基本的に脳筋な種族なんだよね/なんで俺の番が戦ってるんだよ。
主人公の私TUEEEE!回になります。
暴力表現がありますので苦手な方は自衛ください。
前に一度アナトリアさんに対してやきもちを妬いたときに、自然と戦い方が分かった。
身体の筋肉の一つ一つがイメージ通りに完璧に動かせる気がして、相手をどう攻撃すれば倒せるのかもわかった。やっぱ自分はサイコパスだったのだと認識したけど、グレンさんのためならそれもアリかな、って思えてしまった。
「優勝者、ミア・ケツァールゥウウウーーーー!!」
わっと湧く会場にはっと我に返った瞬間、強烈な羞恥心に身悶える。
途中から本能に酔ってだいぶはっちゃけてしまった。
「やだ、どうしよう。死にたい……っ」
せっかくの王都での新婚生活。私はほぼ引きこもり生活をしていた。
グレンさんの休みの日には一緒に買い物に行ったりしてるけど、一人では出かけた事がなかった。
理由は寝不足というか……新婚というところで察してほしい。それにしてもグレンさんっていつ寝てるのかな。
でも今日は特別に体に鞭を打っておでかけ。
何故ならこのまえアナトリアさんからお手紙が来て、働くグレンさんを見せてくれるって言うから。そんなのみたいに決まってる。働く男のセクシーさ!旦那様の軍服姿!万歳!
「やっほ~、小鳥ちゃん。元気ぃ~?」
玄関を開けたら美女が掌をひらひらさせていた。眼福です。
「やだ、あんたグレンの匂いべったりじゃない。アイツの執着心が透けて見える……」
「わ、そうなんですか? 嬉しい…えへへ」
「……ゴチソウサマ。さっそくだけど、行く?」
「はいっ! 私、待ちきれません!」
私は迎えに来てくれたアナトリアさんの腰らへんをガッと掴んで羽ばたく。
だって飛んでいくのが一番早いからね。
「え? え? 私、筋肉あるから結構重くない?」
「羽のように軽いですよ」
「それはかえって胡散臭いわよ?」
「やだなぁ、本心ですよ」
なんせ空飛ぶゴリラだからね。見た目はキラキラして華奢だけど。遠慮なくスピードを出して飛んだのでアナトリアさんとお空の旅を楽しむ間もなく目的地が見えてきた。
「……あれ、なんですか?」
グレンさんの働く軍施設の前に色とりどりの令嬢が群がっていた。
もはや嫌な予感しかない。
「グレン目当てのお客さんよ」
「――」
「イタっ!痛いっ!!小鳥ちゃん手が!!手がっ!!!!」
「すみません。胸の底から沸き起こる殺意を抑えきれませんでした」
「こわいっ、有翼種こわいっ」
「……なんか、盛り上がっていませんか?」
「そうなのよ。各国の権力者の娘さんがグレンの伴侶は自分だって言い始め、イタっ、痛いわっ!!!!」
「あ、すみません。それで?」
「貴族同士の決闘を始めてね。もうこうなったら勝ち抜きのトーナメント制にしようってことになってて」
「――へえ」
「その笑顔やめて!怖い怖い怖い!小鳥ちゃん落ち着いて!?」
「それで?グレンさんは何て言ってるんですか?」
「『アホじゃねえのか』って言って完全無視を決め込んでるのよ。アイツは飛べるから関係ないけど、守衛担当と毎日門から出入りする奴等から泣きが入ってて」
「分かりました。出ます」
「――は?」
「私もそのトーナメント出ます。勝ってくれ、ってことですよね?」
「早い話そういうことよ。で、代理人をね」
「私が出ます」
「へ?いや、強いやつに」
「大丈夫です。私、こう見えてちょっと強いんですよ」
「ちょ、小鳥ちゃん。貴女完全に自分を見失ってない?」
心配そうな顔を向けるアナトリアさんに不敵に笑んでみせた。
*
「――これは一体どういう事だ」
「あ、グレン。私はちゃんと止めたのよ?でもあの子ったら『夫を守るのは妻の特権です』って言い張って聞かないんだもの」
