18話
◇場面切り替え
ルフスミリアはショックを受けていた
「(私はもしかしたら...アルヴァス・グラディウスに殺されるのかもしれない、私は今まで優しく暖かい人間になる事を志し、日々努力して来たが一瞬だった。一瞬で崩れ落ちるかのような...彼に対してとった行動に、これほど後悔する事になるとは思わなかった)」
今まで知らなかった自分を、垣間見たようだった。もしかしたら、夢で言われた冷たい人間の部分はこれのことかもしれないと落ち込むルフス
「姉さん...(俺は姉さんの弟だ!姉さんを元気づけたい...!)」
「はぁ...」
「姉さん待っていて!俺が必ず姉さんに笑顔を取り戻す!!ウォォォオオオオオ!!」
走り出したオネストは一瞬で消えた
気力をなくし途方に暮れるルフス、ゆかりを見守りたいのは山々だったが、アルヴァスに鉢合わせるのが嫌で行かなかった。
◇
行く当てもなく彷徨っていると何処からか音楽が聞こえてくる
「ここは...音楽魔術を研究してるのか?」
音楽魔術とは、音楽を組み込んだ魔術で生物や植物に対してなどに効果がある演奏により、強化、治癒、などと言った聞くものに影響を与える魔術。
「この音楽精神安定の魔術か何かか?心が少し安らぐような...」
気になり中を覗くと緑の髪の少年が一人で演奏していた。
「一人なのか...上手いな」
声が聞こえてしまったのかピタッと演奏が止まりこちらを向く
「誰...」
「あ、邪魔してしまって申し訳ない...もしよかったら音楽を聞かせてもらえないでしょうか?邪魔しないように隅でいいので」
ぼーっとしながらこっちをみる
「こっちに来て」
「?」
窓側にある椅子を指さされそこに座ると演奏が始まる
なんだかリラックス出来た。
「(あぁ、今までの悩みがスッと軽くなって心にのしかかる重みが消えて行くような...)」
そうして目を閉じてゆったりとした時間を過ごしていたら演奏が終わった。
「終わり」
「ありがとうございました...とても心が落ち着く演奏で...音楽に詳しくないですがお上手ですね」
そうして拍手を送ると隣に座って来た
「どうしてここに来たの?」
「たまたま、悩んでて彷徨っていたらここにたどり着いた」
さっき会ったばっかりの人なのに、素直に話せた。違うかもしれない、さっき会ったばっかりだから、素直に話せたのかもしれない。
「そう...気分はどう?」
「晴れやか、でもまだ少し悩んでる」
「何に?」
「うーん、自分が悪いヤツかも知れない」
悪い事をした思う心がまだ消えなかった
「...人間に良いも悪いもあるの?」
「というと?」
「だって命を奪っちゃダメって言うくせに魚や家畜を殺して食べてる。生きるためだったらなんでもしているよね...それは悪い事なんじゃないのかなって」
「ほう...」
窓の外に飛ぶ蝶を見ながら彼は話す、面白い話だった、確かにと思うことだった。
「だから今更、だよ。人間にそんな良いとか悪いとかは無いと思う...」
「(そうか...そうだな、今更だ、今更の事だ。私は元々良いヤツではなかったのかも知れないだがそれが私だっただけ、これが私か)」
納得した、そして自分が理解出来たような気がした。認めようこの感情を持って私なのだ
「ふふ...その考え方とても面白い」
そうして笑ったルフスミリアを見た少年は、先程この部屋に入ってきた時と雰囲気が違う彼女に驚いた。少しドキドキさせられた。
「あぁ、本当にここに来て良かった。運命だったのかも知れない、君とここで会うことが決まっていたのかも知れない...なんてね」
「僕の名前はレンテ・コンティネス...」
彼は名を名乗り手を差し出して来た
「私の名前はルフスミリア・ソーリス、また演奏聞かせて欲しいな」
「いいよ...」
「さ、私はそろそろ行くので、ここで失礼します」
「うん」
また、演奏し始める彼を見てその場から立ち去るルフスの足音が響く
