休日その1・使い魔ランに行こう!
落葉・真くんは無頼チャイ様よりアイデアを頂きました
表記するのが遅くなって申し訳ありません
今日は休日だ。それも連休。一日で十分疲れは取れたし、今日はどこか行こうかな……
そうだ、シロと散歩に行こう。買い物がてら。
まあ、デートだ。シロはかわいいしね。僕もお年頃だしね!
「そういうわけでどこか行こうかシロ」
「さんぽ?さんぽ?ご主人!さんぽ行こう!」
語彙が犬だなあー。まあ実際犬だし仕方ないか……
「人型になれる?」
「なれる!」
今のシロの格好は黒のキャミソールにカーキ色のショートパンツだ。
おしりがぷりぷりして、肌が白い。健康的なセクシーさがあるね。
さて、どこに行こうか……
「何か欲しいものあるかい?」
「おいしいもの!たべたい!」
「まあそうなるよね」
とりあえず食事は確定として……スマホで検索をかける。
『使い魔ラン』?なにこれ。
『獣人型使い魔のペットランです。普段遊ばせて上げられない使い魔に思い切り自然の中を走らせて上げましょう!』
なるほどドッグランの使い魔版か……面白そうだな。
「行ってみる?使い魔ラン。こういう所を走り回るの」
使い魔ランの写真を見せる。自然豊かそうな場所だ。
「たのしそう!行きたい!行きたい!」
「よーしじゃあ電車ではおとなしくしようね」
きゅーん……と鳴くシロ。人型でそれはヤバイ!反則的なセクシーだよ!
■
電車を乗り継いで郊外に。山が遠くに見えて美しい。
……あそこまで行くのかー。
「よし『魔法の絨毯』スケボーバージョン!シロ、ついてきてね!」
「走る!はしる!楽しい!」
幸い人はそんなにいない山への街道。魔法の絨毯で空飛ぶスケボーにしたポスター大の布は、快調に山を滑る。
シロはショートパンツから尻尾をはみ出させてぶんぶんふりながら走って行く。
遠くの空では箒に乗って空を飛ぶ人が大勢いる。今話題のスカイスポーツの一つだ。
「いい天気だなあ……」
「いいてんき!いいてんき!たのしい!」
季節も肌寒くなく頬を切る風が心地よい。さんぽ日和だ。すでにシロは大分テンションが上がっている。
辺りはどんどんのどかな景色になっていく。うーん田んぼは見てて心が安らぐね……
そんなこんなで30分ほど飛ばしていたらつきました「使い魔ラン」
「ひとがいっぱいいる!いぬがいっぱいいる!すごい!」
「こんな感じかー」
牧場のように囲いがされた遊具のある広い芝生に犬耳の子や猫耳の子がめっちゃ走ってる……
建物もあるけどこれは使い魔同伴のレストランかー。
本当にドッグランみたいだ。獣度が個体によって異なるのがすごいなー。
二足歩行に髪型が人間なだけのほぼ獣からシロみたいな耳尻尾だけまで幅広い。
「えっとここが受付?」
「そうですよ。お一人と一体様ですか?」
「はい、こっちが使い魔のシロです」
「では規約をご確認の上入会金をお願いします。よろしいですか?」
「あっはい、それはホームページで見ました」
書類とペンを出された。けっこういろいろあるなあ注意。
敷地内での呪術はご遠慮ください、かあ……ご時世だなあ。
こんなことするアホがいるの!?って注意もあるけど、書いてあるからには実際した人がいるのが怖い。
「確認しました。入会金もあります」
「ありがとうございます。ではご利用時間をお教えください」
「あ、3時間パックで」
結構高いけど、仕方ないね……
「わああああ!ひろい、ひろーい!」
「あはは、あんまり離れちゃだめだよ」
シロはそれはもうすごい速さで走っていく。僕も異世界産の俊足を存分に披露することになった。
魔法の類いは基本禁止って実はきつい……!
山の中でパルクールするハメになるとは。でもシロが楽しんでいるならいいんだ。
「だいじょうぶ?ご主人。お水飲む?」
「大丈夫大丈夫。それよりお友達とかできたかい?」
「おともだち……」
「そうだよ。せっかく他の子もいる場所に来たんだからね」
せっかくだから他の子とも戯れてほしい。実際シロにはコミュニケーション能力もきっと必要になってくるだろうから。
シロはしばらく悩んだ後、駆けだした。
「んー……こっち!こっちにいそう!」
「なんか山の中に入っていってないかい?ほんとにいるの?」
「いる!においがする!」
シロには何かが解っているらしい。同族に近いモノとかをかぎ当てているのかな?