俺の伴侶を決めるという訳の分からない大会が開かれようとしていたのは知っていた。だが、俺の可愛い番がそれに出場しているとはどういう事だ。同族の部下たちが『団長の番さんが戦ってますよ!』って乗り込んで来なければこんな事になっていることにすら俺は気づかなかったはずだ。
「小鳥ちゃんってすごく強いのね。驚いたわ。私でも目で追えない時があるんだもの」
「――」
すり鉢状になっている訓練場を観覧席から見下ろす。
消失したとしか思えぬ疾さで相手の死角に回り込み、ちいさな身体がひるがえるところだった。
刹那、剣を構えた大男の体がくの字に曲がり吹っ飛ばされた。
「よかった。殺さない程度には力を抜いてるんだな」
「……一応あれでも隣国の騎士団長なんだけど。力を抜いてアレなのね」
「可憐な蹴りだったな」
ちゃんとパンツが見えないようにスカートの裾を押さえた可愛らしい蹴りだった。
「可憐な蹴り、ね。小鳥ちゃん、あんたの部下たちより強いんじゃない?」
「だろうな。一般的に有翼種は翼の大きさと個体の強さが比例するからな」
「……そうなのね。はぁ。ほんと、戦い始めるまではめちゃくちゃ心配してたのよ。みんな自分の手配できる最強の代理人を立ててるんだから。私の心配を返してほしいわね」
集まったギャラリーから上がる熱狂的な声。
『ミーア! ミーア! ミーア!!』
それに応えるかのように圧倒的戦闘力で次々に強者を瞬殺していく番。
亜人は総じて強い人間が好きだ。今この会場にいる亜人たちは頬を染め恋する乙女のような顔で俺の番を応援している。全員殺してもいいだろうか。
「でも大丈夫かしら。次は竜種なのよ」
「は?なんで亜人が闘うんだよ」
番の大切さが分からないわけがないだろうに。
「これよ、これ」アナトリアが親指と人差し指で丸を作る。
クズだな。
「ミアに少しでもなんかありそうだったら俺が出るからな」
「当然よ」
会場の脇から出てきた竜種の男は赤銅色の髪に金眼の軽薄そうな男だった。
試合が開始されても構えるでもなく、余裕たっぷりにミアに話しかける。
「よぉ。お前なかなか強いじゃんか。同じ竜種だったら俺が抱いてぐぇ…!」
殺してやろうかと立った瞬間、またしても男の体が大きくブレて壁に叩きつけられていた。今までよりも段違いの威力に男が貼り付けられた壁にはクレーターができ、男を中心にヒビが四方に伸びている。
あれ、亜人用にかなり頑丈に作ってある壁なんだがな。
「……今、なにが起こったの?」
「ミアが男の懐に入り込んでその場で素早く半回転した」
「ただの回し蹴りってことね。もう決まったのかしら?」
「いや。アイツも最強種の一つな事はあって頑丈だな」
「ッテエな、クソ」
男がプッと唾を吐き出して壁から下りた。
汚ねぇな。誰が掃除すると思ってるんだよ。俺の部下が可哀想だろうが。
「人の話は最後まで聞くもんだぜ?」
「定番すぎる雑魚発言を?」
え?と心底不思議そうに首を傾げるミア。天然の煽りに男は額に青筋を浮かべた。
「いいねぇ、お前みたいな生意気な女を泣かせるのは最高だよ、なァっ!!」
男が後ろ足を爆発させ、岩盤をも砕く竜種のその拳がミアの顔面に吸い込まれたように見えた。直撃すればミアの頭を果物のように爆ぜさせたであろう拳――しかし、それは届くことは無かった。
「……なッ!」
絶対の自信を持って拳を放った男は有り得ない現実を前に驚愕に目を見開く。刹那、身を捻ったミアの白く細い肘が男の頬を抉った。
「遅っ。もしかしてまだ舐めプしてるんですか?」
そのまま高速回転し流れるように無数の打撃を男の顔面へと叩き込む。白い肘が、小さな拳が、その華奢さからは想像のできない威力で放たれ、鍛えようがない顔面を的確に粉砕してく。
