#朝食 #イケメン #絶景(色んな意味で)
青い海と青い空。白い街並み。目が覚めるような青と白のコントラストに家々が飾る色鮮やかな花々が素敵なアクセントになって絵本から飛び出たような美しい景色になっている。そしてそんな景色を前にしても全く見劣りしない眩しい程の美形。コーヒーを飲んでいるだけなのに映画のワンシーンに見える。
「ほんと、絶景ですね」
「だな」
美しい景色を前に二人で穏やかな笑みを交し合う。グレンさんは景色を。私はグレンさんを見て言ってるのだけど、そこはあえて口にしないでおいた。
「グレンさんって人間受けする見た目ですよね」
「知ってる」
すごく嫌そうな顔で答えるグレンさんに吹き出してしまう。
「なにか嫌なことがあったんですか?」
「外交の場によく連れ回されるからな」
それはそれは。超絶モテただろうな。
「他種族からモテてもこっちは無だからな」
「ですよねえ」
人間はときめくかもしれないけど、こちらは無理だからなぁ。
「勝手に恋人のつもりになる女とか、部屋に押しかけてくる女とか居たな」
「ホラーですね」
「そういえば知ってるか?人族の女って『きゃーー!!』って高い声で叫ぶんだよ」
ええ。ようく知ってますよ。なんせ元人間ですから。
「ものすごく頻繁にその奇声を発されてさ。訳が分からない最初の頃は、突然気でも触れたのかとすごく心配してた」
「そうなんですね」
想像すると笑っちゃうな。
きゃああっ!て思わず叫んだら、イケメンが「大丈夫か?」って心配してくるって……トドメを刺しに行っちゃってるよね。
「あれは何か、って人族の男に聞いたら苦笑いして『気持ちの高ぶりが自分の中で収まりきれない時にああして叫ぶんです』って言われたよ。人族って変わってるよな」
「あははっ」
その男性、説明が上手!たしかにそうかも!私もグレンさんの前だとずっと頭の中で「きゃー!」って叫んでる。だって1秒1秒かっこよすぎてときめきと動悸が収まらない。
ああほら、今も優しい目でこっち見てる!きゃあーー!!!
食事が届いて、ドリンクをお替りして、と素敵なカフェでの時間はあっという間に過ぎていく。景色は綺麗だし、お店は素敵だし、朝食もびっくりするくらい美味しかったし、グレンさんはずっと見ていられるくらいカッコいいし。自然と会話も弾んですごく居心地が良くてずっとこんな時間が続けばいいのに、と思ってしまう。でも、終わりは必ず来るもので。
「もう昼前か。そろそろ出るか?」
「……そうですね」
夢のような時間の終わりにしゅん、としてしまう。元気いっぱいだった羽もしおしおとうなだれてしまった。
「その様子だと楽しんでもらえたようだな」
頭をぽんぽんとされて、胸がキュンと高鳴る。羽もぴこっと元気を取り戻した。
「すごく楽しかったです!」
「そりゃよかった」
美形の優しい笑顔にくらくらだ。
この夢みたいな時間がずっと続けばいいのにな。
*
青い海と青い空、白い雲と白い街並み。そして目の前には真っ白な店内にいても全く見劣りしない眩しい程の純白の翼をもつ女。薄い水色のワンピースも陽だまりのような金色の髪も金色の光彩が美しい空色の瞳も景色によく映えていてとても綺麗だった。
「ほんと、絶景ですね」
「だな」
美しい景色を前に二人で穏やかな笑みを交し合う。小娘は景色を。俺は小娘を見て言ってるのだが、そこはあえて言わないでおいた。
小娘との時間はあっという間に過ぎた。景色は綺麗だし、朝食も美味かったし、目の前で俺の話を聞きながら笑う小娘は表情がくるくると変わって見ていて飽きることがない。
一緒に居れば居る程大きくなる飢餓感に眩暈がした。望んでも得られないと分かっているのに。
小娘が席を外したタイミングで会計をお願いした。
「とってもお似合いの素敵なカップルがテラスにいるので、お客さんが沢山入ってくれて助かります」
イヌ科の獣人のウェイトレスが尻尾を振りながら茶目っ気たっぷりにウィンクをする。
どうやら他種族にはキラキラした男女が仲よく過ごしている図にみえるらしい。
しかしその実態は、モテる年下の女に弄ばれる残念な男という図だ。幸せな図を想像していた奴等め残念だったな。
「そりゃよかった」
「なのでドリンクのお替り分はサービスさせて頂きますよ」
何を求めているんだ、と目で促せば、ウェイトレスは苦笑いした。
「あと1月はご滞在されるんでしょう? ぜひまたいらしてくださいね!」
この店は味も雰囲気も気に入ったし、そういうことならこちらに否はない。商売上手な事だ。
「また来るよ。まあ、次は俺一人かもしれないけどな?」
「えっ、あれだけいちゃついておいて!?」
「いちゃ……?」
「まさかの無自覚ですか……。お二人ともせっかくいい席に座ってるのに、ほとんどお互いしか見てなかったですよ?」
