友達になりませんか?
○○○を○○ない話
スッと鼻腔を通る潮風。目の前にはそれはそれは美しい白色をした浜に、キラキラと光を散らかす海が広がっている。
浜には一人の青年。彼にとある少年が話しかけた。
「あのぅ……お話良いですか?」
青年は浜を見回すことを止めず声だけで返事をした。
「何じゃ?」
少年はおずおずと言う。
「よければ僕と友達になりませんか?」
青年は相変わらず顔を合わせる気は無いようだ。
「何故じゃ?」
少年は苦笑いをする。
「何故と言われても、友達になりたいことに理由なんて要ります? そもそもあなたに興味があるから友達になろうと……」
「違うじゃろ。きさまのしとることは友達を作ることと違う。友達ってのは他愛ない話の中で関りが多くなればそれが友達じゃ」
青年はここで顔を少年に向けた。
「何が狙いじゃ? それとも何じゃ、きさまはワシを殺しに来た刺客か何かか?」
冗談めかしたように言う青年に少年は両手を小さく振った。
「そうじゃありません。でも、あなたに会いに来たのはそのような人と同じ理由でしょうね」
青年は驚愕した。
「ワシが人殺しだと聞いて友達になりに来たのか!? ハハァッ、ゲテモノ好きもいるもんじゃな」
「ゲテモノ好きなんてそんな生易しいものじゃないですよ」
少年は青年の理解を訂正した。
青年は大仰に笑い少年を近くの流木に座らせその隣に自分も座った。
「この島の連中はワシの事を恐れてしまってな。間違ったことはしてないのに誰も寄り付かんくなって最近会話に飢えていたんじゃ。話を聞いてくれるだけでもワシは歓迎するぞ」
流木をビキビキと揺らしながら青年は清々しい笑顔で語り出した。少年はそれに耳を傾ける。
「ワシが殺しをした事を知って友達になろうとしてきた。ならその話を聞きたいってことじゃろ」
「はい。どうして殺したんですか?」
少年は改めて話を切り出す。
青年は嬉しそうに語り始めた。
「簡単に言うとワシが殺したのはこの海を汚す人間じゃ。ごみを何のためらいも無く捨てるようなゴミ人間を掃除するんじゃ。ワシはこの浜の掃除屋じゃ」
青年は胸を張り宣言した。
「……ほう、そんなんですか」
少年は興味深そうに、同時に不思議がるように相槌を打つ。
「……。何でそんなことで? と思ったじゃろ。」
「え、いや」
少年は弁解しようとするが、青年が「皆まで言うな」と少年の言葉を止めた。
「島の連中にも言われたさ。ワシには〝そんなこと〟なんて言うのが理解できないんじゃがそんなことはもうどうでもいい。ワシの事を他の奴らが理解できないと分かったからな。人を殺すのはダメ、ゴミを拾えばいいと耳にタコができるまで言われたわ」
ここまで聞くと少年は「そうじゃありません」と否定し皆まで言った。
「僕が思ったのは〝どうしてそこまでするのか〟ということです」
青年は一瞬フリーズした。
「……そうじゃったか。そうじゃったか! すまんのうはやとちりじゃった」
青年は少年に顔をずいっと近づける。
「愛じゃ」
「あい?」
少年は首を傾げた。それを見て青年はけらけらと笑う。
「ガキにゃまだ早かったかのう? ワシは浜のこの光景に惚れたんよ。それも心一杯にじゃ」
青年は腕をいっぱいに広げ言う。
「愛ってのは、誰かから貰うもんじゃないし与える物でもないんじゃ。最初からあるんか後からできるんかは知らんがとにかく! 愛ってのは自分の中に愛を感じる対象があってそれに気づくこと。それがワシにとってはこの浜だったってわけじゃ」
「だから殺したと?」
少年はストレートに聞いた。
「そうじゃ。ゴミ人間はどこに行ってもごみを捨てるんじゃ。てことはワシは汚されるはずだった場所を汚されなくしたとも言えるな、うむ。やっぱりわしは良いことをした」
青年はまた誇らしげに胸を張った。
