その時が来たらきっと分かるわよ。分からないよ、お母さん。
なにこれ。なんだこれ。乙女ゲームのスチルか?
セクシーイケメンが乙女という乙女が軒並み恋に落ちるようなキラキラした笑みで「俺と一緒にくるか?」って手を差し出してくるんですけど。ただその瞳は獲物を前にした肉食獣みたいに獰猛に光ってるんだけど、逆にそれがかっこいいっていうかすごく魅力的でグレンさんに似合っている。
「いきます」
ドキドキとしながら差し出された手に手を置くと自然と手をとられて、簡単に引き寄せられてしまった。今までよりもグッと縮まった距離に心臓が跳ねあがる。
「ミアはどこに行きたい?」
耳元でうっとりするような艶の刷いた声で囁かれてぶわっと顔が熱くなった。
「……ッッ! あ、あの、……ぇ? あれ?」
――ん? んん!?
「いま、名前……!」
初めてグレンさんが名前を呼んでくれた!バッと顔を上げるとすごく至近距離に端正な貌があった。甘やかに染まったエメラルドの瞳に吸い込まれる。グレンさんの瞳はトロリとした鮮やかな青みが魅力的で、その中で光彩が金色に輝くのが本当に綺麗だ。思わず魅入ってしまって。
1秒、2秒、3秒。
ふと、現在の状況を把握した脳の指令で、弾けるように私は離れた。
「す、すす、すみません……っ」
顔が熱い。心臓が壊れそうな程バックン、バックン音を立てている。
「で? ミアはどこに行きたいんだ?」
「うぅぅ…っ」
グレンさんは余裕たっぷりなのが悔しい。神様、この美貌を至近距離にしても顔が赤くならないような鋼の心臓が欲しいです。
「今、ミアって……」
「ダメだったか?」
少し困ったような顔で訊ねてくる超絶美形は絶対に自分の見た目を分かってやっているとしか思えない。
「……嬉しいです……」
「ん。ならよかった」
グレンさんはじっと私を見つめて、緑の瞳を細めふっと微笑った。
「ミア」
色気を纏った声で名前を呼ばれて、ドキドキが限界を超えてもう泣きそうだ。
「……はい……」
もうとてもグレンさんを直視できなくて羽で顔を隠して返事をすると、クツクツと笑われた。
「そろそろ何処に行きたいか俺に教えて?」
「グレンさんは悪い大人です」
憎たらしい程のイケメンは悪戯げに笑うと「今さら気づいた?」と甘い声で囁いてきた。
「さっきから自分の顔と声がいいこと知っててやってますよね?」
「それが俺の長所だからな。お前も嫌いじゃないだろ?この顔」
私の手をとってその美貌をすり…っと擦りつけてくるグレンさん。
殺す気か。私を殺すつもりなのだな。
「――じゃあ、白の大聖堂に行きたいです」
「かしこまりました」
と、またしても全乙女が恋に落ちるような甘い笑みを向けられて、私は――
――あやうく萌え悶え死ぬところでした。しかし、煩悩と欲望の権化である私がそうそう簡単に死ぬことは無かった。自分の心臓の強さに感謝。お母さん。強くたくましく産んでくれてありがとう。
そして私は今グレンさんと一緒に島を観光している。
真っ白な大聖堂は屋根が青くてとても可愛い。中に入ると沢山の観光客がいたけれど、全女性の視線をグレンさんはかっさらった。わかる。人外レベルの美貌だし、スタイルいいし、危険な男の色気纏ってるし。それなのにどことなく高貴なオーラを放つという乙女心をくすぐるイケメンだからね。幼女から熟女まであなたに見惚れていますよ。
「みんなグレンさんの事を見てますよ」
「ああ。ミア以外な」
びくり、と肩が跳ねる。
「そろそろこっち見てくんない?」
つん、と頬を突っつかれる。恐る恐る視線を上げると美麗なお顔にお砂糖をぶちまけたみたいに甘い笑みを浮かべたグレンさんがいた。
「っ、~~!!」
かぁぁっと顔が熱くなる。
「どうした? 顔が赤いぞ?」
ニヤニヤと見下ろしてくるグレンさんを涙目で睨む。
「今のグレンさんを見たら誰だってこうなると思います…!」
「ミアは可愛いな」
「かわ……!?」
たぶん今の私は首まで真っ赤だと思う。
でもしょうがない。今のグレンさんは凶悪なぐらいかっこいいのだ。緑の瞳はトロリと甘く蕩けているのに、お腹を空かせた肉食獣ような獰猛な輝きも放っていてすごく心臓に悪い。
「かわいーよ」
グレンさんは急に変わった。名前を呼んでくれたときから、距離感とか纏う空気とか私を見つめる目だとかガラリと変わった。息を吸うように可愛いとか言ってくるし。
なによりも、羽が……!! 羽が開いてる!!!
グレンさんの灰色の羽はあのときからずっと開いていて、今はご機嫌にゆらゆらと揺れている。
羽が開く=求愛行動なわけで。これって両思いなんじゃ…、とそう期待してしまうけど、グレンさんから確信的な言葉は無いし、私も言えていないのでよく分からないまま過ごしている。
羽を開きあったらどうしたらいいの教えてお母さん!!
お母さんは「その時が来たらきっと分かるわよ。うふふ」とか言ってたけど、全然分からない。もし私の本能がもっとちゃんとあったら神のお告げ的にキュピーンって閃くのかもしれないけど、残念ながらなにも無い。
「なに考えてる?」
エメラルドの瞳が蠱惑的に細まって、そっと私の髪を耳にかけた。
まわりの空気が色を持ったかのような濃密な色気を出すイケメンに体を震わせることしかできない。
「す、すとっぷ! すとっぷです!!」
「なに?」と不機嫌そうに言うイケメンに半泣きで答える。
「……これ以上は……わたしが死んじゃいます……」
ぷるぷると翼と体を震わせながら言うと、グレンさんは「ふは」と笑って「ほんとお前は可愛いな」と蕩けるような笑みを浮かべた。
「ストップって言ったじゃないですか……!」
もうあなたの尊さと色気が私の致死量に達してるんですってば。