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犬神量産工場その2


同盟の仕事には「狩り」というものがある。これは要するに魔女狩りだ。

悪質と判断された敵対組織や個人を私刑にする仕事。

その判断の経緯や処刑の様子はネット上にアップされる。

ちまたで狩人らしいと言われる花形の仕事だ。やる気出るなあ。


「そういわけでお前の仮面決めろ。最悪マスクでもいいから顔隠せ。

一応ネットにアップされるんだからおめかししとけ」


入間さんが車のトランクから沢山のマスクや仮面を出す。


「これなんてどうよ。ガスマスク。ああ、ルチャリブレの方が好みか?いやいっそ紙袋もアリだぞ」

「いやそんなキワモノはちょっと……僕はこれでいいです」


僕は普通のバイク用のゴーグルを手に取った。


「普通じゃん!もっと個性出してかなきゃ駄目だって!」

「それ言ったら入間さんだって帽子と口布だけじゃないですか!同盟の制服そのまんまでしょ」

「俺はほら、ハンマーと口の悪さでチャンネル登録数増やしてるタイプだから。じゃあこれつけとけ」

「口布ですか?うわっ、ドクロ描かれてる」

「牙のペイントだ。イカすだろ?口布俺もしてんだからお前もしとけ」


帽子とゴーグル、牙のペイントの描かれた口布をつける……暑い!ゴーグルははずそう。


「じゃあこれで……」

「よし悪そうなツラになってきたな!いい感じだ!じゃあカメラ回せ」

「はーい」


そうスマホのカメラを使って動画撮影をするのだ。もちろんネットに処刑動画を上げるために。

僕はスマホを構えて入間さんを写す。


「はいどうも、こちらは同盟関西支部のハンマーマンです。まずはみなさんにご報告を。

俺にもバディができました。後輩のユーシャくんです」

「えっ、僕もですか?っていうか勝手にハンドルネーム作られてる!」

「こういうのは流れで決まるからいいんだよ。ええ、多少ぐたつきましたが、有能な奴です。

それで、ですが今回は犬神量産工場に突撃します」


夜の闇に虫の声が静かに響く。車を背にして入間さんは大仰な手振りで話し出す。

慣れた調子だ。こういう目立つ仕事大好きそうだもの。


「えー、今頃テロップ出てるでしょうが説明すると、

こいつらは保健所から犬を拾っては犬神に仕立て上げてたクソ外道なので殺します。

犬神は犬を拷問して生け贄にして化け物にして使う呪術です。詳しくはぐぐれ。以上!」


ここで入間さんがカメラを取り出して撮影している僕を写す。


「はい、こいつが後輩のユーシャくんです。魔法が山ほどあります。ほらなんか自己紹介しろ!喋れって!」

「いきなり振ってきますね!?あっ、どうもよろしくお願いします。勝手にハンドルネーム決められたユーシャです。

武器はロングソード使ってます。狩人は初心者ですが、戦いは慣れてます……そのくらいですね」

「これからこの車を使って犬神工場を潰しに行きます。OKここで一端切ろう」


入間さんがばんばんと車のボンネットを手で叩くとカメラを下ろす。ごつい四輪駆動車だ。


「はあ、緊張しますね……っていうかこんなぐだぐだでいいんですか?」

「いいんだよほらライブ感を大事にしたいし?」

「適当だなあ」

「だんだん突っ込みに遠慮がなくなってきたなお前。いい傾向だ。フランクに行こう狩人なんだから」


僕等は車に乗って夜を駆ける。



