巨大駆動大仏ダイブッダ対強化拡充外骨格その2
防衛ラインの後方、補給基地で僕等は山積みにされたマシンガンかアサルトライフル、マガジンを支給される。
銃を持つと戦争するって感じがするなあ。現代戦は初めてだ。わくわくする。
支部長に率いられて配置の場所まで歩く。僕等の割り当ての場所は第一防衛ライン。最前線だやったね。
「よし、では各々スマホから同盟のサイトにアクセスし、作戦を確認してくれ」
「了解」
僕等はそれぞれにスマホをつける。場所は森が鬱蒼と茂る小山の中だ。
「司令部より作戦を説明します。敵の部隊は西側を進軍中。我々はこれを第一防衛ラインで迎撃します。
注意すべき点はぎりぎりまで敵をひきつけること。そのために強化拡充外骨格「レイブン」3機と共に15名の先行部隊が接敵。
これをフェイズ1とします。
そのまま防衛ラインまで敵を引きつける囮となります。敵が有効射程に入った時点で合図がありますので一斉に援護射撃を開始。
残り5機の「レイブン」および空を飛べる者による航空部隊が戦闘を開始します。以上がフェイズ2となります」
なるほど。少数で囮になって引きつけるわけか。一番槍ってのはいいね。そそられるよ。
「フェイズ2においては歩兵の方を射撃部隊と近接部隊に別けます。
近接部隊は大仏ではなく敵歩兵への掃討を優先してください。
一兵たりとも後方に逃してはいけません。殲滅させます」
クールな感じのオペレーターの女の人が力を込めて言う。いいねえ、戦場だ。
「射撃部隊はレイブンへの援護をお願いします。
レイブン部隊は大仏の進行を止め、可能ならば仕留めてください。あなた方がこの作戦の要です。期待しています。
航空部隊は敵航空部隊の迎撃をする戦闘部隊と大仏への爆撃を行う火力支援部隊に別れてください。
現時点での作戦の説明は以上です。では、先行部隊への志願者を応募します」
おっ、スマホの画面に「先行部隊に志願しますか?」って表示が出た。
僕は迷いなくそれを押した。
やっぱり戦場を楽しむなら最前線にいきたいしね。
「オイオイオイ明日来、お前一番槍部隊に応募しちゃったの?マジで?死ぬよ?血に酔いすぎだろ」
「入間さんは応募しなかったんですか?意外だなあ」
「いや近接部隊の方が安全に沢山食えるし。それに俺の能力はフルバック向きだからな。紙装甲だし。
まあ死ぬなよ?かけた手間が無駄んなるからな。帰ってこい」
「もちろんです。僕の全力を出せますよ」
僕等は拳をぶつけ合って挨拶をした。
スマホには「受理されました、A-3陣地に移動してください」と出ている。
僕は熱に浮かされたように、しかし身体の芯は冷え切って冷静になっていく。
■
陣地に行くと常夫がいた。レイブンに乗っかる最中だ。
見ているとあっというまにハッチが閉まってレイブンが立ち上がる。
肩に3mはある巨大ショットガン、手には同じくらい大きなガドリングガンを構えている。
「やあ、思ったより早く戦場で再会できたね」
「お前、先行部隊に来ちゃたのか……」
「まあね。やるなら最前列で見たいんだ」
「じゃあしっかりと僕の機体を守ってくれよ。レイブンが1機しずんでもこの作戦に穴が空くからな」
「そうだね、全力を出すよ」
「お前、そんなに胆座ってたっけ?いいな、僕は緊張でガタガタだよ」
そんな事を話していたらまた同じような作戦の説明を受けた。
要はちゃんと囮として帰ってこい、みたいな内容だった。
その割には自決用IEDを渡されたけどこれは慈悲の類いだろう。
僕等はレイブンにつかまり、あるいは低空飛行をしていよいよ征く。前線へ、前線へ!
■
前方に炎が見える。火の海だ。その中から数百の黒い影がこちらに向かってくる。
大仏と妖怪の兵士300人。彼らの銃剣先にはバラバラにされた人の首や手足が掲げられている。
『有効射程圏内に入りました。攻撃を開始』
『了解、攻撃を開始!』
レイブン3機のガドリングガンが一斉に火を噴いた。
最前列の妖怪たちがバラバラに引きちぎれ吹き飛ばされる。
『ようこそ狩人諸君!待ちに待った闘争じゃ!さあ、楽しもうではないか!』
大仏からスピーカーの大音量による返事が届き、弾丸や魔法、ロケット弾が飛んで来る。だがこれはレイブンの回避運動で避けられる。
強烈なGがかかるが、この場にいる誰も振り落とされることはなかった。それだけの自信と実力がある者ばかりだ。
獣の咆吼と地響きがなる足音が聞こえる。妖怪の中の足の速い者達がレイブンの段幕をかいくぐりながら進んでいく。
一歩、また一歩前へ。ある者は素早い身のこなしで、ある者は堅牢な皮膚と盾で。
弾雨の中をまるで奇跡のように渡ってくる。
「一番槍は俺だ!俺だぁああ!」
「いいや俺が!俺がやってやる!鬼は死を恐れない!前へ!前へ!」
僕等も防御魔法をレイブンにかけつつ銃を撃ちまくる。もちろん敵も撃ちまくる。
狩人の誰かに弾丸が当たった。うめき声が上がり、なおもその狩人は撃ちまくる。壮絶に笑いながら。
「まだだ、まだ……!まだやれるだろう!」