「(ルフスミリア・ソーリス...さん、最初入って来た時は小さな子供の様に見えたのに、窓の外を見てる間にすごく大人になった...綺麗だった...ドキドキした...ドキドキドキドキして...それで...)」
プツンッ
その気持ちを乗せて夢中で演奏していたら弦が弾けて指が切れ血が出る。
「そう...こんな感じの痛みがあって...でもドキドキして暖かい...」
血が出たので指を咥えて思いふけった
◇
オネストはルフスと別れて向かった先は
「...なんだ?お前...クソガキ?ルフスは?」
ディルはある程度ルフスの周りにいる人間は認知できるようになっていた
「おい!お前!姉さんの好きなものはなんだ!!知っているだろう答えろ!!」
「は?」
唐突に聞かれてイライラするディルは頭を思いっきり掻き回した
「クソガキィ...何ルフスを姉さんとか気軽に呼んでるんだよ...クソが...教えるはずがないだろうが...!」
「なんだと!?今姉さんは落ち込んでいて、食事も喉を通らない状態なんだぞ!!!」
話を盛りすぎるオネスト
「な...!?ルフスが!?そんな...!!あぁ!?ルフスゥ....!!!」
真に受けて取り乱すディル
「とっとと教えろ!!!」
「嫌だね!僕がルフスに届ける、お前はとっとと失せろ、クソガキが」
「あ、待てよ!」
専用の研究室から出て行こうとすると、扉の前でアデルニウムとすれ違うが無視して何処かへ向かうディル
「ディストル・フロイト、何処へ行く言われたものを持ってきた。」
「はぁ?巫山戯るな、今、ルフスミリアが大変なんだよ!!!食事が喉を通らず、歩けなくなって、虐められて助けを求めてるんだ!!今はそれどころじゃない!!」
話を盛り、更に盛るディル
「ッ...?!」
「アデルニウム様?大丈夫ですか!?」
真に受けるアデルニウムが頭を抱える
「(まさかあの頭痛は...ルフスミリアの危険を知らせていたのか?)」
「アデルニウム様!」
「ディストル!!まてよ!!」
ディルを追いかけるオネスト
「こうしてはいられない...」
「何処へ?!」
「ミザリー・サルヴスの所だ」
「副会長の?」
◇
「で、どうしてカフェなんだ?」
「なんでついてきたクソガキ」
カフェにやってきたディルとオネスト
「お前から姉さんの好物聞くためだろうが」
「教えないからどっか行け」
そう言って注文し始めるディル
「おい、ガトーショコラをホールで寄越せ」
「ハヒ...」
すごい剣幕で威圧して注文するディルに驚き
動揺する店員
「聞こえなかったのか愚図、ガトーショコラをホールで寄越せと言ったんだ」
「は、はい!只今!」
「普通に頼めよ...にしても姉さんガトーショコラが好きなのか?」
慌てて準備する店員を他所にディルに質問するオネスト
「は?クソガキがまだいたのか...バレたら仕方ない教えてやる」
「(お、以外)」
◇
ルフスは昔ケーキとかそんなに食べる方じゃ無かったが、お茶会に参加したりする中で色々食べるようになっていった。
そんなある日とあるお茶会で、ガトーショコラを出された。するとチョコの風味がたまらなく美味しいのに、普通のケーキとは違うしっかりした食感が気に入ったらしく、そこからガトーショコラが大のお気に入りなんだ。
他にもチョコレート系は好物だが、ガトーショコラだけは来る日も来る日も...
「ディル、今日はガトーショコラがあるよ」
「そうなんだ」
「一緒に食べよう」
「うん!」
「ディル今日もガトーショコラあるよ!」
「そっか」
「食べよう」
「うん」
「ディル!今日は違う...」
「(ガトーショコラじゃないのか、よかったもう...)」
「お店のガトーショコラがあるよ!食べよう!」
「うん...」
初めて食べてから衝撃を受けたらしく飽きずに出してくれた時期があるほどだ...
ウッ....