「――」
「ふふふ、またぜひお二人でいらしてくださいね。もちろん、お客様お一人でも大歓迎ですけど」
笑いながらウェイトレスは去っていった。
……話している相手の目を見るのはマナーだしな。そういうこともあるだろう。
「お待たせしました」
わりとすぐに小娘が戻ってきた。
しかし、羽がぷりぷりとご機嫌斜めに揺れている。
「なにかあったのか?」
「別になにも無いですけど…」
小娘の片手をとり、眉尻を下げて「話してくれないか?」と小首を傾げれば、小娘は分かりやすく赤くなって「本当になにも無いんです」と目を逸らした。
そんなはずないだろう。途中まで楽しそうな顔をしていたくせに。こいつが誰かになにかされたとしたら、それはちょっと…許せそうにない。
「本当に?」
無言で見つめ続けると小娘が観念したようにもにょもにょと白状した。
「……グレンさんが店員さんと仲良さそうにしゃべってたなぁって」
なんだ。そんな事か。拍子抜けした。
「――それで拗ねたのか?」
小娘は弾かれたようにこちらを見た。顔は真っ赤になっているし、大きな翼がぱたぱたと暴れまわっている。
「いえ、あのっ、すすすすみません、そんな立場にないのは分かっているんですけど。グレンさんはカッコいいし、しょうがないとも思ってるんですけど…」
涙目であわあわと視線を泳がせながら、「……それでもなんか嫌で……」と、ぽそぽそと囁いた。
――なんだよそれクソ可愛いな。
「無自覚に妬いてた、ってことか?」
小娘は顔どころか首まで真っ赤になってしまった。
――図星か。
くすっと笑ってしまう。
「種族が違うんだから、話したところで別になんもないけどな」
「で、ですよね……」
小娘は真っ赤になった顔を翼で隠してしまった。
くすくすと笑いが止まらない。
「すみません……」
ますます小さくなっていく小娘も訳の分からないヤキモチも可愛くて仕方がない。
これはアレだな。完全に俺はこいつに落ちてんな。
「もう昼前か。そろそろ出るか?」
思っていたよりもずっと長く店で過ごしてしまった。ミアは「そうですね」と言いながらしゅん、と目を伏せた。白い羽もしおしおと項垂れてしまっている。
「その様子だと楽しんでもらえたようだな」
ミアのその小さな頭をぽんぽんとすると、羽もぴこっと元気を取り戻してぱたぱたとご機嫌に揺れる。
「すごく。すごく、楽しかったです」
可憐な笑みに口端が緩くなる。
「そりゃよかった」
「え?あれ?お会計は?」
そんなの済ませてるに決まってるだろうが。
「え? は、払います!!」
「出させるつもりはねぇよ。大人しく驕られとけ」
「でも」
はぁ、とため息が漏れる。
「そこは、『ありがとう』って笑うんだよ、田舎者」
ミアは一瞬迷ったあと、俺を見上げた。
「ごちそうさまです。ありがとうございます」
はにかんで笑う可愛らしさに益々愛しさが溢れてきた。
自覚するとこんなにも早く蝕まれるんだな。
「会場まで送るよ」
「グレンさんはどうするんですか?」
「1日1回は顔を出さなきゃいけないからな。ちょっと顔を出したら適当にこの辺をうろつくつもりだ」
不安気に揺れる空色の瞳が俺を捉える。ミアの口がゆっくり開き、戸惑うようにまた閉じた。
「……この後もご一緒したら迷惑ですか?」
と、遠慮がちに聞いてきた。赤く染まった頬も伏し目になった目も胸の前でもじもじと動かしている手も全部可愛くて愛しい。
「俺は別に構わないが」
ぱぁっとミアの翼が嬉しそうに広がる。
「5年目の先輩として忠告してやるが、このお見合いは最初の10日間が勝負だぞ」
「えっ待ってください。5年目ってことは……グレンさんはもしかして今年23歳ですか?」
ミアは嬉しそうに目を輝かせた。
「そうだけど、今、そこ??」
「はい。重要かつ大切な情報です」
コイツはいちいち俺を調子に乗せさせるような事を言ってくるな。
「……まあいい。話を戻すぞ?」
「はいすみません」
「10日間の中でもだいたい最初の3日間で決まる。いい奴ほど早く売れていくからな。特に年下好きってわけじゃないなら、今日は会場に行った方がいい。こんな事言っちゃなんだが、女は1年目の方が有利だ」
「なるほど…」
「つっても、お前は来年でも再来年でも関係ないだろうけど」
急にぽっと頬を染め、恥ずかしそうに目を伏せたミアに笑みが零れる。
「で、どうする? 俺は会場をすすめるけど、」
きょとん、と見上げてくるミアに俺は笑った。
「――俺と一緒にくるか?」
もし来るなら覚悟しとけよ。
読んで下さってる方本当にありがとうございます。
ブックマーク・感想・評価・レビュー励みになってます(*´ω`)
お待たせいたしました。
次回からやっと追われる側になりますよ!




