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セカンドインパクト1


作戦はフェイズ2に移行した。すなわちおびき寄せた敵軍に防衛陣地から集中砲火を浴びせかける。

空はロケット砲と魔法、投下される爆弾で花火のように彩られ、地面には双方から銃弾の雨が降る。

その中心ではロボットと大仏が叩き合っている。

控えめに言って地獄だ。


「先行部隊の皆、ご苦労。今は一端後方で休息しておけ。これは命令だ。

回復を優先し装備をととのえさらなる戦い備えろ。安心してくれ、まだ活躍の場はある」


そこの言葉ですばらしい、と笑う者、疲れはてて顔も上げられない者、いまさら冷静になってきたら怖くなってきて震える者、さまざまだった。

だが皆興奮さめやらぬ様子でぐったりと休息を取っていた。

なお僕は笑っていた方に入り、レイブン2に乗っていた常夫は震えている方に入っている。


ロボット対大仏の対決は佳境に入っていた。

大仏の神秘の剣に対しこちらはガドリングガンと大型ショットガン、さらに手にはプラズマブレード。

手数の多さで徐々に押しているようだ。


大仏の中にはヴァジュラをミサイルやビットとして使ってくる者もいる。

なるほど向こうも同じようなものを考えてたんだな……


歩兵同士の戦いは実に面白い。後方からM2重機関銃による援護射撃と大規模魔法による砲撃の雨の中で斬り合いつぶし合う。

その技の冴えはカンフー映画のような人体の限界を超えたすばらしいものだ。

一撃一撃が必殺故に誰も彼もさくりさくりとあっけなく死んでいく。みんな、笑いながら楽しそうに。


もっともっと戦いたかった、ああ楽しかった、そう死に顔が物語っている。


そして、誰も命を惜しまないが故に決着は一刻一刻と迫ってくる。

防衛に持ち出した火力でこちらが押している。

事実、大仏は小型のものは皆破壊された。歩兵もほぼ制圧できている。

だが、ただ一機、20mの大型大仏だけが残っている。


あれを倒せば終わりだ。そして、あれを倒さないと終わらない。


僕等はそこで攻めあぐねていた。装甲が分厚く、HEAT弾でも通らない。

となればそれ以下の手持ちの弾丸は役に立たない。残るは魔法しかないが、そこまで貫通力のある魔法は少ない。

なにより大仏も棒立ちではないし、防御魔法も展開しているようだ。


戦線は膠着していた。


『ふむ、やりおるのう狩人。で、あればここらが潮時か。勝負には負けたが、試合には勝たせてもらう。

つまり、予告しておった大量破壊兵器を起動させてもらう。もーちょっと進軍したかったがのー。

まあ諸君らの健闘を称えてこの辺で撃たせてもらうのじゃ』


面倒な事になった……と誰もが感じる。

あるいは、ふざけるな!とブーイングする声もあった。多分入間さんだろう。


『ああ、諸君は大仏を囮に少数部隊で進軍し起動させると思っておったようじゃがの?