◇
「ディストル...お前」
「ルフスは優しいんだ、自分の好物を...分けてあげることができる...んだ...」
「もういい...もういいから喋るな」
オネストは顔色を悪くしながら口を押さえ屈むディルを哀れに思ったのだった
「お待たせいたしました。ガトーショコラです」
「遅いぞ愚図。まっててルフス今、君に幸せを届けるから!!!」
お金をくしゃっとポッケから出して早々にカフェから出て行くディル
「おーい待てってば!!」
オネストは意外と早いディルを追いかける
「怖かった...」
「お前大丈夫だったか?」
「あれディストル・フロイトだろ...怖いな飯が不味かったら問答無用で不味いって言ってきてよくわからない事を言ってくるあの...」
「私も前に『こんなクソ不味い飯をルフスの口に入れさせる気か?しっかり作れ』って言われたことがある」
「でも意外とそれだけじゃなくて『今日のはルフスも喜んでたし、確かに悪くなかった毎日この位にしろ』とか言ってくるんだよな」
「まぁ彼がそうやって言ってくれたらやった!!!ってなっちゃうのよね」
「わかるわ〜」
「案外評価が確かなんだよな〜」
「うんうん」
何故か彼の評価に一喜一憂している店員たちであった。
◇
「ミザリー・サルヴス副会長!」
慌てて生徒会室に入るアデルに驚く金髪の縦ロールの女性
「まぁ、何事です!?アデルニウムがそんなに慌てるなんて」
「紅茶を頂けないか?」
「紅茶?ですの?」
「急ぎなのです」
こんな慌てるアデルニウムを見たことがないため、何故だか慌ててしまうミザリー
「ありますわ!アッサムでもよろしくて?」
「助かります」
「こちら、昨日実家から届いた物ですわ、持ってお行きなさい」
「感謝します」
早急に部屋をでるアデルニウムと入れ違いになる追いかけてきたアラケル
「先輩〜!待ってくださ〜い!」
ドタバタする後輩に驚く副会長と、書類仕事をしていた生徒会長
「なんでしたの...?」
「珍しく慌ててたね」
◇
「いた!!ルフス!!!!」
「姉さ〜〜〜ん!!」
「ん?」
「何事だ...?」
「あら...?」
温室でコーデリアと男色を読んでいたルフスと花の手入れをするアンナ
「よくここがわかったね...にしても慌ててどうしたの二人とも」
「ルフスが...食事も喉を通らず、歩けなくなって、虐められて、寝込んでしまって助けを求めてるって聞いて...」
「え...?食事も喉を通らず、歩けなくなって、虐められてって...誰が?」
「ルフスが」
「???」
困惑しているルフス
「同士ならピンピンしておるわ馬鹿者」
「普通に歩いてましたわよ」
小声で会話し始めるオネストとディル
「は...?おいクソガキ...」
「お前が教えなさそうだったから...つい」
「クソガキィィィイイイ!!」
すごく怒っているディルを見ていると何か箱を持っていた
「ディル、持ってるソレは...?」
「あ、これルフスに持ってきたんだよ」
ガラスのテーブルに箱を置き中を見せる
「ガトーショコラ...え?いいの?」
「うん、元気出して欲しくて」
「フフ...ありがとう」
軽く微笑むルフスを見て一同は思った
『こんな艶っぽく微笑むのか』
とドキッとさせられていると
「ルフス!」
「先輩...やっと追いついた...」
「あれ、アデルニウム?(と誰だろう)」
またお客が増える
「食べれず歩けなくなっていると、聞いて...来たんだが...」
「私は平気なのだけど...」
「アハハ...こんなになるとは」
笑って誤魔化すオネスト
「アデルニウム、その紙袋は?」
「紅茶だ、見舞いにと思って」
「そうか...ありがとう」
紅茶を受け取り微笑むルフスを見てアデルニウムとアラケルもドキッとさせられていた
「ルフス...何かあったのか?」
「(ハッ!コイツは宿敵ルフスミリア!!先輩がずっと気にかけている妹...!負けない!)」
「え?何も無いけど...ケーキと紅茶があるし皆んなでお茶しましょう」
「同士!いいぞいいぞ!」
「まぁ、楽しそうですわ!」
「ルフスが良いなら」
「流石姉さん!!」
全会一致でお茶をする事になった
「アデルニウムとそこの君も、一緒にお茶にしましょう」
「あぁ」
「お邪魔します」
皆んなで楽しくお茶をするのだった
◇
「また会う事になって、しかもお茶する事になろうとはなクラスメイトよ」
「そうですね」
「(えっ?!この小さいのはクラスメイト!?一応タメ口きかない様にしてよかった...)」
「ディストル様、無理に食べないほうがいいですわよ」
「いや、連続して食べられないだけで一個は普通に食べられる」
「まぁ、成長なさいましたわね!昔はルフス様の前では頑張って食べて、影でフラついていましたのに...成長を感じますわ...」
「....クソアマ」
「ルフス様に言いつけますわよ」
「クッ....!!!」
「にしてもどうして私は食事喉が通らず、歩けなくなって、虐められてる事に?」
「姉さん!ガトーショコラのお代わりありますよ!!」
「?ありがと」
ガトーショコラで誤魔化すのだった
「(ここまで大きくなるとは思わなかった、恐るべし姉さんの影響力)」
ルフスが冷たいままだったらアンナはゆかりの親友ポジションだった子です
何もかもがもう後出し状態のゆかり
今回は楽しい回にできてよかったです
あとレンテくんとアラケルくんは双子キャラで活発なアラケルくんと静かで眠そうなレンテくんです