跡目相続
王宮に登城する日だ。
城は、大きな大理石を幾つも積み上げて造られた、五階はある他を圧する建造物だ。
神獣を表した複雑な装飾が、数えきれないほど配置されていて、扉は背丈の二倍はある大きな一枚板だ。
見上げれば、四つもの尖塔が空高く伸びて、霧雲を突き刺している。
門番も、華美な鎧を身に着けた屈強な兵士が務めており、人を圧倒する目的があるのが明らかだ。
先触れを出していたので、僕らの一行は、すんなりと控室に通された。
控室でも十分豪奢だ。絨毯の毛足も長くて、靴が埋まってしまう。
しばらくすると呼び出しがあり、僕と父親の二人が王様に拝謁した。
王の政務室は、控室の倍は豪奢でキンキラキンだった。
天井一面に、極彩色で国造り神話が描かれおり、水晶で造られた大小様々なシャンデリアが眩い光を放っている。
床に敷かれた絨毯は、深紅をベースに金で描かれた図柄が王権を象徴するもので、大変手の込んだ手仕事で作られているのが分かる。
当代の王様は、〈ユィロスタス・アルプ・ビザ〉という名前の五十歳半ばの男性だ。
王様の左右には、家臣団である宮廷貴族が数人づつ待機しており、左側は茶色を基調とした服装で、右側は灰色を基調にした服装に揃えられている。
何か派閥でもあるんだろうか。
部屋の壁沿いには、銀色に光り輝く鎧を着用した近衛騎士も控えている。
「《ラング》子爵〈レゴスィト・ラング〉並びにその息子〈タロスィト・ラング〉よ、遠路大儀である。
良く参られた。息災にしておったか」
「陛下、お久しぶりにございます。お陰様を持ちまして、愚息ともども、健やかに過ごさせて頂いております。閣下におかれましても、御壮健のこととお慶び申し上げます。本日は愚息の跡目相続のご承認に伺いました。何卒宜しくお願い致します」
「そうであったな。そちが息子の〈タロスィト〉か」
「閣下、そうであります。お目通り感謝致します。本日はお手を煩わせますが、宜しくお願い致します」
「利発そうな子息だ。〈ラング〉子爵も先が楽しみだな」
「恐縮でございます。まだまだ、若輩者ではありますが、私と違って領地を少しは発展させてくれるのではと、淡い期待を持っている次第でございます」
「ホゥ。子爵がそう言うのだから、見どころがあるのだな。儂も楽しみにさせてもらうよ。積もる話もあるが、何せ公務が目白押しでな。早速だが跡目相続の義を始めるとしよう」
こうして、僕の跡目相続は無事終了した。
王様が堅苦しい言葉で、承認すると言うだけの簡単な儀式だった。
この儀式を王国の公式記録に残すことで、相続の正当性を担保するようだ。