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第七話 大人の階段駆けあがる

《基礎レベルが15へ上昇》

《各種ステータスが上昇》

《レベル上昇に伴い魔力上限を大幅に解放》

《魔力コントロールを学習》

《炎・自然・水・闇・光魔法のLv1を学習》

《現在のスキルポイントは280》


 あーあーあー。

 鳥の鳴き声とこの声と窓からの光がやかましい。

 って、もう朝か。

 俺様は身を起こすと首を鳴らしながらベッドに立てかけといた義足を手に取る。

 んで、太ももにはめ。


 はめ……!()()()()()


 なんでだ。昨日はジャストフィットだっただろ?

 昨日の今日でそんな一気に成長したわけじゃあるまいし、なんでだ?


 いや、急成長しとる。


 俺様の寝間着はいつの間にかパッツパツ。通り越してびりっびり。

 座高も伸びていて昨日よりもしっかりと高い目線だ。

 試しに声を出してみた。

 おいおい、いかした声になっちまったな。

 ちょいと昨日までは愛らしい美少年声だったのによ。

 今じゃすかした声を出せば、通りすがりの女がメロッメロになっちまうイケメン舞台俳優声だ。


 どうした。一昨日までは一か月で十歳児と言えども徐々にデカくなる程度だっただろうが。

 なんで過程をすっ飛ばして成人まで成長してんだ。

 さっき言われた魔力コントロールかなんかが影響してんのか?


 コンコン。

 って、待て待て待て!

 誰かが来たがそれどころじゃねぇってのに!

 顔の布は?よし、取れてねぇな。

 じゃあ後は体にシーツを巻き付けてと。


 んで、ノックの主は俺が寝てると判断したのか無断で入室して来やがった。

 入ってきたのはシズカか。


「ハイドラ様、起床のお時間で!?」


 俺の方を向いた瞬間に発声方法を忘れたらしい。

 池の魚みてぇに口をパクパクさせてら。


「よお、目が覚めたらでっかくなってたぜ。成人男性用の服を持ってきてくれ」


 何事も無いかのように振る舞ってやったが内心ドッキドキだ。

 何故かって?


 わかんだろ!ハイエルフは美男美女の宝庫!

 この女が間違っても俺様に惚れて、性目的ですり寄ってきたらたまったもんじゃねぇんだよ!

 いいか!俺は性恐怖症だ!

 何人たりとも俺様を恋愛目的で、ましてや体目的で近寄らせねぇ!


 あ?昨日は散々べたべた裸を触られただろって?

 まだ子供だったからいいんだよ。

 昨日の時点でペド野郎が俺様に手を出そうとしてたもんなら、俺様は舌を噛んで死んでいた。

 あ、死ねなかったっけな。

 じゃあ死に物狂いで相手のありとあらゆる急所を攻撃してただろう。


「ちょ、あ、あの……ご主人様ぁ!チカァ!レーテルゥ!」


 足が石化していたシズカの奴もようやく呪いが解けたらしい。

 俺の部屋からすっ飛んで消えていった。


 どれ、魔法を学習ってのも言ってた気がするし使えるのか?

 例えば火とか。

 シーツの隙間から手を出し、その指先に火が出るように念じてみた。

 ぽうっ、と小さな火が俺様の指先に灯る。

 ほー!面白れぇな!

 じゃあ火を消して、俺を追いかけたハイエルフ共が出していた緑っ玉は?


 出ない、と。

 なんだ?曖昧だからダメなのか?

 えーっと、確か自然魔力の塊だったよな。

 自然よ!俺に力を分けてくれ!って感じか?

 しゅわっ、と俺様の指先に緑っ玉が出てきた。


 なるほどな。んじゃ次は水!

 こぽぽっ、と指先の何もないところから出現する。

 ひゅー。これで砂漠でも長生きできるな。

 んじゃ次はっと。


 なんて火や緑っ玉のように水を消そうとしたら、消えずにベッドに落ちた。

 そして、まるで俺様が寝ている間に世界地図を描いたようなシミになっちまった。


 なんてことをやっていると、タイミング悪くカーネリアとメイド共が部屋に侵入してきた。


「よお!魔法が使えるようになったから遊んでいたら、水魔法でベッドに水たまりを作っちまったぜ!」


 少年時代最後の夜におねしょをしたなんて誤解されたら困る。

 俺はすごく早口で言い訳をした。


 だが、女連中はそんなことよりも俺様の変貌っぷりにしか目が行ってねぇみたいだ。

 カーネリアがずかずかと俺様のベッドに寄り、近くの椅子に腰を下ろした。

 この至近距離で俺様に惚れるなよ?


「貴方は本当にハイドラなのですか?」


 ま、答えはYESとしか言えないよな?

 俺様は無言で頷いた。


「貴方は今、いくつなのですか?」

「生後一か月、だぜ?ハイエルフの成長は早いらしい」

「そうですか。ではチカ、レーテル、シズカ。ハイエルフの生態についての書物を探してくださいな」


 カーネリアは不審者を見る目で俺を睨みながら指示を出した。

 メイド共はこの変質者とご主人様を二人きりにしたくないのか、戸惑いながら部屋から出ていった。


「さてハイドラ。美しくなってしまいましたね」


 お?なんだ?愛の告白か?殺すぞ?


