種族的にはイケてるらしい。
「ミアは綺麗だから心配だなぁ」と涙目のお父さん。
「きっとバッタバッタと薙ぎ倒すようにモテるわよ!!素敵な男性を見つけてきてね!」とお母さん。
「僕だったら迷わずお姉ちゃんを選ぶよ!」と弟。
これがただの親ばか・姉ばか発言だったらいいのだけど、私はとんでもなく魅力的な女(笑)らしいので、自分の口からは乾いた笑いしか出ない。
「はは。じゃあ、行ってくるね!」
私は笑顔で親元を飛びたった。文字通り羽を広げてバサバサッと親元を飛びたった。
この世界は獣人やエルフやドワーフといったいろんな種族が仲良く暮らすファンタジーな世界で、私は有翼種という普通の人間の背中に翼が生えたような種族に転生した。
――めちゃくちゃびっくりした。老いも若きも関係なく背中から羽が生えてるからね。
想像してほしい。羽の生えた赤ちゃんや子供。可愛い。すごく可愛い。
じゃあ羽の生えたおっさん――ここはあえてコメントしないでおこう。
おじいちゃんとかおばあちゃんに至ってはやめろおおおー!と叫びだしたくなる。よぼよぼのおじいちゃんやおばあちゃんに羽根が生えてると今すぐ儚くなってしまいそうで本当に心臓に悪い光景なのだ。
そんな私たち有翼種は種族的に金や銀の髪に碧眼でキラキラした見た目をしている。しかし、その儚げな見た目と違って、力はゴリラの如く強く、飛ぶ速さはレーシングカー並みで、キレるとヤバい種族としても有名だ。普段は温厚なのだけど、キレると狂戦士になる、そんなサイコパスな種族らしい。
ちなみに私はサイコパスではない、筈だ。たぶん。いくらプチプチを潰すように指でリンゴを潰せるようなゴリラとはいえ、ちゃんとした倫理観をもっているつもりだし、前世を思い出した5歳ぐらいから本能は上手く機能していないし。だから、キレて他人を襲ったりしないと思う。てかそうでありたい。
話がそれたけど、私たち有翼種はサイコパスな種族だからか割と希少種だ。
同族同士が集まると異性をめぐって殺しあってしまう事があるらしくて(さすがサイコパス)、有翼種は普段は全国に散らばってお互いソーシャルディスタンスを保ちながら生活している。だから、私も自分の親戚以外に同族を見たことがない。
そんな非常にめんどくさい種族だけど、有事には戦闘機のように三次元的な動きができるし、空を飛べるぶん道とか関係なく物を運べるし、そもそも最強種の一つと謳われるくらいには強いし、……と、この国ではものすごく重宝されているため、国家的な保護政策が行われている。保護政策というと仰々しいけど、実際は1年に1度、国が盛大なお見合いパーティーを主催してくれるのだ。
ちなみにだけど、その辺のネコ科やイヌ科等の他種族のイケメンと結婚するという選択肢は絶無だ。
眼福だなー。カッコいいなーとは客観的に思うけど、恐ろしいほど心に波風が立たないのだ。何故かどんなイケメンを見ても全て賢者モードで受け止めきれる。この世界で他種族にときめくのは前世でいうと飼っているペットの犬とか金魚に対して欲情するのと同じ感じで、いないとは言い切れない(性癖って怖いな)けど、いないと心から信じ願うくらいには禁忌なのだ。
なので、クマと犬のハーフ獣人とキツネと狸のハーフ獣人が子供をなしたら一体それはなんなんだ、という疑問はこの世界では生まれない……筈だ。たぶん。というか生まれないでくれ。
話がそれたけど、私は有翼種的には超絶美少女らしいのだ。
と、いうのも。有翼種にとっての『美』の第一基準は翼。
そう、顔ではない。
――顔はあまり関係ないのだ!!!!!!
翼は大きければ大きい程よく、色は白に近ければ近い程『美しい』とされる。大きな要素はこれだけ。後は好みで羽根の艶感とかフワフワ感だとか匂いだとか。何を言ってるか分からないと思うけど、うん大丈夫。わたしもちょっと何を言ってるか分かっていない。
ちなみに私のお父さんは翼が大きくて淡いベージュ色。お母さんは翼の大きさは普通で色は雪のように真っ白。
――もう、お分かりだろう。そう、私は翼に関する遺伝子の組み合わせにおいて大当たりを引いてしまったのだ!ヒャッホーウ!
