表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/24

6-1

 その後の話をしよう。真昼の太陽の下、瞳とシフォンを乗せたサラは、保護区の山に降りた。ガトー、ショコラ、ロール、ビター、タルト、リームたちは大いに驚く。朝、ふいに姿を消したシフォンが、空飛ぶサラに乗って瞳を連れて帰ってきたのだ。

 とにかく無事でよかったとガトーたちは喜び、これにて物語はめでたしめでたし。……とは、ならなかった。なんせシフォンは本当に国中の街や村をめぐって、手を振ったのだ。その日から保護区には、わっと人が押し寄せる。

「リオノスが空を飛んでいた」

「リオノスの背に、建国伝説の勇者が乗っていた」

 人々は興奮して口ぐちに言う。手紙もわんさか来た。

「リオノスが、辺境のわが村に来た」

「五十年ぶりにリオノスを見て、じいさんの病気がよくなった」

 シフォンの家には、彼の兄や親せき、友人や知り合いたちがやって来る。

「リオノスの背にいた男が、シフォンにそっくりだった」

「子どものころから知っているが、あいつは異世界から来たのか?」

 シフォンは一人ひとりに向かって、説明をしなくてはいけなかった。お願いしても、サラは二度と飛んでくれないこと。巨大な翼もいつの間にか、小さくなっていたこと。病気が治ったのは、偶然と考えられること。

「僕は勇者でも異世界人でもなく、だいだいこの村に住んでいる幻獣の研究者です」

 シフォンは困り果てて、しゃべる。だが彼は国で一番の有名人になり、近くの村や町を歩けば、

「学者は世をしのぶ姿で、実は勇者なのよ」

「異世界から転生してきたにちがいない」

「これからすごいことを、――きっと国を興したりするんだ」

 と、ささやかれたり、

「空飛ぶリオノスの上で、女の子とちゅーしていた人だ!」

 と、子どもに無邪気に指をさされたり。

「手を振るのではなかった。あのときの僕は興奮して、われを忘れていた」

 シフォンは心底、後悔しているけれど、どうすることもできない。

 ちなみに瞳は彼ほど目立たなかったので、顔は覚えられていなかった。誰かに聞かれて、故郷の日本の話をしても、その誰かは勝手に、異世界から来たのはシフォンだ、彼から聞いた話を瞳はしていると理解した。

 それから保護区には、ここで働きたいという若者が多くやってくる。リオノスのために使ってくれと、寄付金も集まった。羽ばたく姿に感動して、国中の芸術家たちがリオノスをたたえる。リオニア国は、空前の幻獣ブームとなった。

 数か月後、レートから手紙と贈りものが届く。王子は切々と瞳に謝罪し、シフォンに怒りを解くように訴えていた。素朴な花をかたどったイヤリングは、おわびの品らしい。

 シフォンは手紙を読んで、首をかしげる。レートをなぐってどんな処罰が下されるのか、びくびくしていたからだ。しかしガトーはのん気に笑う。

「王子は君に、国を乗っ取られるかもしれないとおびえているのだろう」

 ところで瞳は保護区に戻って一か月もしないうちに、サラの巣穴から追い出された。リオノスの子どもではなくなったので、サラと一緒に眠れなくなったんだ。

 瞳はさびしいけれど、巣立ちを受け入れた。そしてシフォンとともに、集落の小屋に引っ越す。ふたりは結婚して、いつまでも仲むつまじくリオノスと暮らした。


 ときは流れ、リオニア国には、蒸気機関車が汽笛を鳴らして走る。首都クースの港からは蒸気船が、はるかに遠い国々に向かって出航する。立ち並ぶ工場の煙突から煙が吐き出されて、空がくすみ太陽の光がにぶくなる。

 それでもなお、人々の心に残る風景があった。大きな白い翼をはためかせて、金色の獣が風を切る。いつかこの空を飛行機が飛んでも、忘れない。翼を見たならば、永遠に語りつげ。これは、心優しきリオノスとモフオンと少女の物語。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