しかし実際すごい山の中に入って行ってるけどここも敷地内なの?
「あ、なんかいた」
190cm……くらいあるかな。細身の体躯にだぼだぼでぼろぼろなTシャツにズボン。
素足で小汚い。頭には鬼らしき角。顔は綺麗だけど泥とかで汚れている。
「あそぼう!あそぼう!」
「なんだおまえ、おまえなんだ」
シロがじゃれついて遊んでるけど大丈夫なのかなあ。
こんな時こそあれだよ「解析」。カルマ頼んだ。
『任された。この個体の名前は落葉真百鬼の里から逃れてきた鬼と人の女の元で生まれた子供だ。
今ほど世間の理解もなく、母は子に人間に手を上げてはいけないと育てた。人目から隔離しながら。
だが、穏やかな日々は長く続かず百鬼の追手により両親を亡くす。
それ依頼逃げるままにこの山に住み着き、ここの客から菓子などを恵まれてここにいる。
なお、ここの経営者夫婦は引き取りたいがしかしそれほどの余裕もなく今の現状で納得しているようだ』
詳細な解説ありがとう。相手の事情を説明なしにまるっと理解できるから便利だよね!
軽く神の視点というか第四の壁乗り越えてるんじゃないかなこれ。
それで、この子自身の性質は?
『獣に近い。だが基本的に善良かつ温厚で人に手を上げない。
専守防衛がこの子の道徳心に根付いている。人の世の常識は知らぬが、獣としての親愛はあるだろう。
今すぐシロに害なすことはほぼない』
なるほどね……どうしたものかなあ。ほっとくべきなんだろうけど、かといってここで見過ごして万一百鬼にここが襲撃でもされたら寝覚めが悪いなあ。
『まて、ならば良い事を聞いているぞ。覚えていないか?このような子供はハルマンの経営する軍艦島の学園に送られると。
経営者夫婦に聞き、それが許されるのであればいっそハルマンか同盟の上司に相談して保護するのも狩人の勤めではないか?』
「そうだね」
シロと真くんは無邪気に遊んでいる。僕にはそれがとても儚い瞬間に思えた。
実際ちょっとのテロや深淵の襲撃で終わる光景だし。とはいえ、半端に関わってもアレだしなあ……
「あそぼう、あそぼう!」
「そうかあそぶのか。あそぶならあそぼう」
関わるなら、まるっと引き取ることになるか、しっかりと経営者の方に引き取って貰う……いや、それこそ他人の事情だしなあ。
なんて悩んでいたらシロの柔らかな手が僕の頬を押した。
「ご主人、あそぼう!あそぼう!」
「誰だおまえ、おまえ誰だ」
「そうだね、遊ぼうか」
でもとりあえず今はシロたちと全力で遊ぼうか。
「お前つよいか、俺よりつよいか」
「力比べね。いいよ」
「つよいなお前、お前つよいな!」
まあ、単純なパワーでは鬼の子が上回るだろうけど、そこは合気道的な力のいなし方でどうとでもなる。
ドラゴンだのオーガだの相手に切った張ったやるには必須の技能だった。
適当に怪我しない程度に振り回す。
「すごい!すごい!ご主人、わたしもする!」
「よーしこい」
こう……高い高いの本当に高いバージョンみたいな?シロは軽いからそのくらいの軽業はできる。
そうして遊んで野山を駆け巡っているうちに2時間があっという間に過ぎた。
「さてと……そろそろご飯に行こうか」
「ごはん!いこういこうご主人!」
「おれ、いい。たのしかった。さよなら」
「なんで!?ご主人だめ?だめ?」
「今はね……いろいろあるんだ。それに真くんには別にご飯あるんだろう?カルマ」
『ああ、経営者夫妻がこっそりとやっているようだ。とはいえ、ここの来客者もこっそりやっているようだがな』
「やっぱり表立っては駄目か……じゃあ、これはお土産。こっそり食べてね。シロと遊んでくれてありがとう。また来るよ」
僕はお菓子と水をそっと差し出した。
「おまえ、また、くるのか」
「来るよ。近いうちに。だからそれまで君も無事でね……」
レストランの食事は一流の味だったけど、なんだかほろ苦かった。
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「……って事があったんですよ。どうしたものですかね。なんとか僕にできることはないですかね」