「ああそれとも、……もしかして本気でした?」
「――ぁ、か、は」
「だとしたら、ためらわずに女の子の顔面を狙うとか、最低」
ミアが最後に思いっきり手を引く。
「まっへ…」
「待つわけないでしょう」
冷たく言い放つとミアが踏み込む。ミアの腕がゴウォッ!とうなりをあげて大気を切り裂き、完璧な角度でその小さな掌が放たれた。
音速を超えた平手。常人ならば首と胴体がちぎられかねない勢いの殺人拳を喰らって、血をまき散らしながら地面をゴムボールのように転々と跳ねて転がっていった男はその先でもうぴくりとも動かなかった。
「顔は女の子の命なんだからね!」
ぷりぷりという効果音でも聞こえてきそうな文句を言っているが、訓練場の地面には踏み込んだ際のミアの足型がくっきりと出来上がっていた。
「つ、つよ。……えげつない殺人ビンタだったわね」
「ああ。スナップを効かせたとてもいいビンタだったな」
ビンタを選ぶあたりが可愛い。俺だったらアイツの頭を掴んで地面に叩きつけた後、靴底で顔面を粉砕してたからな。
ふと隣から視線を感じて目を遣ると、アナトリアが掌にあごを乗せて唇を尖らせていた。
「なんだ」
「デレ~っとしちゃって。番ができるとグレンでもこんなに変わるのね~」
「番っていうか、ミアが可愛いからだろうな」
「あーハイハイ。あんた達の関係に口を挟んだ私がバカだったわ。っていうか、あれだけの強さ。もうミアちゃんに軍に来てもらった方がいいんじゃない?」
「その場合は、俺は同族を一人残らず解雇するからな」
アナトリアがあからさまに「うんざり」という顔を俺に向ける。
「あんた達の関係に口を挟んだ私がバカだったわ」
「勝者、ミア・ケッァァアルウゥゥウ!!!」
わぁっ!と湧く歓声。
「いい加減、めんどくさいですね」
瞳孔が完全に開ききったミアがぽつりと呟く。
「残り全員で来てもいいんですよ?」
にっこりと笑うミアに胸がきゅん、と高鳴った。
「やだ。私、生まれて初めて女の子に胸がきゅんとしたわ」
「殺すぞ?」
「うそうそうそ!冗談よっ!だからその殺気をしまって?」
蒼穹の下、白いワンピースを着た女が優雅に舞う。金色の髪を陽光がきらめかせながら、ひらひら、ひらひらと。まるで、誘うように。
「おぶッッ――う、げッッ」
「あ゛――――が……」
ただそこで繰り広げられているのは蹂躙に他ならなかった。
「あれ、ミアのお気に入りのワンピースじゃねぇか。髪も上半分をくくった所が編み込みにしてあるし。おい、お前なんて言って連れ出したんだよ?」
あんなおめかししてどこに行って誰と会うつもりだったんだ。
「私は、ただグレンの働いてるところを見たくない?って聞いただけよ? あ、これ、差入れしようとしてたわよ」
俺に会いに? 急降下しかけた機嫌が一気に上昇する。
差し出された篭の中を見ると、お弁当だった。
2人分作ってあって、つい笑みが漏れる。
「あの島で会ったとき、小鳥ちゃんが完全にキレなくてよかったわ。私死んじゃってたわね。――もしかしたらあんたより強いんじゃない?」
「どうだろうな」
戦闘センスでいったら負けてるかもしれねえな。本気でやったら勝つ自信はあるけど。
「一生戦わないからどうでもいいな」
「……なによその満足そうな顔っ。はぁーあ。私にも素敵な番ができますようにっ!」
ミアは最後の1人の襟首を掴んで今回の騒ぎを起こした女たちの座ってる席の近くに叩きつけた。
「――満足しましたか?」
ミアが俺に付きまとっていた女たちの元へふわりと舞い降りた。
「人の伴侶を勝手に勝負で決めるなんて頭湧いてるんですか?」