だが僕が回復魔法をかける間もなく彼は敵に集中攻撃を食らって振り落とされた。
頭を吹き飛ばされ、即死だっただろう。IEDを使う暇すらなかった。
「一番槍ぃいい!!いぎっ」
「ちっ、先こされちまっアグッ」
狩人に致命傷を与えたであろう妖怪が誇らしげに血に酔った笑みで咆吼を上げた。
だがレイブンによる銃撃で彼らもまた血の霧になった。
あまりにもあっけなく命が消費されていく。羽毛よりも命が軽い戦場。
これだ。これがいい。
「ははっ、楽しくなってきた!」
僕は障壁の維持と味方の回復、さらに銃撃で敵をなぎ払う。わりと忙しい。
敵は数と妖術により弾雨をものともせず向かってくる。有効射程に近づけば近づくほど確実に死ぬというのに。
彼らにあるのは戦いの高揚だけだ。恐怖など見えない。
だがそれはこちらも同じだ。だんだんと近くで銃を撃つ場面が増えてきた。この分だとあと一〇分せずに白兵戦になるだろう。
皆、それが楽しみでならないのだ。それまでは死ねないし、死なせない。
『レイブン1より各機へ。まだ前進する。完全に敵を食いつかせるぞ!ここからが本番だ。気合いを入れろ!』
『了解!』
どすどすどす、とレイブンは走りながら妖怪を挽きつぶし前進する。ますます妖怪の数が多く、弾丸も増えてくる。
結界魔法を超えて、ああ、いよいよ、いよいよ敵が僕の目の前まで迫ってきた。
『飛行』
僕は飛行の魔法を唱えながら目の前の敵に急接近し、銃剣を突き刺し弾丸でとどめを刺した。
僕の一番槍だ。すばらしい。だが油断は禁物、無数に飛んでくる弾丸を防御魔法重ねがけで防ぎながら回避する。
まさに雨のように終わりなく弾丸が僕に降ってくる。防御の維持で魔力も秒単位で飛んでいくが構わない。
これだ。このピンチが欲しかった。
「さあ、どうする?」
弾丸も残り少ない。僕は最低限の防御をかけると銃を収納の指輪にしまっていつものロングソードを取り出した。
「前に出る!」
高速飛行で飛び回りながら首を飛ばし、心臓を突き、胴を両断する。
もちろん相手も反撃してくる。銃撃を受け、腹に穴が空き、切り傷は無数。
だけどまだ骨も折れてないし剣も手放していない。僕はすばやくレイブンの影に隠れ範囲回復魔法をかける。
見れば他の狩人も同じように白兵戦を行ってはレイブンの影に隠れて回復と補給を行っていた。
目があって、言葉もなく笑い合う。皆、血と戦いに酔っていた。
『さあ、メインディッシュじゃ!馳走してやる故食らってゆけ!』
『そちらがな。これが人類の意思だ!』
大仏が50mくらいの距離に迫っていた。レイブンの一機が巨大ショットガンでHEAT弾を大仏に向かって撃ち放った。
ごおおん、という音がして大仏の腹にいくばくかの穴が開く。
だがそれでも大仏は止まらない。
『レイブン1、これより接敵する!レイブン2,3は後退、退路を確保しろ!』
『了解、ご武運を』
レイブン1はいわば決死隊だ。未知数の敵に敵陣内で挑む。正気の沙汰ではない。
もちろん、死にに征くわけではなくある程度戦えば陣地内まで後退するという前提だけど。
『さあ、楽しもうぞ!同盟のレイブン、どの程度の性能か見せて貰おう!』
大仏は5mくらいの天部級、仁王みたいな憤怒形の姿で手には剣を持っている。
その剣が発光し光波を飛ばしてきた。ビームのようなものだ。
地面が切り裂かれ強烈な光りが夜を照らした。
『ヴァジュラか。なるほど、だがまだ当たってやるわけにはいかん。レイブン2,3!後退を開始せよ!』
レイブン1は巧みに回避を行いガドリングを浴びせていく。だがガドリングでは小さな穴が開くだけでたいしたダメージになっていないようだ。
『レイブン2、パントガン準備完了!後方の安全確認完了!撃てます!』
『レイブン3、援護用意完了。レイブン2、撃て!』
もちろん僕等もサボっていたわけではない。後退を開始するレイブン2、3、に敵兵をよらせないように撃ちまくり切りまくっていた。
それでもすでに包囲されつつある。やはり妖怪の脚力は脅威だ。
なのでこうして巨大ショットガンをショットガンとして使う。腹に響く砲撃と共に散弾が放たれ退路を邪魔する敵がミンチになった。
血の絨毯を踏みしめ僕等は後退していく。
『レイブン2よりレイブン1、潮時です後退を!』
『させるとおもうかや?』
『思ったより光波の連射力が高い……!下がれん。構わん行け!すみやかに後退せよレイブン2,3!』
なんとかできないかな……よし、やってみるか。僕はインカムを使って無線を飛ばす。
『ブレイバー5よりレイブン1、援護します、その隙に後退を!「静かに」「迷いの霧」「泥濘」』
ありったけのデバフ魔法を大仏にかける。魔法を封じ、動きをにぶくさせ、足下を泥にした。
『ぬっ、ヴァジュラが起動せん、ちいっ、動け!動かんか!ぬう、やられたの……』
『レイブン1よりブレイバー5へ。援護感謝する。これより全機後退!』
僕等はその隙に全力で陣地まで後退する。
作戦フェイズ1は数名の死者を出しつつも損害軽微で完了した。