアツだな」「見せつけるなよ」「チューしろよ」


 と〈リク〉と〈カリナ〉を冷かして、大笑いしている。


 〈アコ〉の母親まで、「熱くて堪らないわ」と、胸元に手で風を送る動作でからかっている。


 ちゃっかり横にいる船長が、少し広げたその胸元を、カメレオンみたいに目を横にずらして、覗き込んでいる。

 このおさっんは、やっぱり爬虫類だな。


 〈リーツア〉さんも、自分の息子が、さかなにされているのに、涙が出るほど爆笑している。

 この人は、エッチ系の話が好物だからな。


 〈サヤ〉は、我関せずという感じで、黙々と丸焼きをかじっている。

 コイツは、武道以外に興味は無いのか。

 困ったもんだ。


 〈リク〉は、もう身体中が真っ赤になって、頭から湯気が噴き出している感じだ。

 〈カリナ〉も真っ赤だけど、〈リク〉に寄り添った顔は、少し満足気に見えていた。


 皆、沢山食べて、沢山笑った。明日も晴れるらしい。


 多少の波はあれど、航海は万事順調だ。




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