実は例のブツはこのでかい大仏の中にあるんじゃよー。

読み違えたようじゃのう?あと大仏は普通に遠隔起動じゃよ?領地内からコントローラーで動かしておる。

と、いうわけでもうカウントダウンは始まっておるから頑張って止めてくりゃれ』


かっかっか、とラゴウの高笑いが戦場に響き、大仏を中心に黒い霧が猛烈な勢いで広がっていく。


『総員第三防衛ラインまで待避!急いでください!』


こちらは狩人側の放送だ。たしかにまずい。撤退だ。

どうやら、してやられたようだ。相手の方が一枚上手だった。悔しさに歯をかみしめながら僕等は撤退していく。



数キロ離れた第三防衛ラインで僕等は沈痛な表情で座り込んでいた。

黒い霧はゆっくりとだが確実に広がっている。

だが僕等が沈み込んでいるのはそれだけではない。


「ハルマンは?こんな時にハルマンさんはどうしたんです?」

「ニュース見ろ。予想以上に事はヤバイ」


命からがら生還した入間さんがスマホを操作する。この人も大概しぶといな。

スマホの画面には絶望的なニュースが流れていた。


『緊急ニュースです。アメリカ、およびEUで複数の勢力による独立運動が起こっています。

彼らは軍事的な武力により既存国家からの独立を求め、現在も現地政府軍と内戦をしています』


どうも世界中で日本と似たような状況になってるらしい。

つまり、ハルマンもおそらくはこの騒動の収拾に向かっているし、あらゆる軍隊も同様だ。

援軍はまったく期待できない。


『イギリスではアイルランドの独立を求めるIRAと過激派の魔法使いたちの合流派閥「エインヘリアル・ナイツ」がロンドンにテロを行っています。

未確認の情報ですが、パトリック・R・ハルマン氏が政府軍に協力しているとの情報もあります。さらにカタルーニャでも同様の……』

「な?ハルマンはイギリスで魔法使い共とやりあってる。これねえ。ちなみにアメリカはもっとヤベえ見てみろ」


チャンネルを変えるともっとヤバイニュースが流れていた。


『アメリカで複数の勢力が独自に独立を求め、魔術による結界で街ごと立てこもっています。

これより確認された独立運動勢力を読み上げます。

アメリカ保守層民兵の合流勢力「ラストベルト・ブラザーフッド」

アメリカ・インディアン運動「レッドパワード・スキンズ」

プロテスタント系教会騎士団「オーダー・オブ・バイブルベルト」

他数十の民兵組織が蜂起し「フライオーバー・カントリー」と称し、

ワシントン州とニューヨーク州を除いたアメリカ中部の複数の州によるアメリカからの独立を唱えています。

彼らは特にリベラリストや富裕層を標的に虐殺を行い、これに対しテキサスの州兵「テキサス・ステート・ガード」が独自に鎮圧に乗り出しているようです……』


なにこのカオス。何が起こってんの。


「うわぁ……なんですこれ」

「要するに頭お花畑な金持ちに対して貧乏人がキレたんだよ。

そこに妖怪や魔術師が手ぇ貸したか、そそのかした。とんでもなくヤバイことになってんな世界。

そりゃこんな日本の小競り合いに出てる暇はねえわ」


テレビの映像では見覚えある黒い霧がアメリカの街を覆っていた。


『ごらんください、魔術結界と思われる黒い霧によりデトロイトが覆われています!この現象は世界各地の内戦でも同様に確認されているようです……』

「これって、見たことありますよね」

「ああ、アレだな。やられたわ。多分日本のは陽動だ。あいつら世界同時革命しやがった。頭おかしいんじゃねえか。

アラブの春の西側版だな。これ絶対ロシアと中国が一枚噛んでるわ……

クソが!どうしろってんだよ常識ねえのかあいつら!あったらこんなことしてねえな!知ってた」


同じように他の狩人にも絶望感が広がっていく。

事は世界レベルだ。もはや自分たちのしている内戦ではない。

時代そのものが敵になったような感覚にぼくらは立ちすくむしかなかった。


「落ち着け入間、明日来。まずは我らは我らのやれることをやるべきだ。

絶望するにはまだ早い。まずはこの場を納め、生き延び、情報を集めようではないか。

おろおろしていてもどうにもならん。できることをすれば良い」


大きく暖かな手が僕等の肩に置かれた。うちの支部長で力士の斎賀さんだ。

その顔には動揺はない。ただ静かな闘志があった。


「……そうですね、やれることをやれるだけやりましょう」

「それな。やるんなら前のめりに行くのが俺ららしいわ」


同様に他のリーダー格の狩人達が混乱を収めていく。

そうだ、僕等はまだ負けていない。まだ生きている。この混乱の中にあってちゃんと団結できる仲間がいる。

不安が晴れていく。膝に力が入る。まだだ、まだいけるはずだ。


『同盟長の獅子吼達也だ。皆、ニュースは見たな?知っての通り日本における小競り合いは陽動に過ぎなかった。

我々は一杯食わされた。状況は流動的で情報も錯綜している。時代そのものが襲いかかるような、気の遠くなる事実だろう』


陣地内のスピーカーが同盟長の声を流した。不安な情報を言っているが、その口調にはまったく動揺がない。

やはり、闘志に燃える声だ。


『……だが、それがどうした。

では諸君、事実に打ちのめされ、諦めるのかね?やるべきこともやらずに?めそめそと泣いて殺されるのを待つのか?

違うだろう!むしろこんな時のために鍛えてきた力ではないのか!

この混乱の中こそ、戦える力を持った我々が義務を果たすべき時だ。

やるんなら前向きに、前のめりに、だ。全ての手を尽くして悪あがきしようじゃあないか。

やるべきことをやれ、最善を尽くせ。我々は、まだ生きているのだから!』


冷めた絶望が漂っていた陣地内の空気が変る。

消えかけた炎が風にあおられて息を吹き返すかのように。

皆の胸に静かな闘志が宿った。


反撃の時間だ。


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