異世界って不思議。
ミアです。
グレンさんの妻を決める謎のトーナメントを優勝してから暫くして妊娠が発覚しました。
子供が大好きな私。出産は怖いけどお腹の子に会えるのをとっても楽しみにしていました。
だって大好きなグレンさんとの間の子。
……可愛いに決まっています!
それにイケメン過ぎるグレンさんの子。
……間違いなく可愛いに決まっています!
グレンさんに似た超絶美少年?
グレンさんに似た傾国レベルの美少女?
どっちでも嬉しい!ばっちこーい!とそれはそれは楽しみにしていました。
そして、待ちに待ったその日は、思っていたよりもずっと早く来ました。そして、すぽーんと出てきた子を大事そうに取り上げたグレンさんは言いました。
――元気な卵だな、と。
そう。
私、卵を産みました。
私の尻は、
私の尻は……!
たまごを生み出しました……!
「え?え?」と呆然自失の私を他所にグレンさんは出てきた卵を愛しそうに見つめていた。
――たまご?
――ああ、元気な俺たちの卵だ。
今までで一番キラキラした顔で笑うグレンさんに、『産卵で有翼種的には正解なんだ』と若干遠い目になった。
鶏の卵よりも少し小さかったはずの私たちの卵ちゃんはその日からすくすくと成長し、10か月程経った今では両手で抱き抱えるくらいのサイズまで大きくなった。
不思議。中身が成長するのはともかく、殻ごと大きくなっていくとはこれいかに。
ちなみに卵ちゃんは温めなくてもいいらしい。
岩盤を素手で砕いても肌にかすり傷さえ負わない有翼種の強靭な体から産まれた卵は、たとえ上空から落としたとしても割れる事はないそうだ。
誰か試したんかい(震え)。
「ママですよー」
そんな頑丈な卵だけど、盗難や略奪にだけは気をつけなきゃいけない。
卵のうちに盗んで自国の最強兵にしようとする悪い人がいるらしい。だからどこに出かけるにも肩下げ鞄にいれて大切に連れ歩いてる。
「卵ちゃんの事は絶対にママが守ってあげるからね!」
まずもって絶対に盗ませないし、万が一可愛い卵ちゃんが盗まれたら狂戦士になって取り戻すまで戦う所存だ。
「あ、動いた」
今では元気に部屋中を転がって移動するまでに成長した卵ちゃん。
「えへへ、かっわいいなぁ~~」
卵に可愛いも可愛くないも無いのは知ってるけど、グレンさんの赤ちゃんだと思うと可愛くって仕方がない。ビバ親ばか。
ミシ。
「えへ、………ぇ?」
今、『ミシ』っていった!!!?
「ちょ、ちょちょちょちょぉ~っと待って卵ちゃん!!!今、パパお仕事だから!!!」
みしみし……っ。
「い、いやぁーー!!!」
「姉御、どうしたんだ!?」
グレンさんの職場に卵ちゃん抱えて飛んできちゃいました。実は以前暴れた一件以来、何故か軍人の皆さんから姉さんとか姉御とか呼ばれて慕われていたりして、軍施設なのに顔パスさせてもらってる。ってそんな場合じゃなくって。
「赤ちゃんが生まれるの!!!」
「ナンダッテー!!!?」
門番をしていた狼獣人さんが驚いて耳と尻尾をピーンと立ててたのを横目に急いで門をくぐり抜け施設内を爆飛行。それにしても、さっきの耳と尻尾可愛かったな。全くもってけしからん。もっとください。
グレンさんの部屋、――いない。
訓練場、――いない。
ふぇ、と泣きそうになった瞬間――、
「ん? 小鳥ちゃん?」
天の声!!
「アナトリアさぁぁあん! グレンさんは!?」
「第5会議室よ。行くなら連れてって。中継ぎしてあげる」
くねっと科を作ってウィンクを決めたアナトリアさんはキラキラと輝いて見えた。
「ありがとうございますっ! 女神とはアナトリアさんのことですねっ!!!」
会議室に着くとグレンさんが飛び出てきてくれた。
「ミア……!」
「グレンさんんんんん!!!」
「どうした?」
「た、卵ちゃんが!!」
肩下げ袋から取り出すと既にかなりひび割れていた。
よかった! 間に合った!!