一時間ほど車を運転すると山の中にいた。ど田舎だ。


「ものすごい山の中ですね……」

「そりゃお前、犬神っていったら犬を飢え死にさせて悪霊にして使役する呪法だからな。

作るときは基本くそやかましいんだよ。吼えるし。ましてや量産するんだからな。近隣から通報いかねえど田舎じゃねえと無理だ」


僕等がこの犬神工場にたどり着いたのは愛犬を犬神に仕立てるという「犬神工房」を追ってからだった。

例の名刺を司令部に渡したら数日でたどり着いたらしい。

捜査方法はネットの噂と監視カメラの映像。恐ろしい監視社会だ。


「こんな名刺一枚から本拠地まで割れちゃうんですからネットって怖いですね」

「便利だろ?リスクはあるにしろな。普通にしてたらせいぜい逆恨みで凍結くらうくらいだし」

「普通にしてても凍結される時点で嫌ですよ……あっ、そろそろみたいですよ」


カーナビは残り500mを指していた。


「ヘッドライト消せ。運転代われ。正面から乗り込むぞ」

「わかりました」


一端車を止めて運転を代わる。闇の中でも走れるのは入間さんが暗視ゴーグルを使っているからだ。


「いいか、こういう周囲に家がない場所じゃ近づいただけで向こうも気づく。番犬だらけだろうしな」

「そしたら相手から撃ってきたり囲まれたりするんじゃ?」

「だからこう言う場合のために四駆のごつい車で行くんだよ。ちょっとした装甲車みたいなもんだ。

これで少々のもんはぶっ飛ばしながら近づく。用心したいなら事前にドローンとか使い魔を飛ばして偵察すればいい」


入間さんはハンドルをぱんぱんと叩き、手振りで伝える。

真っ暗闇の中を静かに車が走っていく。異様な状況だ。


「偵察しましょうよそこは!」

「よしじゃあお前にそれはまかせるわ。ほらいたろ、お前の守護霊的なもん」

「カルマですか。たしかにそういう使い方もできますけど」

「撮影も頼んだ。カメラくらいなら持てるか?」


カルマ、いける?……いけるらしい。後部座席に実体化させる。


「問題なく持てる。本体が世話になっているな、入間殿」

「いきなりでてくるなよ!?まあいいや、頼むわ」

「解った、任されよう」


僕の手からカルマへとカメラが手渡される。


「よしカメラ入ったな?はーい、ってなわけで現地近くにつきましたー。

徒歩だとかったるいし、待ち伏せが面倒なのでこのまま車で壁をブチ破って入ります。映像が乱れますごめんな?」


入間さんも帽子についた小さなカメラをONにしたようだ。

どるん、と軽快なエンジン音を鳴らし柵に突っ込み鍵ごとブチ破り、施設のドアにぶつかってはバックして突撃を数回繰り返す。


「こんばんわー!ノックはこれでいいかい?聞こえたよな?

同盟アライアンスだ!用件は解ってるな?狩りの時間だ!死ね!」


ドアが壊れたのを見て入間さんが車から降りて壊れたドアを蹴り飛ばして中に入る。


「なんと野蛮な狩人だ。まるで獣だな……我々以上にな」


施設の廊下にいたのは3人の人狼だ。拳銃を持っている。


「知るかボケッ!お前らも犬神だろ?何か?お友達を増やしたかったのか?」


人狼ではなく犬神らしい。見た目は人間の体をして頭が犬の獣人なんだけど。

リーダー格の犬神が優雅な様子で答える。それは数の有利か拳銃を持つ余裕のせいか。


「有り体にいえばその通りだ。この体はすばらしい!単なる犬から進化できる!

