セカンドインパクト2
『大まかな方針を立てよう。まず目標は黒い霧の拡大を止め、可能ならば除去することだ。
そのために分析を行う。アレが何か解るものはいるか?』
スマートフォンの動画チャットで、全員参加の会議が開かれる。
議長はもちろん同盟長だ。
「うーん、あれかあ……カルマ、あれ分析できる?」
<試みてみよう>
僕は自分自身の能力に問いかけてみる。
<あれの名前は『無明の悪夢』百鬼内で製造された魔術兵器。量産型の創界法といえるもの。
その効果は霧の外と内を強固な結界で遮断し、内部の空間構造を自在に組み替えるものだ。
副次的な効果として異なる世界とこの世界をつなぐこともできる。
遮断効果は霧が一定範囲まで広がるとなくなるが、その時点で異世界との結びつきは分け難くなる>
よくわからないが、中は異世界とつながってむっちゃくちゃになっているらしい。
おまけに地形も術者の思い通りに組み替えられる。閉鎖した一つの世界ができてしまうだろう。
「で、破壊方法は?あとほっといたら広がるのが止まるっていうけどどのへんまで広がるの?」
<そうだな、このくらいだ>
頭の中で地図が広がる。兵庫県から南は全部覆われるわこれ……シャレにならない。
<破壊方法は術式の核となっている大仏の破壊だ。
それでこれ以上の拡大は防げるだろうが、現在出ている霧は時間による減衰を狙うしかない。
おおよそ20年はかかるだろう……>
「ありがとう、だいたい解った。お疲れ様」
なるほど、とりあえず大仏を破壊すればいいのか。
さて、どうしたものかな……目立ちたくない人なら黙っているだろう。
だけど、それは僕の好みじゃない。やりたいようにやらせてもらう。
『関西支部の明日来・明人です。僕には解析の魔法があります。解析結果を書き込みますね』
僕はカルマに言われたままを書き込んだ。
バカにされるかも、とは思ったけど意外と反応は好評だった。
『私もおおむね同じ解析結果よ。あの感じは創界法と次元接続の混成魔法。術式の核を潰せば止まるっていうのもいいアイデアだと思うわ』
『霧という形を持たせたことで量産を可能にしたのか……?ありうるな』
『発生源を潰せばとりあえず止まるというのは納得できる話だ。で、どうやって潰す。霧が侵入を阻むのだろう?』
なんと、すんなりと僕の意見が認められ、あの霧がそういうものだという前提で話が進んでいった。
『中が異世界と化しているなら方法はある。踏み切りや歩法で結界を通り抜けることはできはずだ』
『では、どうやって大仏を破壊する?こちらの最大火力であるHEAT弾ですら致命傷にならん』
ここで発言したのが常夫だった。あいつこんなにアクティブだったかな……いや、僕も人のことは言えないか。
きっと彼も染まったのだろう。狩人に、戦場の空気に。
『いえ、技術開発部に切り札があります。強化拡充外骨格の試作型です。それに開発中の魔術兵器を載せます』
『ほう、詳しく聞こうか』
『はい、試作型の名前は『ミグラント』複座型の大型航空タイプです。
ジェットエンジン搭載で結界さえ抜けられれば目標までおおよそ2分で到達します。
そこで、魔力炉式プラズマカッター、そして神性存在を素材とした寄生浸食型パイルバンカー、この二つで大仏を破壊します』
つらつらと常夫の説明が続くが、要はでっかいロボに3人で乗って大火力で叩き潰す、という頭の悪い案だ。
だが素敵だと思う。
3人の内訳は機体そのものを動かす運転手、FCS代わりに狙いをつける砲手、ロボに魔力を送る装填手、という役割らしい。
『運転手は高速飛行戦闘に慣れたもの、砲手は探知や解析魔法に秀でたもの、装填手はとにかく大火力の炎か電気を生み出せるものが適しています』
『では、自薦他薦を問わず志願者を募る。それと、確実性を増すために『ミグラント』の改良ができるものは開発部と合流しろ』
『んー、じゃああたしは関西支部の入間ちゃんにプラズマカッターを使ってほしいね。3000度の炎を生み出せるの入間ちゃんしかいないもの』
近くで入間さんがマジかよ!?と声を上げた。
意外にやる気ないなあ、入間さんは個人戦が好きなんだろうな。戦争となるとまた勝手が違うんだろう。
『では私はさっきの分析魔法を使った……ええと、アスク?さんを推薦するわ。それだけの分析ができるんならいけるでしょう』
マジかよ。
■
結局、僕と入間さんは運転手となる女性といっしょに『ミグラント』の前にいた。
まあ、なんだかんだで僕も入間さんも目立つの嫌いじゃないしね……
「ご苦労。時間がないので手短に説明する。20分後に霧の結界を一部破壊する。そこから『ミグラント』は侵入、ジェットエンジンで高速飛行しつつ接近。
プラズマカッターで牽制、なんとしてでもパイルバンカーを叩き込め。
叩き込んだのち、後転し帰還しろ。中は何があるかわからん。だがザコは相手にせず目標に向かって走り抜けろ」
「りょ、了解したのであります!」
パイロットの子が敬礼した。僕らも了解、と短く敬礼する。
「では主に装填手の入間に向けてだが……たしか君は怒りを火力にする術を使うのだろう?
