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勇者、休みを満喫する。


「近くのビジネスホテルに宿と服をとってあります。まずは一晩落ち着いて考えてください。

現在は2018年で、あなたのいない15年でそれはもういろいろとありました」

「2018年!?それに、こっちでは15年もたってたのか……まるで浦島太郎だ」

「まさにそれですな。こちらとあちらでは時の流れが違うのです」


僕はじっとその事実をかみしめて、棚上げにする。友人も、もうまるで変ってしまっているんだろうと。


「落ち着いて聞いていただきたいのですが、まず今までの日本でも退魔組織や魔術師、妖怪といった存在はありました。

ただし、歴史の闇に隠されたいたのです。その過程で様々な悲劇があり……私はクズ共を法廷にかけるためにすべてを暴露しました」


何やってんのこの爺さん!?魔法使いとかそういうのがいた。まあいい。

クズ共を法廷にかけるためにそれを全部バラす。わからない。


「えっと、魔法使いとかそういうのがいたとして、それはまあいいです。

あの世界でも魔法はありましたし、物理的に存在できるってことはわかります。

それとクズがどうのこうのってのがわからないんですけど……」


ふーむ、とうなってハルマンさんが続ける。どうもこの人にとってはその二つは当たり前につながる事らしい。


「まず、世の中には信じがたいバカな黒魔術師がはびこってましてね。

それはもうひどかったんですよ。児童虐待から少年兵、人体実験、レイプに生贄。それら言語道断の所業を魔法で隠していました。

魔法や異種族の存在がばれると大混乱になると大義を掲げてね。

ですが私はそれが許せなかった。なので全部バラしました」


何やってんの!?いやほんとこの人何やってんの!?


「あの、大混乱になったんじゃないですか?」

「当たり前ですよ。大混乱になりました。ですがそうなってでも私は彼らを刑務所にブチこみたかったんです」

「えー……」


よくわかった。このじいさん思想犯とかテロリストの類だ。

この人こそ大義のためには世の中を破壊しても構わないと思ってるんだろう。

でも、三分の理くらいはある……あるかもしれない。


「あんまり聞きたくないんですけど、この15年でどうなったんです?」

「そうですねえ……ネットやコンピュータ分野は大幅に成長しましたし、魔法も一般的になってとても成長しましたよ。

今や無料で誰でも魔法が簡単に使える時代です。もちろん、才能の有無はありますがね。

それから外国人並みには異種族も表を歩けるようになりました」


へえーすごい。そういえば空を見れば箒で空飛んで遊んでる人もいるし、なんだか街を歩く人には獣人やエルフ耳の人がわりといる。

何かよくわからないSAN値減りそうな見た目の何かも歩いてる。


「それっていいニュースと悪いニュースの、いいニュースの方ですよね?」

「ええ、悪いニュースも言いますと、今も相変わらずどん底の不景気です。洪水と大地震も何度も。

それから、四国と島根、九州と東北の一部がテロリストにより占領され今も内戦中です」

「はぁ!?」


不景気はまだいいよ。よくないけど。でもテロリストにより占領ってなにがあった。


「説明しますと、彼らは異種族、妖怪でありもとより日本の山岳地帯に半ば独立国状態で無法地帯を作っていました。

そこでは人食や家畜人間などクズの所業が行われていたんですよ」

「それもバラしたんですね?」

「当たり前です。すべて暴露したので、捕まるくらいならいっそ、と思い詰めた妖怪たちは永田町にテロを行いました。

それからずっと内戦状態ですね。原子力発電所を襲ってメルトダウンを起こし、放射能汚染された場所を占拠しています」


このハルマンさんも妖怪たちも頭おかしい。


「さらに彼らの工作は続き、国内に犯罪組織を作りスパイ活動を行っています。

たとえばチンピラを妖怪化させて兵士にしたり、誘拐や人間の家畜化を行って兵員を増やしたり、

麻薬や禁制の魔法を売ったり、児童買春を行って政治家に取り入ったりとか」


さらっと語ってるけどこの人がきっかけだよねそれ。


「そこで私は退魔師の自警団を組織し、弟子にそれを任せました。「同盟アライアンス」というのですがね。

さてそこであなたの登場です。あなたの力はこの時代にあってもなかなかのものです。

テロリストに狙われるくらいにはね。そこで私があなたを保護した、あるいは投資するために声をかけた、と言ったところですな」

「えっ、そこで僕に振るんですか」

「はい、あなたの実力でふらふらされるとややこしいことになりますからね。

剣をオープンキャリーで持ち歩いて警察沙汰や無一文で路頭に迷うよりはましかと」


なるほどなー、たしかに僕がそんな治安悪い状況でふらふらしてたら警察沙汰かテロリストと戦う羽目になっただろう。

それは僕としても遠慮したい。うーん、流されるままだけど、とりあえず受け取っておくべきかなあ。

どう思う、相棒。


<この者の言に虚偽はない。私は貴公の世界をよく知らぬ。

だがいらぬ厄介を抱え込むよりは、思惑があったとしても権力者の世話にはなっておくべきだろう。

なにより、無一文よりはまし、それは真実だ>


ありがとう、相棒。彼女は僕の相棒「カルマ」僕の能力スキルが人格を持ったような存在だ。


「当座の資金と宿。これは特に見返りを求めてではありません。単にあなたがいらぬ騒動を起こさぬための措置です。

特に何も拘束力のないただの投資です。出所も私のポケットマネーですし、お気づかなく」


そう言うとハルマンは懐から札束を抜いて僕に渡した。50万円だ。

気にするよこれは!そんな現ナマで出されたら!


