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町のようす

 王都から帰ってきたら流石に疲れた。


 丁度今日は休養日で、勉強と鍛錬は休みなのでダラダラ過ごそう。

 休養日なので、館にいる使用人の数も少ない。


 朝食の給仕もメイドの〈プテーサ〉という子が一人だけだ。

 子と言っても、一七歳で僕より三歳年上だ。

 この世界の成人が十七歳なので、成人して直ぐ、子爵家へ奉公にきている計算になる。

 自作農の二女で、比較的裕福な家の娘さんだ。


 性格は良く知らないけど、茶色の髪でスタイルも良くて、中々綺麗な顔立ちをしている。

 黒色のクラシカルなメイド服を着ているけど、スカートが膝丈で、袖も手首までは覆われていないから、軽快な印象だ。


 メイド頭の〈ドリー〉のは、踝丈のロングスカートで、袖も手首まであるため、暑苦しくて重たく感じる。

 〈ドリー〉は年齢の関係で、もう肌を出すのが嫌なのかもしれないな。そこそこの年なんだろう。


 〈プテーサ〉が着ているメイド服なら良いな。

 許嫁の皆に着せたら、それはそれはそれは、可愛いだろう。

 脳内で着せ替えをしてたら、〈プテーサ〉が声をかけてきた。


 「〈タロ〉様、昼食はどうされますか」


 「うーん、そうだな。今日は試しに町で取ることにするよ。町の様子も見てみたいし」


 「承知しました。厨房にも伝えておきます。町の中なら大丈夫だと思いますが、気を付けてくださいね」


 「分かったよ〈プテ〉、気を付けるよ。それとこの手紙を《ハバ》の町の〈アコ〉に送ってくれないか」


 「分かりました。直ぐに出しておきます」


 父親は早朝から船の所へ行っており、僕が昼食を取らなければ、休養日の当番に当たっている使用人が、楽をすることが出来る。

 次期領主としては、使用人への気遣いも必要なことだと思う。

 それにしても、父親の船好きは筋金入りだな。船員も付き合わされて大変だ。


 久しぶりに町へ出た。昼まで、まだ時間があるからどうしようか。

 店の数もしれているんだ、一軒づつ冷やかすしかないか。


 まずは、雑貨屋か。中年夫婦が二人で営んでいるんだったな。

 服の生地に裁縫道具、掃除道具に調理器具まで色々売っているな。

 町の万屋、コンビニってとこか。ジロジロと見ていると、中年のおばさんが声をかけてきた。

 そりゃ気になるわ。


 「あれま、お坊ちゃま、何かお探しですか」


 「いや、何か探しているわけじゃない。見ているだけだよ。ところで商売の調子はどうなんだ」


 「あれま、商売のことを気にされるとは、少し前までは心配でたまりませんでしたが、お坊ちゃまは本当に賢くなられたのですね」


 今度は中年のおっさんが声をかけてきた。喋り出しが一緒だ。

 似たもの夫婦か。なにげに過去をデスっているな。今を褒めているから良いのか。


 「そんなに変わってないよ。ちょっと落ち着いただけだよ。 それより、聞いたことはどうなんだ」


 「うーん、落ち着いたから、ですか」


 「あんた、それはもう良いから。それより、お坊ちゃまの質問に答えなさいよ」


 「アッ、すいません。お聞きになられた、商売の方はあまり良くはなっていません。でも、安心しています。安心と言うのは変ですが、これから良くなっていく感じが強いということです」