「悪いが恋に興味はねぇ。他を当たってくれ」

「違います。何故、一晩でこのように成長してしまったのですか?」


 なんで生きてるの?みたいな表情でこっちを見ながら聞くな。


「俺が聞きてぇよ。ハイエルフの森の位置を教えてやっから聞いてきてくれ」

「その喋り方。ハイドラで間違いはありませんね」


 口調でしか俺だってわかんねぇのかよ。

 わかるわけねぇか。子猫から龍みたいな進化してるもんな。


「鏡は見ましたか?」

「いんや?足が使いもんにならなくなったからまだだ」

「では私の手鏡を使いなさい」


 あんまり鏡って好きじゃねぇんだけどな。

 ま、見てやるか。もしかしたらハイエルフ界のチンパンジーみたいな顔かもしれん。

 カーネリアから手鏡を受け取って、俺様の顔を拝見。


 おう、顔布で見えない範囲からでもわかる。

 超絶美形だ。

 むしろ顔布とそれに描かれた模様のせいで、ミステリアスな美青年って空気が漂ってやがる。

 勘弁してくれ。

 顔布を取った日には求婚者で屋敷の庭が埋まっちまう。


「美しいでしょう?」


 いや、お前の顔じゃねぇのに何で自慢げに笑ってるんだよ。

 俺はお前の息子か。


 ってか、今は普通に笑っ、てねぇ。

 微妙に目に力が入ってる。こええ。


「ああ、困っちまったな。俺は恋が嫌いなんだ。求愛でもされちまったら困る」

「あら、残念です。結婚を申し込もうかと思っていたのですが」


 俺はエビが逃げるようにベッドから部屋の隅へ飛んだ。

 一瞬だったぜ。

 おかげで足がねぇのにどうやって飛んだかも覚えてねぇ。


「冗談です。私は誰にも恋をしたことがありません」

「次俺にその冗談言ってみろ!二度と恋出来ねぇように目も耳も口も全部潰してやるからな!」


 奴は呪いの人形のようにケタケタ笑っていたが、俺様がビビり散らかしてんのを見ると死にかけのドブネズミを見るような顔をした。

 一度疑い出したら無理だ。しばらくカーネリアに近寄れねぇ。


「申し訳ございませんね。貴方がそれほど嫌がるとは思っていませんでした」

「お、おう。俺様も言ってなかったがよ、視線恐怖症と性恐怖症を患ってんだ。目を見られるのと性的に見られるのが死ぬより苦手でな」

「なんと。本当に申し訳ございません。ジョーク以前の問題でした。私の配慮不足です」


 目の前で人質が嬲り殺されたような顔をして深く頭を下げるカーネリア。

 んなショック受けるなよ。

 おかげで俺様の頭も冷えてきたぜ。


「おまたせしました、ご主人様」


 このタイミングでメイド共が部屋に戻ってきた。


 って待て!シーツがはだけてる!

 俺は素早くミノムシ状態になった。

 よし、これで平気だ。


 メイド共は俺様の様子に首をかしげながらカーネリアの奴に本を渡す。

 ハイエルフの生態についてだっけな?

 読み終わったら次は俺様に読ませてくれ。

 まだまだ自分の体について理解してねぇ。


「ハイドラ。どうやらハイエルフは自身の持つ魔力量の増加によって、急激に身体が発達していくようです。おそらく、()()()()()に魔力を得て急成長したのでしょう」


 はて、()()()()()