「あら、すぐにでも孵りそうね」
アナトリアさんの言葉にこくこく、と必死に頷く。
「とりあえず、帰ろう。――アナトリア」
「はいはい。今度は育児休暇ね」
アナトリアさんの察しの良さ。
そして、それに目を細めて短く「ありがとう」と応えるグレンさん。
まさに嫁と夫の図。え、やだ。嫁は私。
「ちょ? 小鳥ちゃん?? 私を見る目付きがおかしいんだけど?」
「グレンさんの嫁は私です」
「おい、アナトリア何してんだ」
「なんの話!? いい加減あんたらのいちゃいちゃに巻き込むのはやめて!? 私そのうち冤罪であんたらに殺されないでしょうね!?」
そんなこんなでアナトリアさんと別れて、お家に飛んで帰ってハラハラと卵ちゃんを見守り待つことしばし。
ぱきーん。
「ぴぃ」
中から一所懸命頭突きで卵を割った赤ちゃんは勢いよく卵から転げ出て、一回転してベビーベッドにぽて、と大の字で倒れた。
ついに。
本当についに。
私たちの赤ちゃんに会えた!!
「かっ可愛いーーーーー!!!」
急いで抱きあげると、不思議そうに翠の瞳でみつめてくる赤ちゃん。
KA・WA・II――――――!!!!
赤ちゃんは男の子でした!!ちょっと生意気そうな目といい、この完璧な可愛らしいお顔といい、グレンさんそっくりの男の子です!!マジ天使!!
頬擦りしながらタオルケットでくるむ。
「ママですよ~」
「ぴっ」
「ほら、パパですよ~」
赤ちゃんをグレンさんの腕に運ぶと、眉尻を下げて赤ちゃんをちらと見つめるグレンさん。わずかに揺れるエメラルドの瞳が、雄弁に「迷っています」と語っている。羽も困ったようにぺそ、っとなってるのがすごく可愛い。
「どうしたんですか?」
「あ、いや。そういうちっこいのに触れたことが無いからな」
「卵は平気で触ってたじゃないですか」
「あれは頑丈だからな。そういうお前は卵の時はやたらビビッてたのに、そのいかにも弱そうなちっこいのは大丈夫なのか?」
「卵の方はどうしても割れるイメージがあってですね。この子は首も座ってるし大丈夫ですよ!」
「あっ、おい!」
無理やり押し付けると慌ててグレンさんが受け取ってくれた。
「…………柔らかいな」
「ぴー」と可愛く鳴きながら赤ちゃんがグレンさんに手を伸ばす。
グレンさんがそっと指を差し出すと小さな手がぎゅっと握る。なにこの光景。天国?
「手、ちっさ」
ぷ、と笑うグレンさんは本当に柔らかな笑みを浮かべていて。私の心もじんわりと温かくなる。
「ミアそっくりだな」
聖母のようなグレンさんの神々しさにうっとりとしていた私はたっぷり時間をおいてからおかしな発言に気が付いた。
「―――――――――――へ? い、異議ありっ!! どこからどう見てもグレンさんですよ!?」
「は?」とグレンさん。
「ぴ?」と赤ちゃん。
「ああ、もしかして顔か?」
「はいっ」
「羽は完全にミアだ」
「言われてみれば白色ですね」
「……………よかった」
愛しそうに赤ちゃんを抱っこしながら、グレンさんが小さく零したソレは多分無意識のもので。
だから私は聞かなかったことにして、ぎゅっとグレンさんに抱き着いた。
「私たち両方に似てるってことですね」
「そうだな」
「可愛いですね」
「最高にな」
二人で見つめ合っていると「ぴぃぴぃ」と赤ちゃんが鳴いた。
「赤ちゃんって『ぴぃぴぃ』鳴くんですね」
「――ちなみに聞くが、なんて鳴くと思ってたんだよ」
「『おぎゃあ』とか?」
「――」
グレンさんのドン引きした顔を見て察した。たぶん、『おぎゃあ』って鳴いたらホラーなんだと。
「……俺はお前と話してると時々本当に同族なんだろうかって思うよ」
「スミマセン」
「ま、そこも面白くて気に入ってる辺り大分俺もキてるんだろうけどな」
「へ?」
首を傾げて見上げると、口角を上げて目を細める旦那様がいて。
「愛してるよ」
と悪戯気に囁かれて心臓がギュンってなった。
しかも、私が真っ赤になってはくはくしてる間にグレンさんはさっさと赤ちゃんの体重を測ったりし始めて。
「もうっ、下げて上げるとか反則ですってば……!!」
恨み言を吐きながら、私も急いでグレンさんの隣に並んで一緒に記録をつけた。
今日も今日とて超絶美形の旦那様に翻弄されっぱなしだけど幸せだ。




