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どうも、魅力的な女(笑)です。  作者: まのろ
本編
6/20

美形にはいつまで経っても慣れない。

 待ち合わせ場所に着いたらグレンさんはすでに居た。

 長い脚を組んでベンチの背もたれに目一杯体重をかけるようにもたれている姿は、ちょっと崩れた格好のはずなのに海外スターのように華があって絵になっている。これがイケメンの底力か。


「朝ごはんは食ってきたか?」


 気怠るげな感じがたいへんエロいですね。ごちそうさまです。


「ちょっと寝坊しちゃって……まだなんです」


「俺も食べてないんだ。島のどこかの店で食べるか?」


 えっ!


「会場で食べてもいいが……」


 これって……デート?やったー!!


「あの、ぜひ。ぜひ外で食べたいです!」


 私の返事にエメラルドの瞳がホッとしたように僅かに細まる。


「助かる。会場はできたらあまり近づきたくないんでな」


「グレンさんにも苦手なものがあるんですね」


「どういうイメージなんだ俺は」


「なんでもスマートにこなす大人のひと?」


「随分と高く見積もられてんな」


 グレンさんがくす、と笑う。それだけで周りにキラキラと星が散っているように見えて、胸がきゅんと高鳴った。ほんと、カッコいい。すき。


 会場になっている大きなホテルから出ると、お土産屋さんやご飯屋さんやカフェが立ち並ぶ賑やかな広場だった。でもグレンさんはそこを素通りして坂を上っていく。


「どこかいいお店をご存じなんですか?」


「いや? でもま、ああいうところの店はだいたい観光客向けでハズレも多いからな」


 ほうほう。お上りさんの私には全部オシャレで美味しそうに見えるというのに。グレンさんは流石ですね!


 こうしてグレンさんと可愛い街並みをゆっくり歩けるだけですごく幸せー。


 真っ青な空と強い日差しを跳ね返す白い石畳に白い家。それぞれのお家やお店の壁には色鮮やかなお花や極彩色の食器が飾られていて目を楽しませてくれるし、なにより、――隣を見ればすれ違う人がみんな振り返るような美麗な男性。


 こんな素敵な人が自分とごはんに行こうとしてるなんて信じられる?

 私は未だに信じられないよ…。嘘でしょ…?すごく……ああ……すごい(語彙力喪失)。


 石畳みを歩いていくと画廊やレストランのあるお洒落なエリアにたどり着いた。


「ここはどうだ?」


 そう言ってグレンさんが指したのはこの新婚旅行のメッカの島の最高級の宿に併設されているオシャレなカフェだった。

 入口のお庭もすごく可愛らしくておしゃれだし、ドアも看板も建物も何から何まですごく素敵だ。でもアレだ。きっとここはオレンジジュース1杯が私のランチ代くらいするようなお店だ。


「ちょ、ちょっと高そうじゃないですか!?」


「気になるのは値段だけか?」


「そうですけど、それがすごく重要なんですって」


「じゃあ問題ないな」


 にっこりと笑ってエスコートする腕を差し出す超絶イケメン。醸し出す高貴なオーラと相まって皇子様度がすごい。おかげで私の乙女心が爆発しそうだ。


 こんな素敵な人とこんな素敵なお店に入れるなら、いくらでも課金しちゃっていいんじゃない!?


 なんて。そんなダメな思考に陥りそうになりつつ、ちゃんと貯金してるし高くたって朝食ぐらいならダメージもしれているだろうと冷静にそろばんを弾く。お金は大事だようん。


「――」


 どうしよう。さっきから凶悪なレベルの美形が自分に手を差し出してくれてるんだけど。

 エスコートとか生まれて初めてで……。これって…手を上に乗せればいいの?

 遠慮がちに手を伸ばすと優しくそっと手を取られた。


 トン、とほんの少し触れ合って、それからグレンさんの大きな手に本当にそっと指先を軽く握り込まれて、しっかりとした腕に導かれる。


 うわ、うわ、うわわ!


 心臓が耳の近くにあるんじゃないかってぐらい、どくどくいう音がうるさい。


「顔も耳も真っ赤だ」


「……っ、」


 グレンさんの手は大きくて掌は少しカサついていてとても温かかったし、腕はしなやかな筋肉がしっかりついているのがスーツの上からでも分かって、すっごく男の人って感じがする。


「ほんと男慣れしてねえな」


 グレンさんは少し小首を傾げ。

 緑の瞳を細めゆっくりと口角を上げた。


「可愛い」


「~~~っっ!!!」


 声にならない声を上げる私に、グレンさんはぷはっと破顔して「ほんと田舎者だな」ってくすくす笑いながら罵って、私の頭をぽんぽんとすると、頭の上からそっと「変な奴に騙されんなよ」と掠れた甘い声でトドメをくださった。


 私のライフはとっくにゼロだったのに。


「行くぞ」


 グレンさんの自然なエスコートでお店に入ると、目に飛び込んできたのは鮮やかなマリンブルー。


「うわぁ…」


 島の景色を最大限に生かすかのように店内は白で統一されていた。天井も壁もシャンデリアも全て白。それでも店内からの景色が極彩色の絵のように美しく彩どっていて全体が品よくまとまっている。お店の入り口からは想像もできなかったほどの素敵な景色に思わず呆けていると、グレンさんが隣で小さく笑った気配がした。