 えーっと、昨日読んでた本の中に情報があったはずだ。

 確か起床直後に発生し、基礎レベルの上昇処理、基礎能力上昇の処理、スキル等の会得の処理、スキルポイント会得の処理とかが発生する時間だっけな。


 まず、基礎レベル。

 俺様の基礎的な力を総合して数値で段階付けしてるんだろ。

 これは俺が積んだ経験によって増えるらしい。

 本を読んでりゃ筋トレ要らずかい。

 まっ、Lv.15ってのがどこに位置するかは知らんが。


 基礎能力の上昇ってのは足の速さとか筋力とかの事だろうな。

 今日、魔力上限ってのが大幅に上がったって言ってたな。

 俺の急成長の原因はそこと見た。


 スキル等の会得。

 今回の場合はスキルじゃなくて魔法五種だったな。炎・自然・水・闇・光。

 んで、水魔法で水たまりを作っちまったと。


 最後に問題のスキルポイント。

 お前はなんぞや。


 まあいい。理解した。

 俺様が急成長したのは不具合でも故障でもなんでもねぇ。

 この世界の理だ。受け入れるしかない。


「よし、原因はわかったな。そしたらまずは早く服をくれ。お前らの視線が怖い」


 俺様はシーツの隙間から手を出して催促をした。

 しかし、メイド共は顔を見合わせて困惑したまま服を取りに行く様子を見せねぇ。

 そこでカーネリアのお言葉が出てくる。


「重ねて申し訳ありませんが、私の屋敷には男性用の衣服が無いのです」


 ちっくしょう、だろうと思ったぜ。

 だが女の服はあんのか。

 頑張りゃギリ着れるかもしれねぇな。

 ソイツは最終手段に取っておきたいが。

 何度も言うが俺は雄。雄が女々しく着飾るのは自然界の畜生共だけで十分だ。


 ったく、仕方ねぇ。


「だったら丈夫な布と裁縫道具一式。屋敷中からかき集めて来い。自分で作る」


 俺様はミノムシのままよちよちとベッドに這い戻った。

 チカの奴は馬鹿を見る目で俺のことを見てやがる。


「失礼だけど、貴方にお裁縫なんてできるの?とてもそんな繊細な人には見えないけれど」

「馬鹿を抜かせ。発明家は細かいことができねぇとなれたもんじゃねぇ。まかせな、超特急で作ってやるよ」

「なるほど、ね」


 ん?チカの奴、昨日よりは当たりが弱くなったな。

 どうした?腹でも痛いか?

 とにかくチカの号令で、メイド共は屋敷に散り散りに服の材料を集めに行った。

 再び俺とカーネリアは部屋に取り残される。


 って、気づいたらカーネリアの奴、部屋のベッドがある反対側の壁まで椅子を移動して座ってやがる。

 なんだなんだ?俺様が何かしたか?

 さっきのことはもう気にしちゃいないんだがな。


 って思ってたら椅子持って戻ってきたぞ。

 何なんだよ。何がしたい。


「先ほどの私の発言、気にしていませんか?近くに居たら不快だと思ったのですが」

「おう、気にしちゃいねぇ。あんたのぺこぺこ謝る姿を見て落ち着いちまった」


 俺様の様子に冷めきった表情でため息をつくカーネリア。

 あー、おう。冷めきっているように見えるが、どっちかっていうとホッとしてんな?

 段々とカーネリアのでたらめな表情筋から、本来の感情が読み取れるようになってきたわ。


《スキル『心理学者』を習得》


 それは知らん。使い道もわからんもんを俺様に押し付けるな。


《『心理学者』人の感情、思考が読み取るスキル。高レベルほど精度が向上》


 いきなり説明するじゃねぇか。

 あれか?俺がカーネリアの感情を読み取ったのがきっかけで習得したのか?

 要らねぇ要らねぇ。自分の力で理解するさ。


《スキル『心理学者』を破棄。スキルポイントを15000取得》


 要らんもんを捨てたら知らんもんが極端に増えたぞ。

 結局何なんだよこれ。


 まあいい。わからんもんは放っておくに限る。


「スキルの整理でもしていましたか?」

「ん?ああ。しんりがくしゃ?っつーのを手に入れたから捨てといたぜ」


 うおっ、なんだその全人類が死んで一人だけ取り残されたような絶望顔は。


「そのスキルはレアスキルです。それさえあれば私の真の気持ちだって易々と理解できるのですよ?私は、貴方にはそのスキルを持っていて欲しかったのですが」

「は?知らねーよ。スキルなんざなくともあんたの顔見て察してやれるくらいにはなってやるよ」


 お、出たなかわいいキョトン顔。

 今回は長いな。

 長いが、あーあ、やっぱり陰険な笑顔になっちまった。

 へいへい、嬉しいんだな。よーしよしよし。

 地獄の門番ケルベロスに懐かれてる気分だ。


 少し待っていたらメイド共が思い思いに裁縫道具と布を引っ提げて戻ってきた。


「ご主人様。倉庫に眠っていた物を持ってまいりました。確認の後、彼に与えてよろしいかの許可をお願いします」


 チカの奴は俺と話す時とは百八十度違う凛とした態度でカーネリアに許可を取る。


「彼は私の友人です。ハイドラはこの屋敷では私と同等の扱いをなさい。彼の望んだ物に私の許可は必要ありません」

「か、かしこまりました」


 カーネリアの命令でもやっぱり不服なもんは不服なんだな。

 俺様がご主人様と同じ席に座ってるってだけでこの不満顔だ。

 だが断るわけにもいかなく、ベッドの上に道具と布を並べるメイド共。


「よーし、サンキュー。ここからはペンドルトンの仕立て屋さんの開業だ。時間かかるから女連中は出てってくれ」


 俺がうっきうきで裁縫道具を確認しながらカーネリア+メイド共を追い払うと、カーネリア以外イヤーな顔して出ていった。

 と言っても服作るのなんて楽勝だ。

 機械と同じで頭の中に設計図、この場合型紙か?を用意して、その通りに布を切る。

 んで、後はちょちょいのちょいで縫っていけば完成だ。


《スキル『衣服作成』を習得》


 うし、無いよりはマシだろ。

 あっという間にローブの完成だ。おまけにぴったりサイズの半ズボンもな。

 コイツらさえ着ていれば裸を見られる恐怖ともおさらばだ。

 さーてと、次は足の問題か。

 またゴミ捨て場にでも作りに行くかね。

 俺はベッドから下りると短い太ももでよちよち行進をはじめた。

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