冷たく目を細めて見据えるミアに、女たちは顔面蒼白だ。
「国際法上、この国で起こった事件はこの国の法律が適用されます。――知ってましたか?この国の正当防衛はちょっと特殊なんですよ」
にこっと微笑むミア。
「『急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。』――加えて、『番に対する権利の防衛のための行為は、これを罰しない』」
「――」
「番に対する侵害に対しては、『急迫不正』でなくてもいいし、『加害の意志』を持っていてもいい。『やむを得ない行為』でなくてもいいし、それが『過剰防衛』でもいい。狂ってるでしょう?それだけ、私たち亜人にとって番っていうのは大きいの。――だからね、また私のグレンさんに近づいたら――、」
ミアは凍てつく蒼い瞳の中に冷たい炎を滾らせ、無表情で告げる。
「――今度は私、許さないから」
水を打ったような静けさに、ミアは吐息と共に目を伏せ、興味を無くしたように女たちから視線を外すと、トン、と軽く地を蹴って訓練場に降り立った。
「優勝者、ミア・ケツァールゥウウウーーーー!!」
わっと湧く会場。
「やだッ!小鳥ちゃん女にしておくの勿体ない!!って、今のはうそ。うそよ。全部冗談っ!!」
*
「どうしよう死にたい」
「なんでだよ」
びっくぅ!とマンガかと思うくらい肩が跳ねた。振り返ると黒地に金の縁取りがされた軍服を着たグレンさんが舞い降りるところだった。
「うわぁあっ!! え、な!? ぐれ、さ……っ!?」
「たく、どこまで俺を夢中にさせれば気が済むんだ、お前は」
グレンさんは人外レベルの美貌をどろっどろに甘く蕩けさせながら、ゆっくりと近づいて来て逞しい腕で私を抱き寄せると、ちゅ、と触れるだけの甘い口付けを落とした。え、死ぬ。普通に死ぬ。
「びっくりしたけど、嬉しかった。――ありがとう」
耳元でうっとりするような声が吐息ごと頭蓋に打ち込まれた。うう、私の旦那さんカッコ良すぎませんかね。
「も、もしかして見て?」
「当たり前だろ」
ふ、と笑うグレンさんはなんだかとってもご機嫌で、エメラルドの瞳を縁取る金色のまつ毛がキラキラと輝いて星が散る幻影がみえるぐらい眩しい。
「私の狂戦士っぷりに引きませんでした?」
「むしろお前の強戦士っぷりに惚れ直した。お前は間違いなく俺には勿体ない女だよ。――だからと言って絶対に手放してやらねぇけどな」
グレンさんが優美にその場に片膝をつき、自分の胸に片手を当てて首を垂れる。あまりにも絵になりすぎてうっとりと自分の旦那さんに見惚れる。
「――優勝者である私の妻、ミア・ケツァールにこの身、この心臓を永遠に捧げます」
「きぃやぁあああーーー!!!!」
黄色い声が会場の女性陣から上がり、拍手が会場中から送られ、同族の男性からは、
「断ってくれぇーーー!!!」
という悲痛な声が上がった。
「え?え?」
普通に今キュン死にしそうなんですけど。なにこれ、ナニコレ。
これ、なんて返したらいいんだろう。
「ミア、『はい』と」
「は、はいっ!」
わあ、とまた一段と会場が湧く。
待って。私、完全に見世物になってる?グレンさんは悪戯が成功したような顔で口角を上げていた。
「わざと…?」
「全部本音で本心だ。でも、これを機にお前が誰のものか周囲に見せつけてやろうとは思った」
「~~っもう」
「可愛くて魅力的な番をもつと色々と心配なんだ。許してくれ」
そう言って悪びれもせず小首を傾げるグレンさんがあまりにも素敵で。
「……しょうがないですね」
私も会場にいた女性達にグレンさんが誰のものか分かるようにグレンさんの頬にちゅ、とキスをした。
そろそろお月さまの方にも投稿しようかと(ぽそっ)。