「気にしますよこれ!目に毒ですよ!」

「私は特許を12個持ってますので幸いなことにお金には困ってないんですよ。

ならば若者の未来とこの国の治安のためにこのくらいは出さねばなりますまい」


返した方がいいのかなこれ。いやしかし現ナマはほしい!


「取っておいてください。本当に何の裏もない金ですし、それで何か拘束力が法的に発生することもありません。

本当にただのお小遣いですよ。年長者のお小遣いはとっておいてください。そのほうが双方の恥になりません。

なにより一度出したお金を返されると困るんですよ」

「はあ……そういうもんですか」

「そういうものです」


なんていうか、思い切りが良すぎて表も裏もない人なんだなこのじいさん……



「思ったより服はふつうだ。変わってないんだなこういうところは……」


用意された部屋にはジャージとシャツ、ズボンといったごく普通の服が用意されていた。

シャワーを浴びてジャージに着替える。ベッドに沈み込むとその柔らかさに違和感すらあるほどだ。

ああ……帰ってきたんだなあ。


<ここが貴公の世界か。なるほど、記憶にあったものと似ている。

やはりあちらよりずいぶんと居心地がいいのだな>


カルマが実体化してソファに座る。ローブを着た黒髪エルフと言った姿だ。

見た目は美女に分類されるだろう。彼女が何かというと、膨大になりすぎた僕の力を管理するために作った管制用の人工精霊……

いわばAIのようなものだ。科学の粋がロボットという意志ある者のように、向こうの魔術の粋もまた魔術に意思を与えるものだった。


「生活環境はね……たしかに天国だよ。でも、死んでるみたいなものだったなあ。

成り上がることができない世界だし。お金だって世知辛いよ」

<いつの世も戦い、それがなければ金と堕落が蔓延る。それはそういうものだ。

それに、当座の金に困っていないだけましと思おうではないか>

「あの50万円かあ……」


これからどうしようか。そう思うけど今はただ眠っていたかった。



朝、目が覚めるとボーイさんが手紙をもって現れた。

差出人はハルマンさん。なになに……


『おはようございます。お疲れでしょうから、この宿は3か月ほど借りてあります。

その間にどうぞご自由になさってください。家を借りるも、服や電話を買いなおすもどうぞ。

とりあえずあのお金で生活基盤を立て直してください。

保証人や何かしらの推薦などが必要な場合は以下の番号に電話してください』


ものの見事に放り投げられた感じだ。好きにしろって言われてもなあ。

裏面もある。


『もしあなたがあの世界に報復を願う場合は1の番号を、それ以外で私に相談がある場合は2の番号をおかけになってください

まあ、生贄になってまで救った世界ですから、報復を望まないであろうことはわかっていますが、これも手続き上必要なので』


さらっと怖いこと書いてある……

たしかに僕に報復する気はない。あの時も皆に言ったけど僕としては凡人が英雄になれただけ満足なんだ。


<どうする?手紙にある通り報復するか?>


カルマは悪戯そうに笑って見せる。


「まさかあ、わかってるでしょ。僕は英雄になって冒険できただけ満足だよ。

それにあの人に報復を任せたらロクなことになりそうにない」


一人のために一つの世界を敵に回す。かっこいいけど、その他大勢にとっては狂気でしかない。

だけどその狂気を平気で実行しそうなのがハルマンさんだ。


<では、生活とやらを立て直さねばなるまいよ。貴公の人生はこれからも続いていくのだから>



それから僕は家や電話、生活に必要な諸々を買ってとりあえず落ち着いた。

1か月はあっというまに過ぎて、ぼくはそろそろ労働の必要性を感じてきた。

ニートは1週間で飽きたし、何より鍛えたこの力を何かに役立てたい。


スポーツ選手とかどうだろう!力を使うには良いし、お金も儲かる!

よし、調べてみよう。


……だめだった。今のスポーツでは使用できる魔術や加護が厳格に決まっているらしい。

異世界の力はどうもまずいようだ。


かといって素直に退魔師や魔術師になるのもどうかと思う。

人生が戦いしかないってむなしいじゃないか。社会に出て働くってのもやってみたいしね。


というわけで僕は力仕事のアルバイトをいろいろと経験してみた。

引っ越し屋や道路工事、警備員。いろいろだ。


平和で、退屈だ。でも悪くない。何よりこっちの世界は娯楽に満ちている。

あっというまに半年が過ぎた。

そろそろお金も溜まったし冒険にも行ってみたい。いっそ海外旅行なんてどうだろう。

山奥の秘境にいって探検と冒険をするんだ。


<だが、そううまくゆくか?運命というものは力ある者を見逃しはしないものだ>

「いやー心配しすぎでしょ」


その言葉を実感することなったのはある雨の夜だった。


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