「なるほどなあ。しかし狩人にあってお前さんの慈悲深さはなかなか見所があるわい。
慈悲深いモノはたいていにして心弱いが、お前さんは違う。現実にたたきのめされてなお優しさを失わない。良い狩人だ」
僕が話しているのはこの地区の支部長、斎賀孫八さん。
元力士で気は優しくて力持ちを地で行く快男児だ。頼りがいがある人だと思う。
「しかし落としどころはそういくつもあるまい。お前さんの言うようにそのオーナーの使い魔として登録するか、我々が使い魔として登録するかだ。
人として生きるならば軍艦島学園に送るしかないが、それがそやつにとって幸せとも限るまい」
「ですよねえ……」
人として生きることが必ずしも幸せとは限らない。人間には学業に就職や納税、結婚といった面倒な世間体という名の義務があるからだ。
その点逆にペットとして生きる事を選択すれば楽だ。全てはオーナーにゆだねられるが、飼い主が信用できるならば何の義務もない。
ただ養われて愛想を振りまいていればいい。
「よし、確か『使い魔ラン』だったか?うちの契約先であれば話を通しておいてやろう。
どれ、契約者かどうか調べよう」
「ありがとうございます」
力士の指がパソコンの上で踊るのはちょっと奇妙な光景だった。
だけど、上司としてはすごくいい人だ。部下のわがままみたいな相談にも即決で乗ってくれるんだから。
「契約者のようだ。どれ、今度のパトロールの時に狩人として会いに行くが良い。
その時に使い魔登録について説明できるようになっておくのだな。マニュアルの書類はあっちの棚にある」
「……ありがとうございます!」
「なあに、こういう細かいケアが契約を深め、また多く取るコツなのだ。励めよ、若き狩人よ」
かっこいい大人だ……力士だけど。
■
「それで俺たちこんな山ん中走ってるわけ!?マジかよ」
「すいません……まあ、僕のわがままなんですけどね」
「しょうがねえ、使い魔ランで食事おごれよ。旨いんだろそこの飯。そういう所ってだいたいカネに余裕あるやつしか来ねえからな」
昼間のパトロールの車内で入間さんが毒づきながらも反対はしない。
「ええ、美味しかったですよ。高いけど、一食くらいなら払えますし。
あっ、そういえば使い魔つれてると割引あるんですよ。入間さんはなんかいるんですか?」
うわ、露骨に嫌そうな顔した。
「いるこたぁいるけどな……ろくでもねえ奴だぞ。深淵一歩手前だ。一応不動明王の眷属だから神の側に族してるだけみたいなクソ外道だ」
「不動明王の眷属……ってことは神様の家来みたいなものじゃないですか」
「能力聞いてもそう思うか?あいつの力は『契約者の怒りと憎悪を糧にして炎を出す』だぞ。
もちろん怒りがヤバいほど炎の威力もヤバくなる」
うわあ、憎悪の力で戦うのか……不健康そうだけど確かに入間さんにはこれ以上なくぴったりだ……
「いやでも怒りのパワーで戦うと考えたらヒーローっぽくないですか?」
「怒りを煽ってくるのさえなければそうも思えたんだろうけどな」
「嫌な使い魔ですね……」
そんなことを言いながら『使い魔ラン』へ車を飛ばす。
■
「おや、こんにちは。いつもの人と違いますね。あれ?そちらの方はこの前お客様として来られてませんでしたか?
申し訳ありません、なにか不手際がありましたでしょうか?」
出てきたのは50代くらいの紳士そうな人だ。引退した退魔師って感じだろうか?
「いや、そういうわけじゃないんですが……ちょっとした営業もかねて聞きたいんです。
東の森の方に野良の子いましたよね?たしか名前はシンくんだったかな。あっ、別にその子を狩るとかそういう話題じゃなくってですね」
オーナーさんは戸惑った様子だ。そりゃそうだろうなあ……
「え、ええ。いますが特に迷惑してるわけじゃなく、うちのマスコットみたいなものなんですよ」
よし!受け入れてることを認めた!これで交渉がスムーズになる!