その炎をプラズマカッターの魔力炉に流せばよい。あとはその炎を溜め、パイロットが適時振るうだろう。
と、いうわけで怒りの材料になるものを持ってきたぞ。あいつらの悪行だ」
「そりゃどうも。やる気が出てきますね」
スマホにいくつものえぐい写真が写される。
「ではまず……連中、兵站に最悪のモノを使っていた。この人間の子供に見えるものだが……
フレッシュゴーレムだ。ホムンクルスといってもよい。
肉や小麦を原材料とし、性欲処理から非常食、兵士にもなる。モラルもへったくれもないな。
そして奴ら、どうも人間にもこれを流していたらしい。娯楽用にな。ああもちろん都合のいい人格が書き込まれている」
うわあ最悪な代物だなあ。こんなん人間の軍隊に渡したら兵士がみんなサイコ野郎になるんじゃないかな。
「そして、救出できた民間人だが……見ての通りだ。一生廃人だな。
男まで妊娠させるんだからあいつらは生かしておく価値などない」
そんな感じの鬱々とした情報を5分ばかり。最初はだるそうに聞いていた入間さんもやる気十分のようだ。
「へー、さすが人でなしの軍隊、悪趣味だね。ぶっ殺すぞあいつら!多少の美学もねえのかよ!
ろくでもねえゴミ共だな、ダセえ、ダサすぎて怒りを通り越して呆れるよ。サイコ共がっ!頼むから死んでくれ」
ごう、と入間さんの腕の周りのホコリが熱で自然発火する。
『いいね、いい怒りだよ入間!調子が出てきたじゃないか!てっきり僕は戦場が怖いのかと思ったよ』
入間さんの使い魔であり怒りを熱に変換する力の源、「黒機炉」が嗤う。
「ああ!?やかましいわ最初から絶好調だ!俺の休日ごとぶっつぶしやがってあいつら!
ちょっとは戦場も楽しいって思った俺がアホだった!クズにも限度があるだろちょっと引くわ!
っていうかあんなゴミ共と戦ってて楽しいとか各方面への冒涜だよね!」
『そうそう、もっと怒って!それこそが君の力なんだ!理不尽に怒ることこそ、人間の勇気なんだから!』
小さな炎妖精って感じの「黒機炉」がケラケラ笑いながらまた煽る。
入間さんもあえて乗ってわざと怒りのテンションを上げてるんだろう。
……そうだよね?
「あの、アスクさん?でありましたでしょうか。入間さんはいつもあんな感じなんでありましょうか……」
パイロットの子が入間さんにちょっと引きながら僕に尋ねる。
「んー、敵に対してはだいたいそうかな。でもあれはあえて挑発したり魔法のために怒りを燃やしてるんだと思うよ」
「そ、そうでありますか……」
そんなことを言いながらも「ミグラント」は集まった技術系の人たちによってどんどん魔改造されていく。
うーむ全体的にしゅっとした流線形が多く、航空機を思わせるデザインだ。
背中には翼とロケットのようなジェットエンジン。
頼もしいことだ。
そして、いよいよその時が来る。
僕らはミグラントの操縦席に座り、パイロットの子は立ってコックピットに収まる。
何人もの魔術師系狩人が呪文を唱え、祈りとともに霧に穴をあけた。
「今だ!行け『ミグラント』!」
「了解!」
背中のジェットエンジンに火が灯り、殺人的な加速で機体がすっ飛んでいく。
「うっひょお!この加速はなかなかイカスでありますなあ!これなら生身では体験できない速さまでいけそうであります!
ひゃー!パイロットになってよかったー!私が!今こそ!最速の狩人!テンション上がってきたであります!」
君は君で大概だな!まともなのは僕だけか!
<いや、貴公も大概おかしい>
まあね!血に酔っているからね!こうしてイカレた狩人たちのなかでもとびっきり頭のおかしい3人が最後の希望となった。




