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第1章 糞山運子、クソヤマ・ウンコになる

フィクションです。

「ウワァアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」



糞山運子(くそやまうんこ)は、トラックに轢かれて死亡した。



糞山運子。年齢は18歳で趣味はドラム。今は高校3年生だが来年から浪人生である。

運子の人生は凄惨なものであった。彼は周りの誰よりも才能に溢れた人物ではあったが、小学校の頃からイジメに遭い続け、バイトの面接も何度も落ち、大学受験も面接で落とされてしまった。本来は明るく朗らかな性格の彼だったが、いつの間にか他人に心を開くことはなくなってしまった、



理由は簡単だ。名前である。



「……丈夫...か…?」



糞山運子。どうしたらこんな名前をつけられてしまったのだろうか。糞山って苗字の時点でどうしようもないのに運子ときた。何が悲しくてこんな名前で生を受けなければならなかったのか。全ての元凶は、名付け親である親父だ。糞山鰤介(くそやまぶりすけ)



「...の、大丈夫で......…?」



親父は有名なロックバンドのリーダーだった。確かに親父の演奏はカッコ良かったし、歌詞も風刺の効いたものでアホみたいなバンド名に反して考えさせられる内容だった。売れた理由もよく分かる。しかし。しかしだ。時代は変わったんだ。親父の生きていた時代と俺の生きる時代は違う。親父はきっと自分の人生を元に俺の名前を真剣に考えてくれたのかもしれない。あの母さんがそれを止めなかったってことはきっと深い意味があったのかもしれない。しかし。しかしだ。いくらなんでも運子は流石に………



「あの!!!!!大丈夫ですか!!!!!!」



「ウワァアアアアアアッッッッッッーーーーーー!!!!!!!!!」



運子は飛び起きた。頭に響く甲高い声が、運子の意識を取り戻した。目の前には人影のようなものが見えていた。



「俺は…トラックに轢かれたはずでは?」



ぼやけていた視界も次第にはっきりとしてくる。

俺は、確かに灰色のビルに囲まれた街から帰る途中であり、灰色のビルとコンクリートを照らしていたのは街灯と信号機とトラックのライトだけだったはずだ。



しかし、今は違う。辺りは緑の草原、広がる青空。少し先には赤煉瓦で出来た建物。コスプレイヤーのような格好をした金髪の女性。明らかにこんな場所は新宿になかったはずだ。まるで、海外のような、それとも…



「あっ、生きてた!良かった…お怪我はありませんか?」



金髪の女性が語りかける。西洋風の白い服、時代錯誤にも思える聖職者のような格好、ロングヘアーの金髪、整いながらも幼なげな顔つき…なによりも、久しぶりに聴いた優しい声質。



「おお、神よ…」



咄嗟に出た言葉。浄土真宗の家で生まれた俺はいつの間にか別の神に祈りを捧げていた。



「はい?」と首を傾げる金髪の女性。やってしまった!俺は慌てて弁明の言葉を考え、とにかく口を開く。



「た、大変失礼いたしました!こんな素敵なお天道様の下でふと目を覚ましたら神々しい女性が目の前にいらっしゃったので、…つい、感謝の言葉が出てしまいました!」



もうめちゃくちゃ。ナンパか?



「…まあ!お元気そうで何よりです!私はナタリー・ハングウェスト。偉大なる神、ハングウェストに仕える者です!ところで、あなたはこんなところで何をされていたんですか?」



…ハングウェスト。聴いたのことない名前だ。言語こそ通じるが、ここは少なくとも新宿ではなさそうだ。この女性は何者か?ハングウェストとは何の神だ?そもそもここはどこだ?考えることはたくさんあるが、ひとまずナタリーさん?と話をして状況を整理していこう。



「大変恐縮ながら、何故ここで寝ていたのかすら覚えていません。突然眠くなってしまい寝てしまったことまでは覚えているのですが、その…とにかく記憶が曖昧で、今、私がどのような状況におかれているのかが分かっておりません。」



「となると、あなたはこの国の方では無い気がいたしますね!ここはちょっと危ないですし、一先ず私の教会に来ませんか?」



ナタリーさんの親切な対応。ここまで親切な対応をされたのは小学生の頃迷子になった時以来だ。



「あ、ありがとうございます!恐縮ですが…お世話になってよろしいでしょうか?」



「もちろんです!あなたの素性は知りませんが、迷えるものはタワーノース教徒以外導くべきであると教えられてますので!」



俺は、自身がタワーノース教徒とやらでないことを祈りつつ、今この瞬間の出会いに感謝することにした。少なくとも俺を知る人物だったら、俺のことは犬のうんこのように避けられていたはずだから。



「…そうだ!まだお名前を聞いておりませんでした!覚えていればでいいのですが、あなたのお名前を聞いてよろしいでしょうか?」



ナタリーさんにそう聞かれて、俺は、




「はい!私の名前は…」



…待て、どうやらナタリーさんは俺の名前を知らないらしい。それどころか、俺はこの世界の人間ではないかもしれない。そうなると、俺はこの世界でなら糞山運子という名前を捨てられるのではないか?あの忌々しい名前を捨てられるのではないか?一から人生をやり直せるのではないか?名前だけで虐められる世界から逃げられたのではないか?それなら名前は何にする?ブラックハウンド?ウルフハウンド?キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル?ブリュッセル・グリフォン?折角だし名前はきっと横文字の方がいいよな。カッコいいし。そうだな、折角だし俺の憧れていた………



「………糞山運子です!!!!!!」



ちなみに、今までの話は後日談である。実際は「俺の名前は糞山運子です!!!!!!」と即答だった。そして今はナタリーさんの反応待ちだ。



終わった。俺を殺してくれ。俺は一生糞山運子として生き続けるのだ。ここでも糞山家の呪いからは逃れられない運命にあったのかもしれない。



「…クソヤマ・ウンコ?素敵な名前ですね!では、案内しますね!さあ、ついてきてください!どうぞ!」



クソヤマ・ウンコ。この名前を素敵だと笑顔で言ってくれたのは、生まれて初めてのことであった。

一発ネタです。

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