「海側のテラス席にいたしましょうか?」


「よろしく」


 グレンさんは店員さんに泰然とした態度で応えると、私にだけ聞こえるような声で囁く。


「飛べばいい景色は見れるけど、たまにはこういうのもありだろ?」


 掠れた低音のイケボの攻撃力に私は真っ赤になって必死でコクコクと頷く。

 ……本当に心臓に悪い人だ。


 テラス席は白いタイルの上に脚が黒いアイアンでできている白いテーブルとチェアーが並んでいてリゾートっぽくて可愛い。

 店員さんから高級感あふれる黒い革張りのメニューを渡されて、真っ先にお値段を確認。やっぱりすごくお高かった。でも払えない値段ではないので、いい思い出だと思って好きなものを頼む事にした。

 メニューから顔を上げると、何も言ってないのにグレンさんがスマートに店員さんを呼んで注文してくれた。こなれ感が半端ない。


「どうした?」


 グレンさんは椅子の背もたれに背を預けてリラックスしている。こなれ感が半端ない。


「慣れているなぁ、と思いまして」


 グレンさんのエメラルドの瞳が「それで?」と続きを促す。


「……悪い大人のヒトみたいだな、と」


 ふは、とグレンさんは笑って答える。


「そりゃ、悪い大人だからな。だから――」


 一旦言葉を切ると、目をすぅぅっと細め「――あんまり揶揄うと痛い目みるぞ?」と低い声で囁いた。

 私は思わず両手で心臓を抑えた。


 うわああああ!!なにこの肉食っぽい表情めっちゃかっこいい、尊い!!


 胸がギュンとなって翼がぱたぱたと暴れるのを抑えることができない。

 お母さん、ごめんなさい。この人になら痛い目にあわされてもいいかもしれないなんて思ってしまったアホの子をお許しください。でも、痛い目って言っても。


「――グレンさんはそんな事しないと思うんです」


 きっとグレンさんは女性に対してなんだかんだで強く出られない気がするんですよ。初対面のときを思い出してみても、全面的に悪かった私が涙目になっただけで謝ってくれるような人だし。


「昨日会っただけなのに俺のことを信用しすぎだろ」


「ずっと紳士でしたし。きっとなにかあっても女性には手をあげたりしないタイプなんじゃないかな、って」


「女性に手をあげるとかは問題外だろ」


「ほら」


「ほら、って。……お前、頼むから悪い奴には捕まるなよ?」


 呆れたような顔もかっこいいなぁ。

 でも、さっきから思っていたんだけど、「変な奴に騙されんなよ」とか「悪い奴に捕まるなよ」とか……、私ってそんなにグレンさんのアウト・オブ・眼中なんですかね。悲しい。


「……悪い大人には捕まりたいんですけど……」


「――は?」


 私の呟きに目を少し見開いて固まるグレンさん。灰色の羽もピーンとなっている。


 えっなにこの反応。

 グレンさんが何で驚いてるのか分からないけど、すごく可愛い!

 あまりの可愛さに奥歯を噛んで、こっそり悶えると、とつぜん視界の端で灰色が閃いた。


「――え?」


 グレンさんの灰色の羽が広がっている。そしてぴこぴこと忙しなく動いている。

 まさかの反応に驚いて固まると、すぐに灰色の羽がぴったりと閉じてしまった。


「――ぁ」


 思わず、惜しむような声が漏れてしまった。

 しょぼんとして羽から視線を戻すと、ぼぼぼ……っと顔を赤く染めて戸惑ったような顔でこちらを見つめる超絶美形がいた。


 は? え? なんですかその反応は!


 悪いおとなだったんじゃないんですかあああ!?


 う……。 ぐぉ……っ。 これは……! これは……っ!!


 かわいいいい……っ!


 いつも大人の余裕を醸し出しているイケメンの純粋な照れ顔の破壊力とギャップに私は神に感謝した。


「グレンさん、いま羽がうご「いてねえ。……見間違いだろ」


 エメラルドの瞳とジッと無言で見つめ合う。でも、目元は赤くなったままだし、ちょっと拗ねた感じの呟きが堪らなく可愛い。


 これは!これはちょっと調子乗っちゃうぞ!


「見間違えでしたか?」


 グレンさんのエメラルドの瞳に私が映る。


「でも私は、見間違えでも、勘違いでも、……すごく、嬉しかったです」


 エメラルドの瞳が、獲物を前にした肉食獣のようにゆらりと獰猛に輝く。やっぱりグレンさんはこういう強い眼差しの時が一番カッコいいと思う。


 熱を帯びた獰猛な瞳が私を捉えたまま、ゆっくりと目蓋を閉じた。

 そしてまたゆっくりと開くと、掠れた声より先に吐息が漏れた。


「――お前、」


「はい」


「とんでもねえ悪女なんじゃねーだろうな?」


 ふっと挑発するような笑みに心臓が暴れまわる。肋骨を折りかねないレベルだ。たいへんだ。きゅん死にする。

 一人悶えていると、今度はぷっと噴き出して、小さな声で「わりぃ。やっぱ見えねえわ」と男前が優しく笑い返してくれた。きゅーん。


「お客様。――お先にドリンクをお持ちいたしました」


 でも、小悪魔的な女子に憧れがあったんだけどなぁ。やっぱり違ったか。ちぇっ。

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[良い点] サイコーすぎて、悶え苦しんでいます。 なんなのなんなのかわいすぎか!大人エロい人が照れちゃうとかうぎゃー!
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