苦痛はあるが、十分に見合った対価だ。そして我々は勢力を増やしたくてね

犬による犬のための犬の国!百鬼はそれを約束してくれた」


それだけ聞けば一見こっちが悪役に思えてくる。犬が犬を引き取り苦痛はあるけど進化できる儀式をして、自ら統治している。

僕等が介入する余地はない。だけど、ここまでやった以上僕等も退けない。


「なるほど綺麗事だ。まあ事こうなっちゃ殺すしかねえ。さあ勝負と行こうか」

「生きた人間を食えるのは久しぶりだ。楽しみだな、狩人共よ」


相手は拳銃3人、こっちはハンマーとロングソードとカメラ。

口火を切ったのは入間さんだった。


「やっぱ人食ってるんじゃねえか!」


犬神達の拳銃が火を噴く。だけど入間さんはあえて前に進み射線をずらす。

要するに緩急をつけた動きで狙いを外させている。人間業じゃない……

そしてハンマーの一撃で拳銃ごと犬神の手を破壊した。


「そんで銃っていうのはこういうのを言うんだぜ」


さらに入間さんは懐からでかい拳銃……サンダー50bmg。50口径対物ライフル弾を撃つ変態銃だ。

破滅的な発射音と共に銃口からソニックブームと50口径弾が飛んでいく。

犬神は胸にスイカくらいの大穴を開けられて吹っ飛ぶ。死んだだろう。


「これが狩人か……くそっ分か悪い!」

「待てよコラァ!獣狩りしようぜ!俺が狩人お前が獣だ!逃げんな!戦え!死ね!」


入間さんがリーダー格を追っていく。


「あっ、ユーシャ、お前は後方のクリアリングな!全部屋開けて確かめろ!俺は先に行く!」

「わかりました!」


要は挟み撃ちにされないように入間さんの後ろに位置する部屋を全部敵がいないかチェックし、敵がいるなら排除、だ。


「だ、そうだぞ?勇者殿」

「その呼ばれ方は苦手なんだけどなあ……」


一つ一つ扉を開けていく。ひどかった。だいたいが首まで土に埋められて死んでいる犬ばかりだった。

悲しみと苦痛に彩られたその顔は悲惨だ。僕らはそれを迅速かつ丁寧に写していく。


「ひどいな……」

「だからこそ、我々が狩って止める必要がある。そうだろう?」

「かもね」


ある部屋をチェックしたとき、まだ生きている子犬がいた。


「死にかけてる…けど、生きてる!まだ助かる……!」

「助けるのか?その意味が解っているか?慈悲を示したのであれば最後まで世話をせねばならん。弱者とはそういうものだ」

「わかってる。それでもこれはあんまりだ。それに僕犬嫌いじゃないしね。これ、飲むかな?」


僕は回復薬を手にかけて子犬の口元に持っていく。子犬はぺろぺろと手をなめて満足そうに死んだ。


「……死んじゃったか」

「あまり憐れむべきではない。亡者に慈悲を示して良いことはないぞ。とはいえ、手遅れのようだがな」


なんだこれ!?何か魔力がすごくうねって集まっていく!まるで部屋の中に台風が吹き荒れているみたいだ。

そこにリーダー格の首をもった入間さんが戻ってきた。


「馬鹿野郎お前何した?まさかエサやっちまったのかそいつに!」

「はい、もしかして僕やっちゃいました?」


入間さんは頭に手を当ててohと小さく嘆いた。


「やっちまったな!餓死しかけの奴に栄養価高いもん食わせたら胃がびっくりして死ぬんだよ!

そんでもってこの手の生贄に哀れみを向けると全力で依存されるんだよアホ!

……お前、犬飼ったことある?」

「はい。まあ実家で」


次に来るセリフも予想がついた。だけど僕は覚悟の上だ。


「よし!おめえが責任取ってこいつ飼え!

一度エサあげたんなら最後まで面倒見ろ!それが責任の取り方ってもんだろ」

「わかりました。やり方を教えてくれれば、僕やります」


未だに魔力の嵐が吹き荒れている。むしろどんどん濃密になっていくかのようだ。


「……以外に素直にしたがうのな」

「いや僕もエサ上げた時点で助かったら飼おうとおもってましたし」

「じゃあ決まりだ!呪文スマホに写すから唱えろ、あとは指示通りにやればいい」

「わかりました」


入間さんが僕の前にスマホを掲げる。僕はそこにある呪文を読んでいく。


「ひふみよいくむなや、ここの、たりて。さても悲しきかも、さても哀れやも。

千早振る大口真神よりいでし犬の子よ。呪詛を祓い清め祀れば、まかりし御身、外道に非ず、犬神に非ず。護国の大神となれ」


嵐のような魔力が一点に集まっていく。これはちょっとしたドラゴン級じゃないだろうか?


「生贄にされ呪いそのものとなった魂を清め、神に祭り上げる術か。この国らしい」


解説ありがとう!でもそれどころじゃない。

犬の死体がぶるぶる震え、周囲に赤黒いもやが集まっていく。

だが、呪文が進むにつれ、清浄な青緑色に変わり、力強く輝き始めた。


「よしいい感じだ!こいつの姿を思い浮かべろ!犬の神としての姿と人の姿二通りだ!

なんでもいい!お前がこいつを従えさせられると確信できる姿を思い浮かべろ!」

「えーっと……」


犬の死体に白い霊気があつまり繭玉のようになって粘土のようにうごめく。

今にも何かでてきそうだ。


「なんでもいいんだよ!そうだエロゲーとか漫画に出てくるチョロイン思い浮かべろ。だいたいそんなんでいいんだよ!

だからしっかり想像しろ!それがまんまこいつの姿になるんだからな!気張れ!」

「じゃあこんな感じで!」


僕はその姿を思い浮かべた。幼い少女キャラだ。


「貴公、本当にこれでいいのか?少し品性を疑うぞ?」


しょうがないじゃん!とっさに思いついたのがそれだけだもん!