「なら、正式に使い魔登録してはどうでしょうか?面倒くさい手続きは手数料5千円で全部しちゃいますし、何かあったときにその子も護れます」
「はあ……なるほど。確かにそういう考えも頭をよぎりましたが、そうですね……悪くない話だと思います。
ですが急には決められないので家内とも話し合ってまた後日お返事させてもらいますね」
「わかりました。あっ、そうそう……僕らこれから休憩時間なんで、お食事させてもらっていいですか?」
オーナーさんはダンディな笑みでうなずいた。
「ええ、もちろん。うちのシェフが腕によりをかけて作りますよ。よろしければシロちゃんもどうぞ」
「ありがとうございます。あっパンフレット置いてもいいですか?」
「はい、参考にさせて頂きます」
とりあえずは好感触だ……
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「うまかったな、あそこの飯」
「そうですね、雰囲気もいいですし、いいところですよね」
「おいしかった!おいしかった!シロあそんでいい?」
「今はお仕事中ね」
僕等は散歩がてら使い魔ランの見回りをしている。営業妨害の呪詛が埋め込まれてたりするからだ。
「このへんだったかな、あの子に会ったのは……」
「森か。たしかに野良もこの環境なら生きてけるかもな、おい気をつけろ。呪術の気配がする」
「客の人が暴れてるんですかね?」
「ああ、よくあるこった。そしてそんなアホをたたき出すのは……」
「狩人の役目、ですよね」
呪術を使って公共の場所で暴れる。悲しいがそんな人は少なくない。
モンスタークレーマーが物理的にモンスターになるくらいよくある時代なんだ。
「やめろ!おれ、おまえ、傷つけたくない!おれ、なにも、してない!」
「はははいい的だ!ちょっとは刃向かって来いよ!」
うわぁ……野良だと解って無邪気にちょっかい出してる感じだ。シンくんは我慢して反撃してないだけなのに……
「あの、ここは呪術禁止です。それに、そういう遊び方するところでもないんで」
「はあ?お前らなんなわけ?職員?ああ、狩人か……だったら口出しすんなよ。あれ野良だろ?
野良のバケモノ狩って何が悪いわけ?お前らのやってることと同じだろ」
駄目だ!このおじさん話が通じない系だ!
「おっと、俺を殴るのか?ネットに拡散するぞ?今動画撮ってやるからな。手出ししたら訴えてやる!」
うわあ……見るからに調子乗ってるお客様系だ……
そう思ってると入間さんが出てきた。
「ああそうかい。実はお前さんがさっきからそこの野良を虐待してる時点でもう撮影してんだわ。
それとあんたは狩人を勘違いしてんな。アホな客をたたき出すのも俺らの仕事の内なんだよ」
「なんだと!お客様は神様だろうが!」
「邪神狩ってる俺らにそれを言うか?ほら何かいってみろ。聞くだけ聞いてやるからよ」
おじさんはしばらく顔を真っ赤にして何かわめいていたが、直に息を切らしてふらふらと座り込んだ。
「どうかしたか?」
「何をやった……これは呪いだろうが……」
「さあな、それよりだったらなおさら病院行った方がいいんじゃねえの?熱がありそうだぜあんた」
「き、さま……!」
あ、倒れた。
『僕の力をこんなことに使うなんてね。次はもっと大物相手がいいな。それにイルマ、君も大して怒ってないだろう?』
入間さんの側から赤い肌に黒い水着くらいの面積の布を纏った炎のような質感の人型が現れた。
それはまるで炎の妖精だ。
「まーね、どうせこいつ後で俺がキレるムーブするだろうからその時にとっとけ」
『はいはい、しばらくはこの人の怒りを餌にするよ。まったく君といると怒りを食べるのに事欠かないよ。君は憎悪をまき散らす天才だね』
「入間さん、それが?」
「そうだよ、こいつが俺の護法童子……使い魔だ。名前は黒機炉。性格は見ての通りだ」
「何したんです?」
「このアホの怒りを本人の体内で熱に変換してやっただけだ。こいつ担いでけ、さすがに商業施設で人死には駄目だろ」
「わかりました。シンくん、ごめんよ……」
うわ熱っ、重っ。この熱はまずいんじゃないかな……
「おまえ、たすけてくれた、ありがとう」
「仕事だ。気にすんな」
数日後、この件もあってシンくんはちゃんと使い魔登録されたようだ。幸せに暮らしてくれることを祈る。
今回はあんまり山なしオチなしになってしまいました……