 「フーン、安心なの」


 「そうです、今日で確信に変わりましたが、有難いことです」


 「フーン、良く分からないけど良かったね。それと、今日は休養日だけど、店を開けているんだね」


 「人様の休みが稼ぎ時なので、休養日では無い日に休んでいるのですよ。客商売ですからね」


 「そっか、大変だね。それじゃもう行くけど、頑張ってね」


 「ええ、頑張りますとも。お坊ちゃま、お身体だけは気を付けてくださいよ。又おこしください」


 何も買ってないんだけどね。次に行くか。


 パン屋を覗いたが、パンは殆ど売ってない。というか、午前中に売り切れたようだ。


 若い店主と若い奥さんが、遅い朝食を食べている。若い奥さんか、新妻だな。

 甘いハチミツの響きだ。きっと、トロリ濃厚だ。

 数年したら許嫁達も、僕の新妻になるのか、たまらんな。


 店先で脳内シュミレーションをしていたら、たまらず店主が声をかけてきた。

 店先で、ニヤニヤされたら気持ち悪いわ。


 「これは、御子息様どうされました。何か御用事ですか」


 「ゴメン。ゴメン。食事中にすまないな。休養日だから町を散策しているんだ」


 「散策ですか、この町を? アッ、視察されているのですね。そうですか、まだお若いのに偉いものだ。噂は本当だったのですね」


 「噂って、どんな噂なの」


 「アッ、しまった。えーっと、御子息様が頭を強打された拍子に、おつむが素晴らしく良くなられて、見違えるほど立派になられたと言う話なのです」


 「フーン、そういう話が広まっているのか。人の噂ってそんなもんだね」


 「主人が失礼なことを申しましてすみません」


 すかさず奥さんのフォローが入った。内助の功だな。


 「イヤイヤ、気にしてないよ。それより、パンの売れ行きはどうなんだ」


 「お陰様で、売れ行きは落ちたりしてはいません。むしろ、これから伸びる気がしています」


 「ほー、どうしてそう思うんだ」


 「それは、町の人達が安心したからです。人間安心するとお腹が空きますからね」


 「そうなんだ。それは良かったね。じゃ僕は散策を続けるけど、頑張ってね」


 「次来られたら、うち自慢の窯で作ったパンをご馳走させてください。それと、くれぐれもお元気でいてくださいよ」


 夫婦揃って見送られたよ。人柄も良さそうだ。


 少し先にあるのは鍛冶屋か、見た感じ、とても流行っているようには見えないな。

 掃除はされているようだが、建物が古くて、ハッキリと言ってぼろい。

 黒くなってしまった壁には、大小の鍋、ナイフ、ハサミらが無造作にかけてある。


 「何だ。店先でキョロキョロとするな。用があるなら早く言え。こっちは忙しいんだ」


 五月蠅いじいさんだな。ガリガリに痩せていて、神経質そうな顔をしている。

 ただ、鍛冶屋らしく、顔は炎に焼けて赤黒いし、右手は筋肉隆々だ。


 「イヤ、用事はたいしてない。何を造っているのか見ているだけだ」


 「フッ、領主の坊ちゃんか。ここには、坊ちゃんが気に入る様な物は無いよ」


 「そう言うなよ。そうだな、剣は置いているのか」


 「そんな物は置いてないよ。この町で剣を置いても、買う奴は滅多におらんよ」


 「そうか、それならそこのナイフを貰うよ」


 刃渡りが二十cmくらいの真直ぐなブレ―ドで、鹿角のハンドルが付いた、中々格好が良いナイフだ。

 狩猟用のナイフだと思う。狩猟をするわけじゃないが、男の子はこういう物が欲しくなるんだ。


 「こいつですか。良いですけど、手を切らないように、気を付けて貰わないと困るよ。家臣が五月蠅いからな。鞘も付けて、銀貨三枚になるよ」


 鍛冶屋の偏屈じいさんに、銀貨を渡して店を出た。高いのか安いのかは不明だ。

 ナイフの良し悪しは、よく分からない。


 店を冷かしていたら、お腹が空いてきた。宿屋兼飲み屋兼食堂で何か食べてみよう。


 「ヘィ、らっしゃい。アッ、御子息様ですか、失礼しました。何か御用事ですか」


 食堂に入ると亭主が声を掛けてきた。お昼の時間を過ぎているためか、食堂には誰もいない。

 亭主は、太鼓腹をした中年のおっさんだ。

 肥満気味の人が経営している店は、食べ物が美味しい気がするので期待大だ。


 それと、看板娘が居るはずだが見当たらない。夜しかいないのかな、残念。


 「昼食が欲しいんだ」


 「昼食を食べられるのですか、お一人で? うちの料理では、舌に合わないと思いますが、定食ならあります」


 「定食か。それで構わないから持ってきてくれ」


 「ヘィ、分かりました」


 厨房に向けて店主が怒鳴り声で注文を通した。


 「定食一丁。御子息様用だから丁寧に造れよ。分かったな」


 人が多い時は、大声でないと聞こないんだろうな。


 「お待たせしました。定食です。水も置いときますよ」


 「早いな、頂くよ」


 定食は、スープと黒パンと肉の煮物だ。スープは、蕪が多い野菜スープで塩味だ。

 パンは、全粒粉で黒くて硬い。噛み応えがある。若夫婦の店のパンなんだろう。

 肉の煮物は、塩漬け肉を煮込んでいるようだ。当然塩味が強い。

 全てが素朴な味で、香辛料や香草は殆ど使われていないようだな。

 たまには良いが、毎日だと厳しい味付けだ。当たり前だけど、館の食事の方が大部ましだと思う。


 「亭主、美味しかったよ。ご馳走様」


 「ハッハッ、褒められるようなものじゃありませんよ。それにしても、良い食べっぷりでしたね。

〈ハパ〉先生が、武芸も期待が持てると言ったっていう、噂は本当みたいですね」


 「そんな噂もあるのか」


 「そうなんですよ。噂話はいつでも、どこでも、一番人気のある娯楽ですからね」


 「そうかもしれないな。当人じゃ無ければ面白いんだけどね。値段は幾らだ」


 「二銅貨になります」


 四百円か、安いんだろうな。ポケットを探って、亭主にお金を渡した。


 「それじゃ帰るよ。今度は夜に来たいな」


 「毎度あり。でも、夜は後三年は我慢してください。館の人に怒られちゃいますよ」


 結構量があったな、お腹が苦しい。広場で少し休んでいこう。

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