その他は有翼種の中ではごく平凡だと思う。我儘を言えるなら誰もが振り返るような美少女に生まれたかったよ神様!
しかし、前世の記憶がある私にはこの有翼種独特の美的感覚には全然ついていけない…。だって翼の色とかどうでもいいし、大きさも全然気にならないし、むしろ翼よりもかお…ゲフンゲフン、性格だとか相性とかの方が気になるというか。ちゃんと働いててほしいし、暴力とか賭け事とかしない人がいいし、できたら笑顔が素敵なイケメ……ゴホンッ、優しいイケメ……んん゛っ、鍛えられた体をもつイケメ……、くっ、もう正直に言おう!私は美形が好きだ!もちろん、性格も重要だけど、美形が好きだ!!
せっかく魅力的な女(笑)に生まれたんだから、できたら自分好みの美形と恋愛がしてみたいんですよ!!!
そんな欲望と煩悩を胸にやってきましたよ、お見合いパーティー。今年の会場は世界有数の新婚旅行の聖地で青い海と白い街並みが魅力の南の島。私の住んでいた島は最北端の島だったから実に遠かった。
それはさておき、昨日の夜とかワクワクして眠れなかったよね。運命の人がいたらどうしようとか、イケメンに強引に迫られたらどうしようとか、「やめて私の為に争わないで」みたいな状況が生まれたらどうしようとかね。乙女心が暴走して、妄想が炸裂しちゃったよね。朝になって落ち着いたテンションに戻ったらそんな訳ないと気が付いたけど。
ちなみに今日の私は白の清楚なワンピース。狙いすぎ? 構うもんか!だって人生初のお見合いだもの!
どきどきわくわくしながらそっと会場のドアを開ける。
真っ白な明るい広間に沢山の同世代の人たちがいて、会場はざわざわととても賑わっていた。
「すごい。こんなにたくさんの同族を見たの初めて……!」
あちこちで談笑したり、食事をとったりと皆が思い思いに過ごしているそこは、明るい顔で溢れていてまるでお祭りみたいだった。緊張しながらも足を踏み入れていくと、ざわざわしていた会場がだんだんと静かになっていく。
誰もが私の方を見つめてぽかんとした表情を浮かべ、次第に頬を赤く染め、うっとりとした顔を向けてくる。
……あーやっぱりこうなりますか。
会場中の視線を掻っ攫ったとしても、ドヤァ…!とはならない。いや、なれない。
なぜなら微妙に誰とも目が合わないから。
そう、みんなが見惚れているのは私の羽であり、決して私では無いから。魅力的なのは私ではなく、羽の方だから!泣ける!
知ってたけどね!!
さすが魅力的な女(笑)。一瞬だけ自分がモテ顔であると錯覚しそうになって心を折られるこの苦しみ。全く目が合わないこの寂しさ。あ、いけない、涙が…。だめ、心を強く持つのよ、ミア!!
バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!バサァ!
「は…? え? なに? なにごと?」
――まぁ何という事でしょう。急に会場中の男性陣が羽根を広げたではありませんか。
そして、そこから突如として始まった一糸乱れぬ動きのステップ。もう目がテンである。
急になに?? なんなの!? フラッシュモブ!!??
名も知らぬ男性陣から贈られる熱きダンスにドン引きの極致だ。そのとき、ふと親戚のおばさんの「この人の熱いダンスにキュンときてね」という発言が頭をよぎった。
「……コレが実際の求愛行動……」
なんだろう。この感じ。
この何とも言えない置いてけぼり感。これは、そう――
「なんとも思っていない人から贈られる手作りのラブソングのようだ」
いや贈られた経験ないけどね。
しかし、どうしよう。ごめん。私は本能が死んでる系なんだ…。
だから私にそんなに必死に求愛ダンスしても、全く胸に響かないどころかドン引きなんだ。
『アクロバティックで協調性の取れた動きが出来る雄じゃなきゃだめよ?優秀な遺伝子を持っているっていうサインなんだからね?』
ああ、お母さん。折角助言してくれたのに、全く胸に響かない愚かな娘を許してください。
『つがい相手の強さ、健康、活力とかを知るために、羽毛やダンスの動きを注意深く観察して、真剣に相手を選択するのよ?』
ああ、お母さん。どうか「全員一緒に見えるがな」と思ってしまった罪深い娘をお許しください。
そして、求愛してくれる皆さん……、聞こえますか……?必死に踊ってるところ申し訳ないんだけど、顔をよく見たいので一度止まっていただけますか……?