表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ホラー系

悪霊の仕業

作者: U・B

ガタン。線路の継ぎ目で電車が揺れる。

いつもなら気にならない。

だけど今は違う。

この振動の一回一回が油断ならない。

なぜなら…


「今めっちゃお腹が痛い!!」

電車に乗って、ほどなくして腹痛に襲われている。

腹痛との闘いは一進一退の攻防、「絶対に負けられない戦い」だ。


電車に乗るまでは体調に異常はなかった。

思いあたる原因は…ある。

昨夜、消費期限切れの物を食べた事はおそらく関係ない。

原因、それは…動画サイトで「心霊動画」を観たことだ。

深夜まで夢中になったせいで睡眠時間は数時間しか取れなかった。


心霊動画に夢中になったのは「悪霊の仕業」。

睡眠時間が数時間しか取れなかったのは「悪霊の仕業」。

じわじわ痛め付けてくるこの腹痛は「悪霊の仕業」。間違いない。


(うっ…また痛みが強まってきた)

全身は脂汗まみれでビショビショ。

それが冷房によって冷やされ、さらなるダメージを与えてくる。

「腹痛に耐える、脂汗が出る、冷却される、また腹痛に耐える」という「腹痛のスパイラル」に陥っている。


ドアから入って中程、車両の中央部付近にいるため冷房の風がめっちゃ当たる。

移動したいのはやまやまだが、ぎっちり詰め込まれた人垣に立ち向かえるほどお腹の余裕はない。


(いかん、いかん)

弛みそうになったお尻を適度な力加減で締め直す。

弱すぎてもダメだし、強すぎてもダメ。繊細な力加減。

頭に森林公園の風景を浮かべて、ゆっくり呼吸する。

緑色の木々がそよ風に揺れている。優しい、優しい、光景。


ゆったりとした時の流れを感じながら、

ラマーズ法のような呼吸でお腹の痛みに耐える。

ひぃ、ひぃ、ふぅ。

リズミカルに。気を強く持ってひたすらラマーズ。

自然の力のおかげなのか痛みが和らいできている。いいぞ。


次は「△△駅です」

今、世界で一番聞きたい言葉が耳に入ってくる。


(ありがたや、ありがたや~神様、仏様、車掌様)

がんばれ。もうすぐ駅に着く。がんばるんだ、俺。


駅に降り立った自分の姿が頭に浮かぶ。

一歩一歩確実に進み、難なくトイレに入っていく。

トイレから出てきた表情は安堵感に満ち溢れている。


そうこうしているうちに、電車が駅に止まった。

(運転士さん、グッジョブ。これで大惨事は免れました。ありがとう)

ホッと安心してしまった。

気が緩む。その瞬間お尻の力も弛む…



電車のドアが空いた瞬間、

我先にと争うように乗客が駅のホームに避難する。


あまりに切羽詰まった様子を見て、ドアの左右に別れて待っていた人達が、何事かとキョロキョロする。


やがて彼らの視線は、車内で一人佇んでいる男に注がれる。

男の足元には、茶色い水溜まりが浮かんでいる。

その存在に気づいた瞬間、みな一斉に息を止めた。


なにもかも「悪霊の仕業」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これはリアルな怖さですね。 急行や快速急行など停車駅の少ない電車の中で、自分がこうなったら… そう思うとゾッとします。 体調管理の大切さを再確認出来る、メッセージ性の強い作品ですね。 [一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