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どうも、魅力的な女(笑)です。  作者: まのろ
本編
5/20

どうしてこうも懐かれちまったかな。

 女を送った後、近くの店で酒を呷った。

 正直、飲まなきゃやってられねえ。


「お兄さん、イケメンだねえ!そんだけイケメンならお見合いでもモテモテだろ?」


 クマ科の獣人の店主がエールとつまみを出しながら笑う。


「よく言われるけど、そんな事ねぇよ」


「おいおい自惚れてんのか謙虚なのかハッキリしろよ!」


「いやマジで全くモテねえ」


「じゃあ性格に問題があるんじゃねぇか?」


 店主はガハハ、と豪快に笑いながら去っていった。

 他種族の獣人の好みなんて普通は知られねえからよくモテそうだ、とか言われるが生まれてからこのかたモテた試しが…、


「――お隣、座ってもいいですか?」


 あった。……そういえば、ガキの頃から人間の女達からは息を吸うようにモテたな。正直人間の女に言い寄られても困るだけなのでカウントしていいのか分からないが。


「私の事、覚えていますか?」


 にっこりと笑む人族の女からは、自分が覚えられているに違いないという自信が滲み出ている。


「あ~…」


 ほんとめんどくせえな、そんな感情を隠して「仕事で色んな国に出入りするから」と態と困った顔を作り、暗に覚えていない、と伝える。


「私……「今日は色々あって一人で飲みたい気分なんだ」


 笑顔でにっこりと微笑めば、女は顔を赤くして目を伏せた。

 ちなみにこの女は人族のとある国の貴族令嬢だ。立場を明かされてしまえば断るのが更にめんどくさくなるのでしゃべらせないに限る。


「そう、ですか。ごめんなさい。あす…「明日は予定があってね」


 もういい?と表情を消して冷たい目を向けてやると女はすごすごと帰っていった。ついでに護衛の男達も消えたのを確認。


 わざわざ亜人の国まで俺に会いに来たのかと思うと、その執念に苦笑いが漏れる。このくだらない見合いの嫌な事の一つだ。

 強制参加のお見合いは、全世界に自分がここにいるって発信してるようなものだ。

 普通の奴等は関係ないのだろうけど、俺の場合はあちこち顔を出させられてきた関係で、外交上知り合った女がこうして付きまとってくることが多い。

 時間外労働手当請求すんぞ、と国王(クソじじい)に向かって内心で舌打ちをする。俺の見た目が人族の女受けするからってあちこちのパーティーに連れ出しやがって。


 同族から見向きもされない見た目は他種族からは異常なまでにもてはやされる。ガキの頃は逆だったら、と感傷に浸ったこともあったが、今はそんな可愛らしい感情なんてとっくに持たなくなって久しい。

 同僚(アホ)部下(バカ)どもはうるせえが仕事は性に合うし、それなりの地位について金もあって、今の現状に満足している。だから、番なんてどうでもいいと本気で思っていたし、それは今もそうである筈だ。


「……」


 なんでちょっと自分に言い聞かせてるんだよ。

 番なんてどうだっていい。どうせ手に入らねえもんを望むほど愚かになったつもりはねえ。

 そもそもそんな欲を持っている事すら忘れるほど久しく愛だの恋だのに近しい感情なんて感じたことは無かった。それが今日だけで何回羽が開きそうになったことか。それもあのいかにも世間ずれしていない純朴そうな小娘に。


 飢えていた事すら忘れてるほど飢えている獣に味見させるようなマネしやがって。


 俺の好物なんてクソどうでもいい話を本当に楽しそうに聞き、「私も好きです!一緒ですね」と心から嬉しそうに笑い最後まで居座りやがった。しかも羽を終始開きっぱなしにして。

 うっかりするとそれに応えて開きそうになる自分の羽をずっと制御しながら過ごすのは酷く疲れた。


 …………それでも、一緒にいる時間は悪くなかった。


 俺は人族の自分に自信のある女から追いかけられすぎたせいで自分に自信のあるイイ女系にはうんざりしている。選べる立場なんかじゃねえが、それでもアイツがそういう女だったらたぶん引いていたと思う。

 あの羽なら、そういう女に成長しそうなものなんだがな。箱入りだからなのか田舎者だからなのか。


 くそ。なんでこうも懐かれたんだ。


 俺が帰ろうと促すと、しゅん、と雪のように白い羽を項垂らせた。小娘は上目遣いで、ちょっとだけ悲しそうにほんのちょっとだけ拗ねたような表情で俺を見て、小さく息を吸った。


『もうちょっとだけだめですか?』


 そんな表情でそんな事を言われたら普通勘違いするだろ。


『明日も会いたいです』


 顔を真っ赤にして、緊張と不安と恥じらいを浮かべながら。


『会ってもらえませんか?』


 小娘は真っ白な羽を緊張でピーンと伸ばしながら羽先を暴れまわせるという器用な芸当をしていた。


「クソが」


 せっかく飢えも乾きも欲も期待も失望も忘れてたっていうのによ。美味いものを味見させられて、目の前にぶら下げられたら誰だって喰いたくなるだろうが。


「マスター。酒をくれ」


「あいよ。何にする?」


「強いやつ」


 ああほんと。飲まなきゃやってられねえよ。




 俺は何だって早朝からお見合い会場(こんなところ)にいるんだろう。

 いや分かってる。昨日アイツと約束したからだってことは。


『明日も会ってもらえませんか?』


『昨日と同じところにいるから、来たきゃ勝手に来ればいい』


 バカじゃねえのか昨日の俺は。せめて時間ぐらい伝えておけよ。

 アイツは来ないとは思う。だけど、万が一アイツが来たときに俺がいなくてあの真っ白な翼が力なく項垂れてしまうかと思うとどうも落ち着かなくて来てしまった。

 同僚にこんなことがバレたら絶対笑いものにされる。アイツと関わってから振り回されてばっかりだ。


「ああクソ」


 もうすでに結構ヤバいところまで来てしまっている気がする。今日は小娘が来ない方がいい――


「おはようございます、グレンさん」


 ――と思ったそばから、おもいっきり聞き覚えのある声がした。


「……はよ。えらく早いじゃないか」


 振り返ると同族なら誰しもが惹かれ魅入ってしまう純白の大きな一対の羽が目に飛び込んできた。


「お時間を約束していなかったので、すれ違ったら嫌だなぁ…と思って」


 小娘は翼をぴこぴこと嬉しそうに揺らし、えへへ、とはにかんで笑った。


 羽は一枚一枚が艶やかで張りがあり、見るからにふわふわだ。微かな風にでも誘うように揺れるそれらからは女性特有の甘い匂いと陽だまりの心地よい匂いが混ざったようなたまらない香りがする。


「でも、もうグレンさんがいてくれて嬉しかったです」


 小娘は何の罪もなく嬉しそうに笑みを浮かべる。


「……そうかよ」


 ――やべえ。羽がめちゃくちゃ開きたがっている。


 いい加減にしないと喰っちまうぞ。



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