そんな話の中、浜には人が来ていた。この美しい浜のことだ観光地であるようだ。
「来やがったか」
青年の眼光が変わった。
観光客は波で遊び、写真を撮っていた。その中、食べていたおやつのゴミを捨てた人が居た。
「……わっ」
少年はあまりの形相に驚いた声を上げた。雰囲気が変わった青年が言う。
「ワシは用事がある」
一言だけ言うとゴミを捨てた観光客の元へ行きその人物に話しかける。
その時に足をもつれさせ一緒に転んでしまった。
見ているとそれだけでは無いようで、周りの人が騒ぎだしていた。
青年は起き上がるが観光客は起き上がらない。その傍には青年と倒れた観光客の連れだろう人物がいる。
青年は周りの人々に向かい何かを叫び、どこかに電話をかけていた。
それからすぐにけたたましいサイレンの音とともに救急車がやって来た。
救急車に気を失った観光客を乗せると青年は少年の元へと帰って来た。
「お疲れさまでした」
少年は言った。
「ゴミ処理完了じゃ。どうだ? 名演技じゃろワシ」
「どうやって殺しを隠しているのかと思ったら……」
青年はニッと良い笑顔を見せる。
「その割には驚いていないようじゃな。想像通りじゃったか?」
「まあ、そうですね。でも手段はこれだけじゃないんでしょう?」
青年は少し考えるような素振りをして止めた。数えようとして止めたようだ。
「そうじゃ、あと百幾つはある。馬鹿の一つ覚えじゃ限界があるからな。そうだ今回使った技、試しに軽く受けてみるか? 本気でやれば内臓を割れるがな。でも本気でやらないから安心じゃ」
「いや、それは結構です。にしても協力者がいたんですね。でもそれじゃあ会話には飢えないんじゃないですか?」
青年は難しい顔をする。
「会えないんじゃ。協力者は病院機関の連中。人殺しというレッテルを貼られたワシとつるんでることを知られりゃ経営も立ち行かなくなるじゃろう」
「……そうですね」
少年は頷き青年を向くが、何かがピンと来たようで青年は何かをぶつぶつと言い始めていた。
「ワシがゴミを捨てるようなゴミ人間が嫌いなのは自分がやったことを理解できていないからじゃ」
その青年の様子を少年は不穏に見ている。
「捨てたゴミがし巡り巡って世界中に居る魚の最後の一匹を殺したらその人は魚が食えなかったことに文句を言うじゃろう。どんな些細なことでも全ての事象に通じるってことを理解してない馬鹿野郎がワシは嫌いじゃ。が、理解していなくても自分が取るに足らない自然の一部として謙虚に居るならワシはそいつは嫌わん」
青年は考えることに夢中になっている。
「ワシが嫌いなのは全てが自分の都合のいいように世界が動くと思ってる調子のいい人間じゃ。そう奴らに限って謙虚さは無い。だからワシは殺してきた。そんな人間はろくに生産性も無ければ誰かの足を引っ張るようなことしかしない……?」
青年は頭を抱える。
「何じゃ、何じゃ何なんじゃ! ……愛、愛? 愛の対象……ワシは愛の対象を殺した?」
青年は記憶を探り思いだす。
「そうじゃ、さっきの奴には連れが……居た!」
「……はぁ」
少年は盛大に溜息をつき、彼の存在を思い出した青年は彼に飛びつく。
「ワシは……」
「失格ですね」
ドンッ、と鈍い音がした。
青年は力なく膝をつけると苦しそうに浅い呼吸を繰り返していた。
少年はまた一つ溜めた息を吐いた。
「人を集めるのも一筋縄ではいきませんね」
少年は青年の目を覗き込んで言う。
「恥ずかしながら僕の目標は今の世界を殺すこと。あなたには友達……仲間になる資格はないので、死んで」
少年が言うと青年は事切れた。
静かになったところで携帯が鳴った。
「医者の方は合格? そう、友達になってくれたんだ。こっちは失格だったよ。じゃあ後はお願いするよ」
電話を切り少年は、ただ静かにその場から去っていった。
可能性を信じない話
終わり方が雑で申し訳ないです。