「わかった。像を正確にイメージさせる。なんということはない投影魔術というものだな」


繭玉がもにょもにょと人の姿を取った。それは小学生ほどの身長でありながら胸と尻の大きい無垢そうな犬耳少女だ。髪も耳も白い。

なお全裸である。


「いい趣味してんなお前……じゃあ残りの呪文を言え。意味はそのまんまだ。

しっかり誓え。んでもって絶対に従わせろ。犬ってのは上下関係を植え付けなきゃだめだ。

お前がリードとれ!手綱を握れ!でなきゃこいつはバケモンになる。そうなりゃぶっ殺すしかない。

あと名前今すぐ考えろ。ノリでひねり出せ」

「……わかりました!」


ノリで名前が決まっていくなこの組織!だけどこの子を助けられるかどうかの瀬戸際だ。やるしかない。


「我は問う、我を主と認るか」


犬耳幼女はこくんとうなずく。


「我が輩として共に歩まんと欲すならば約定を誓うがよい。

我が命ぜざる時に他者を害さないことを誓え。

我が死せば、現世に残るべからず、我と共に冥府まで歩め!

されば我ら主従となれり。我は汝に庇護を与える主となる!

汝が名は……シロ!」


ぼんやりとしたシロの顔にぱあ、と太陽のような笑顔がともる。


「シロ!わたし、シロ!」


ええっと呪文の続きが……これまじ?スマホの画面をまじまじと見る。


「これが我が最初の報いである。我を主と認るならば、跪き我が血肉を啜るがよい」


肉えぐるのはあまりやりたくないなあ……


「これマジで肉えぐらなきゃダメなんですか……?」

「いや、魔力とか気とかでも代用できるって書いてあんだろ。読めいいから!

ちゃんと座らせてからやれよ。でないと駄目だ。お座りっていやわかるだろ。芸をさせて主従関係を刻め」

「マジすか。じゃあ、おすわり!」

「はい、おすわりします!」


犬耳全裸幼女が尻尾を振ってにこにこ笑いながらお座りしている。いろいろとデンジャラスだ。


「これぞ我が血、我が肉なり!イアオ・ツァバオト!」


僕は魔力を手に込めてシロに渡す。ふわふわと白く輝く塊だ。


「おいしい!おいしい!だいすき!」


シロは魔力の塊を綿飴のように食べて満足そうだ。


「契約は果たされた。我らが道に祝福あらんことを、アーメン」

「あなたがご主人!あなたがご主人!うれしい!うれしい!」


シロは四つ足で部屋を走り回り尻尾を振りまくって笑顔で僕に抱きつく。

ヤバくない?この絵面。


「よし一件落着!ああ、インシデント報告書書いとけよ。俺も書くから。

それから八百万と神祇局に手続きな。ざっくりした流れはメモに書いとくからあとはぐぐれ。

疲れたなー」


なんだか狩りは終わりのようだ。すごいぐだぐだだけどいいのこれ?


「えっマジっすか!このまま帰るの俺!?」

「……車で送ってやるよ。それからそいつはちゃんとしつけろよ。

猟犬と同じだ。絶対に良しというまで吼えたり噛みつかせたりするな。相手が死ぬからな」

「……がんばります」


何もしてないけど妙に疲れるなあ……シロが僕を見上げている。純粋な心配の目だ……


「ご主人?」

「うん、いい子だシロ……」


僕はシロの白髪を撫でる。シロは僕と入間さんを交互に見て言った。


「ご主人のご主人はすごい!えらい!シロわかった!」

「そういう認識になるんだ!?犬だからかーそうかー」


頭いいなあ!犬って上下関係にさといと言うけど本当だなあ!


「違う?」

「いやあんまり違わないけどさぁ!」

「がんばれよー。散歩とエサと世話はちゃんとしろな」

「はい……」


カルマが指輪からローブを取り出して僕に渡す。シロのための物だ。

そしてカルマはじっとシロを見ていた。


「施すとは常にそういうことだ。しかし犬でありながら少女、そして強大な魔物とは…危険やもしれぬ」

「ご主人?ご主人がもう一人いる!……ママさん?」


シロはカルマを見てうれしそうに抱きついた。


「この子は良い子だ」

「軽っ!」


今回の一番チョロい人はカルマかもしれない……



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